夕焼けが足りない

@ABnakahodo

自転車置き場で 空を見上げるのがいい

そこに風でも吹いてくれれば なおいい

そんなとき 携帯電話の電池でも切れていて

何か大事なことや 大した事じゃないことや

君にとってはものすごいこととか

僕の中では手痛いことなんか

でも

聞きそびれたりなんかするのがいい

のに

イカはものすごいとこまでも使えるらしい

と制服の君が言う

イカのものすごいとこというのが

君にとってどこまですごいことなのか

よくよく聞けば イカの耳も使うとか

そうか君にとってはそんなにすごいところでも

君の耳のほうがずっと感じる

なんてのは言えない

案外そうでもないのかもしれない

けれど

そういうことですごいことを望む

ましてや

イカの墨でソースを作ることや

その内臓で魚醤油が作られることなんか

知らなくてもいい

いい

もういい

体育館横の自転車置き場で

剣道部の練習の声が聞こえてくると

僕は

もう夕焼けを待っているように空を見上げ

商店街の方向へ歩き出す

魚屋の前ではきっと

夕焼けが足りないと 

うつ向いてしまうのだろう


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夕焼けが足りない @ABnakahodo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る