第一章 真夜中の宴 -3-
『ダークエルフ』の別称は『ブラックエルフ』。
ライトエルフと対になる邪悪な存在で、地下に棲み、土よりも暗い色をしているのが特徴。色が違うのだから、見分けは簡単につく。
出会ったら警戒していないと、何をされるか分からない。「真っ黒エルフ、近寄るな 急いで鉄を抱きしめろ」とはこのこと。
『鉄』は妖精の苦手なもので、苦手といえば他には『聖書』『十字架』『赤い糸』『塩』『鈴』『ナナカマド』がある。行為としては『三度叩かない』『理由をたずねない』など。
ここからも解る通り、妖精は人間とは全然違う。好きなもの、嫌いなもの、言うまでもない常識、全部違う。
ミーナの母はシャーロットという王族の血縁者だ。
艶やかな黒髪は艶美な緑の輪を作り、けれど目鼻立ちの濃い魔女とは別の、柔和な顔立ち。
そして、ミーナの父は妖精王ミディル。
ティール・タルンギリという異国を治める妖精の王様で、人間に恋をしたため放浪の吟遊詩人に身を窶した、妖精の変わり種。
ミーナは人間の王族と妖精の王様から生まれた異端の子なのだ。
違う同士が掛け合わされて、人間の妖精、もしくは妖精の人間として生まれた真ん中の存在。
ちょっと特別な、中立こうもり。
人間にとっても、エルフたち妖精にとっても。どっちにも属しているから、どっちでもない。
ミーナにはピラティやイラインのようなライトエルフ以外にも妖精の友達がいるし、人間の友達だっている。
両者とも、ミーナにとっては同じくらいに大切な友達だ。
今はまだ。
妖精と人間との間には溝があるけれど、いつか全員でパーティーを開けたらどんなに楽しいか。
談笑しながら料理をつつき、手を取り合って踊り明かす。
妖精が人間にチクリとした痛みで不満を伝える『フェアリーピンチング』は戯れの小突きあいに変わって、人間に一杯以上ミルクとクリームを貰うと逃げ出してしまう妖精も、共にたくさん食べ、飲み交わすことができたら。
鮮やかに想像できる光景に、ミーナは頬の緩みを抑えきれなかった。
たくさん踏まれて跡が残りつつある草の上をなぞるのは全員。どんどんと輪は完成していく。
前を踊るイライン。時折チラチラと蜂蜜の目が覗き見えて、ミーナを心配しているのだと分かる。
「イライン、どんぐり好きだもんね」
「――は?」
ピラティはすみれの花びらに乗る夜露。妖精と人間とでは食べるものも大分違うが、二人の好物はまだ優しい方。アリの卵やネズミのヒゲが好物な妖精だって多い。
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