第一章 真夜中の宴 -4-



 ミーナは妖精の食べ物も好きだけれど、夜露もどんぐりも料理すれば人間の食べ物に近くなる。プチプチする食感のアリの卵はバジルシード、ネズミのヒゲはゴボウ。

 ものは違っても代用できれば、みんなでおいしく食べられる。


「バジルシードとゴボウ、イラインは食べられる?」

「はあ?」

 素っ頓狂な声を出してイラインが不意に踊りを止める。


 ミーナの決して上手とは言えないダンスは滑稽な操り人形で、反応が遅れ、ブレーキの利かない足はそのままイラインに突っ込んでしまう。

 元々テンポの速い踊り。後ろの人も続々と前の人にぶつかり、「あだっ」「いでっ」と潰れた声が連鎖する。


「こらあー!」

「何やってんだイライン!」

「っ! わ、わりィ」

 ドミノの如く、ぼふぼふ崩れていく妖精の輪に、さすがのピラティも演奏を止めて近寄ってきた。


 何だ、何があった、と倒れなかったエルフたちもわらわら集まって、エルフの纏うきのこの胞子がレールを飛び出す。

 今度の輪の中心になったのはイライン。

 そのイラインと仲が良く、一つ手前で踊っていた、白みを帯びた金色癖毛のミモラはイラインの肩に手を回し、ケタケタ笑った。


 ミモラの方が頭半分低い身長。同い年なのに、なぜか一回り大人びて見える。

 不意に中断されたダンスの輪に戻ってきたピラティが、不満気に横笛を持ったまま腰に手を当てた。


「なあにイライン、踊り方も忘れたの?」

「そうそーう。イラインったら、急にすっ転ぶんだもん」

「ミモラは適当な嘘吐かない」

 ぴしゃりと言い切るピラティは高圧的で、彼女を睨むイラインはさながら小型犬。


 キャンキャン吠える視線だけの威嚇なんて怖くないと、ピラティは鼻を鳴らして蹴散らした。追い込むミモラは、ひくつくイラインの右頬をちょいちょい突っつく。

「これはっ! ミーナが変なこと言うから!」


「変なこと?」

 ピラティがミーナに視線を向ける。

(――変なこと?)

 ミーナは首を横に振った。


 例えばきのこの胞子が雨に濡れたとして、そこから生まれる銀の雫と妖精の羽が同じ物質でできているとか。

 角砂糖の家に住む埃の粒くらいの大きさの、守護妖精である家付き妖精、ブラウニーが存在するとか。

 寝ている女性の寝室の、鍵穴の隙間からテンポのずれたダンスを踊ってやってくる強姦魔のインクブスはオカマだとか。

「言ってないよ、私」


 ピラティはイラインに視線を戻した。

「だ、そうだけど」

「嘘つけ! いきなりどんぐり好きだよねって、オマケにバジルシードとゴボウ食べられるかって聞いてきたじゃねぇか!」

「変なことじゃないよ。ちゃんと筋あるもの」

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