第一章 真夜中の宴 -5-
「どこが」
「みんなでパーティーできたらなぁって」
「みんなって誰」
「妖精も人間も、みんなだよ」
「はっ! 誰もやりたくねぇよそんなクソパーティー」
折り畳むように、ミーナの言葉に被せて言い捨てるイラインの言葉は冷たく、悲しいけれど。
妖精と人間は非常に仲がよろしくない。
それは干上がった地面の亀裂がどんどん裂かれていくよりも明白で、由々しき事態。
でも今はまだ、仕方がないのだ。
互いが歩み寄るのに時間がかかるのは当然、険しい崖はその分苦労と時間を惜しめない。今日明日でどうにかなる問題ではないのだから、焦ったところで空回りするだけ。
もっともっと相互理解を深めて、あわよくば仲直りの握手もできるようミーナが奔走すればいい。
ミーナが決意を固くしたところで、ピラティがイラインの頭を叩いた。
「そんな言い方可哀想でしょ、バカ」
「ほんとう。馬鹿だなあ」
ミモラも加えて加勢する。
「本当のことじゃんか。ピラもミラも嫌な癖に」
「嫌とかそういう問題じゃなくて、人を傷付ける言葉遣いをやめなさいって言ってんの」
「それならお前、俺にも優しくするんだな」
イラインが得意げに指を突きつけるが、ピラティは既にミモラへ目を逸らしている。
「ねえどうする? 輪、崩れてきたけど再開できるかしら」
「うーん難しいねぇ。綺麗に描けてた中途半端な円の上に整列してたら、興が削がれるもんなぁ」
「でしょうね。別の場所に移動するのも同じ、ここで並ばずに始めるなんて中途半端の二乗」
イラインは放り出されて、何やら話し込み始めた二人に牙を剥く。
綺麗な白い歯が眩しい。
「イライン」
「……あ?」
「私、半分人間だから、イラインは私の半分しか好きじゃないの?」
答えなんて分かっていた。
イラインは嘘が吐けない。だから、ミーナは完全に落ち込まずに済むのだ。
半分人間のミーナでも、きっと彼は半分だけ嫌いになるなんて、複雑で難解な感情を持てないほど単純だから。
地面に座り込んで胡坐を掻くイラインは現に戸惑い、応えあぐねている。
「べ、別に嫌いなんてわざわざ本人の前で言ったりしねえよ。俺は人間大っ嫌いだし、ミーナは……ほら、妖精だろ?」
「半分だけね」
「……は、半分でも妖精だろ!」
好きの二文字が言えない恥ずかしがりやなイラインが、どうしようもなく面白い。
「みんなー! 今日の踊りはここまで! 解散はフクロウがあと三回鳴いたらね」
声を張るのはピラティ。今日集まった妖精のメンバーは同年代の集まりで、リーダー役はピラティが引き受けている。
とっぷり陽が暮れ過ぎて霜の出始める、多分午前四時。
森の中でひっそりと息をする、小さな草原。
月に照らされて、場所に困った妖精が見つけた宴の会場には、妖精の不完全な輪が残される。
――やがて、フクロウは三回鳴いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます