第一話 エルフの太矢
第一章 真夜中の宴 -1-
なんじエルフに烙印を捺されたる、うまずめの、愚鈍な豚娘。
――ウィリアム・シェイクスピア『リチャード三世』より
一八七七年四月。イギリスハイランド地方スカイ島、ウィグ村。
小さな島の小さな村で、それは行われていた。
陽のとっぷり暮れた真夜中の宴。
木々の合間から見える藍色の空は高いところで星を纏い、ミーナたちはウィル・オ・ザ・ウィスプが照らす中で踊る。飛び跳ねるようにステップを踏み、次へ次へと急く気持ちすら追い越すハイテンポなダンス。
森の木の葉も風と手を組んでザワザワと、楽しそうに身体を震わせた。
軽快な曲を奏でるのは金髪のエルフ。
輪を作って踊るのも、曲に合わせて歌うのも、花の蜜を飲み交わすのもエルフだ。
(でも、同じこの場にいる私は――?)
右に纏めたベージュの髪を押さえ、そっと目を瞑ったのもつかの間。
「ミーナ、考えないで踊ろう? こんなに楽しい夜更かしはないよ」
眉間を解すように人差し指がぐりぐり円を描く。
エルフのピラティはしっかり者の女の子だ。尖った耳は妖精そのもの、蕩ける蜜の金色は胸元までで、蜘蛛の糸くらい細い髪はそよ風に簡単に掬われる。
今も。
「ほーら、もう休憩は十分でしょ?」
男勝りな彼女はミーナの言葉を待つ前にうずうずし、眉間に添えていた指を、そのまま目の前に差し出す。
「踊ろう、ミーナ」
引かれて立ち上がり、そのままエルフの輪まで連れていかれる。
上手く踊れないけど、楽しむのが目的のこの場所で上手い下手は関係ない。ミーナは今までも不格好なステップを何度となく晒していた。羞恥は抱く前に麻痺状態だ。
ピラティはミーナを引っ張ったまま強引に輪へ乱入すると、そのまま前を飛び跳ねる、イラインという男のエルフの首根っこを掴み、輪から引っこ抜いて捕まえた。
サラサラの金髪はピラティより少し黄色を帯び、蜂蜜というより金貨。
エルフというのは一概に美男美女。それも、とびっきりの。
思わずため息を零す黄金の髪。活発な者やおしとやかな者はもちろん。多少の個人差はあれど、全員に共通するのは神が丹精込めて作ったのだと確信する、非の打ち所がない顔の造形。
うっとりと見惚れるのは人間。ミーナもけれど、やっぱりそう。
うなじで短い髪の先が左右に分かれ、その眩さに緑の帽子が色褪せて見える。振り返る吊り目がちな、これは少し蜂蜜色の瞳がピラティを睨め上げた。
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