人生カタログから選ぶ次の人生は?

ちびまるフォイ

選ぶなら自分にあった人生を

「どの人生にするか決まりましたか?」


「うーーん。悩みますね」


人生カタログを眺めながら、どれが自分に合うか考え始めると終わりがなかった。


「あなたの次の人生ですからゆっくり選んでいいですよ」


「そうですよねぇ……うーーん」


「なにで悩んでいる感じですか?」


「この、イージーハッピーな人生と、ジェットコースター人生で悩んでいるんです」


「イージーハッピーな人生は何をやってもそこそこ上手くいき、

 たいした苦労もせずに人生を楽しく過ごしたいという人におすすめですよ」


「うーーん」


「ジェットコースター人生は毎日が奇想天外。

 ハプニングと刺激に満ちた人生があなたを待っていますよ」


「どっちも魅力的だなぁ……」


こうなると袋小路に入ってしまう。

昔からなにか決めるのにも非常に時間がかかっていた。

とにかく自分の選んだ選択肢を後で「失敗したなぁ」と思いたくなかった。


「でしたら、一度体験してみるのはいかがでしょう」


「体験? そんなことできるんですか」


「ええ。どちらが自分の人生にあっているか、試供品と同じく試せます」


「ぜひ! どっちの人生がいいか試させてください!」


まずはイージーハッピーな人生を試すことにした。

新しい人生では赤ちゃんパートをすっ飛ばして、多感な少年時代からはじまった。


学校では友達も一定数いて、両親との関係もよかった。

勉強もそこそこできて何不自由なく充実した人生が待っていた。


努力すれば結果は帰ってくるし、周囲の人はみんないい人ばかり。

ストレスフリーな人生は少し薄味に感じた。


人生体験時間が終わるともとの場所に戻された。


「いかがでしたか?」


「楽しいのは楽しいんですけど……普通に感じました」


「でしたら、次はジェットコースター人生をお楽しみください」


「きっとこっちのほうが自分にあっているはずだ」


期待と不安を胸に次の人生体験がはじまった。


ジェットコースター人生は毎日何が起きるかわからない。


朝起きたら天井に穴が開いて鉄球が落ちていたり。

学校にいくと友達が全員性転換していてリアクションに困ったり。

なぜか自分が歌舞伎俳優としてすくとされたり。


波乱万丈すぎて息つく暇もない。



ふたたび人生体験時間が終わって、元の場所へと戻った。


「おかえりなさい。ジェットコースター人生はいかがでしたか?」


「ちょっと……毎日の情報量が多すぎて疲れました……」


「刺激的だったでしょう?」


「それはそうなんですけど、毎日飛んでくる刺激の数が多すぎて……」


「お気に召しませんでした?」


「そうですね……うーーん。どうしよう……」


一度、人生を体験さえすれば自分の求める人生がわかるかと思った。


けれどいざ体験したことで見えてくる不満点がわかってくると、

ふたたび人生選択は暗礁にのりあげて座礁した。


うんうん唸るばかりでいっこうに決まらないのを見かねたのか、

人生コンシェルジュはふたたび人生カタログを見せた。


「お客様。こちらのよくばりクォーター人生はいかがでしょう?」


「なんですかそれ」


「4つの人生を組み合わせてひとつの人生とするプランです」


「おお! それよさそうですね! 最初から教えて下さいよ!」


ジェットコースター人生もずっとそればかりだと辛いので、

よくばりクォーターで分割すれば人生のいいエッセンスになるだろう。


「よくばりクォーター人生では、人生を100年としたときに25年ごとの人生を選べます」


「それじゃ、これと、これと、これと、これで」


選ばれた人生設計をコンシェルジュは書き留めた。


「こちらでよろしいですか? "地獄の人生"が含まれていますけど……」


「いいんです。よく見てください。後半の人生になるにつれ幸せになるように設計してるんです」


「本当にいいんですか?」


「わかってないですね。あえて空腹を作ることでより美味しく感じられることもあるでしょう」


「……では次の人生をはじめますね」


「お願いします」


人生選択をよくばりクォーターにして次の人生がはじまった。



次の人生がはじまると、まさに地獄そのものだった。


両親からは虐待され友達もいないので相談もできず。

学校ではいじめられて、家にも学校にも居場所はない。

虐待の影響で体は不自由になり、さらには難病におかされた。


「こんな人生……もう嫌だーー!」



あと10年も地獄人生パートが続くと思うと耐えきれず

人生はまだ90年ほど残っていたがそれを待たずに自殺した。

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