奴隷商人スネイルとダークホース美少女奴隷アレッタ
リレントレス帝国。この大陸でもっとも強大な国家であり、最大の版図を持つ大陸の覇者。
そんなリレントレス帝国の帝都フィアフルの中心部に聳え立つリレントレス・パレス。その目の前に作られた、帝都フィアフルでもっとも広大な空間であるフィアフル大広場にて。
帝国内でもトップクラスに有名な奴隷商人のひとり、スネイル・トレイターは、つまらなさそうな面持ちで現在絶賛開催中の奴隷競売を眺めていた。
「はぁ……」
このリレントレス帝国には奴隷制度が存在し、皇帝の承諾のもと合法的な奴隷の売買が行われている。奴隷競売はその名の通り、帝国認可の人売りが出品する奴隷たちを、スネイルのような奴隷商人や金持ち、その他カネに余裕のある一般市民がオークション形式で競り落とすイベントである。
商品として表に出てくる奴隷たちは、ダンジョンへの挑戦に失敗して一文無しになった冒険者や、食い扶持を減らすために売りに出された農村の若者、戦乱の最中に人売りに捕まった被害者など、様々なバックグラウンドを持っている。
「さあさあ、お次はまだまだ働き盛りのこの男ですよ! 銀貨五十からのスタートです!」
「百!」
「百五十!」
帝国認可の人売りに縄を持たれ競売場へ姿を見せる奴隷たちの表情は一様に暗い。それもそのはず、この場に引き立てられた理由が自らの責によるか否かに関わらず、彼らはみな、これまでに己が享受していた一般市民としての権利を失うことが確定しているからだ。
どうかせめてまともな主人に買われますように――。凍え果てた心の底で、彼らが願うはその一点。さもなければ、未来は暗い。
「今日はビビッとくる美少女奴隷、来ませんねえ……」
いやがる美少女奴隷を手篭めにしたいという難儀な性癖以外は比較的まともな男スネイルが自身の邸宅――金蛇の花園に迎えることを許す奴隷の基準は単純明快。
自分の心と股間にビビッとくる美少女か否かである。そういう奴隷はえてして値段が釣り上がる傾向にあるが、たとえそうだとしても大抵の奴隷を競り落とせるだけの財力がスネイルにはあった。
ただ、残念ながら今日は、そんなスネイルの要望を満足する美少女奴隷が競りの舞台に上がってくる様子が見えない。そのために彼は肩を落として競売の行く末を眺めていた。
「まあまあ。そういつもいつも上手くいくわけないって、スネイル様。元気だしなよ」
そんなスネイルを慰めたのは、彼の隣に控え、主人と同じように奴隷競売を眺めていた美少女奴隷――アレッタだ。
桃色の髪の毛をポニーテールに纏めた彼女は
身軽さが命の
スラリと均整の取れたしなやかそうな体つきと、呼吸するたびにぴょこりと揺れるポニーテールが印象的だ。
帝国内では色々な意味で有名なスネイル。その隣に立ち、親しげに会話を交わしている年若の美少女アレッタ。組み合わせが組み合わせなこともあって、ふたりは周囲の耳目を引いていた。
「慰めにもなりませんよアレッタ。私の夢はいつ叶うのですかね? いやがる美少女奴隷を手籠めにしたいという、この、果てしなく遠大な夢は」
「一生叶わない方が良いんじゃないの、そんな夢」
冷たく吐き捨てるアレッタ。普通に考えていやがる美少女奴隷を手籠めにしたいなんて夢を抱く方がどうかしているのだ。
「言ってくれますね。なんなら君を手篭めにしても良いのですよ」
「レティ姉よりあたしを取ってくれるならやぶさかじゃないよ」
「……ほらそういうことを言う。興が乗らないんで本当やめてくださいよ」
嘆息しながらかぶりを振るスネイルを見て、アハハっ、と快活に笑ってみせるアレッタ。わりと本気の一言だったのだが普通に躱されたので内心舌打ちしているのはご愛敬である。
冒険者としても、花園の美少女奴隷としても、その頂点に輝いているのはいつだってレティだ。アレッタだって一端の冒険者、加えてスネイルの美少女奴隷であるがゆえに、王座を譲る気配など微塵もないレティに対し思わぬところがないとは言えなかった。
もちろん口には出さないのが出来る美少女奴隷スタイルだけれども。
「まあそれはそれとしてさ、スネイル様。今日の競売はお眼鏡にかなわなさそうなんだよね?」
「ええ、これ以上眺めていても時間の無駄かと」
「じゃあちょっと付き合ってよ。最近美味しいお店見つけたんだよね」
アレッタ、攻める。トレイター商会の主であるスネイルは日々忙しい時間を過ごしており、花園の執務室で書類にひたすら目を通していることが常だ。
やかましい美少女ツインテ奴隷のロサや、歩く清楚と名高い美少女黒髪奴隷のクロユキらが引き起こす騒動に巻き込まれては色々な意味で搾られていることも多いが、基本的にスネイルの自由時間というものは貴重である。
そしてたまに降って湧いたスネイルの自由時間も、大抵は最古参の元美少女奴隷レティか、人気ギルド受付嬢ラクシャが静かながらも有無を言わせぬ勢いでかっぱらっていく始末。
古参とは言い難く、さりとて新米とも呼び難い。されどもスネイルへの慕情は他の美少女奴隷たちにだって負けてはいないアレッタにとって、この状況はチャンスであった。
敬愛する主――スネイル・トレイターを独占する好機が、目の前に転がっている!
「食事処ですか? 言われてみればもうそろそろ正午を回るところか……」
「そうそう、だからお昼にしないかなあって」
「ええ、構いませんよ」
アレッタ、内心で渾身のガッツポーズ。自然な流れでスネイルを食事に誘うことに成功。まずは一段階目の障壁クリアだ。
「どうせなら他の娘たちも誘いましょうか?」
「えっ!?」
しかし続けてスネイルの口から放たれた発言に、アレッタは一度体勢を乱されてしまう。
スネイル・トレイター、性癖はクソながらも性質はそれなりに善良な男である。まだ年若い美少女奴隷であるアレッタにとっては、同僚たちを交えた食事の方が楽しかろうとの心配り。
まったくの要らぬお節介であったが、ある意味では奴隷の主人として正しい姿と言えるかもしれない。
「あー、いやでもレティ姉は今ダンジョンに潜ってるし、ラクシャ姉も仕事でしょ? ローナもカタリナもネメシアも、っていうかほかのみんなもそれぞれ仕事なり自由時間なり楽しんでるだろうし、急に呼びつけるのも悪くない?」
「そうですか? まあそれもそうですかね」
(……っし!)
アレッタ、二度目のガッツポーズ。今日非番のクラリスとかルーシィとかは呼んだら普通に来そうなのであえて口に出さないのが出来る美少女奴隷スタイルである。
特にクラリス、あのムッツリ美少女ドスケベシスター奴隷は声をかけたら最後、這ってでもやって来て、スネイルの使用済みカトラリーをそっと懐に回収するだろうという確信があった。
同期のアレッタは知っているのだ。恍惚とした顔でスネイルの使用済みパンツを舐めていたあの女の本性を。
ちなみに、アレッタにはクラリスの変態ぶりをスネイルに密告するつもりはない。……自分もお世話になってるときあるので。
「王国産の翡翠級魔牛のステーキが目玉料理なんだよね」
「ほう。しかしそのようなレベルの高い料理を出すのであればこの私の耳に届いていてもおかしくなさそうなものですが……」
「あっ、ほんとについこの間できたお店みたいだよ? だからじゃないかな」
自他ともに認める食通のスネイルである。アレッタが言う通りの高級ステーキを供する店であれば己の耳に届いていないのが不思議なくらいだと訝しんだが、アレッタは内心の動揺を隠すことなく鉄面皮を被って誤魔化して見せた。ダンジョンで脇腹に風穴開けられた際に後輩を動揺させないために気丈に振舞ったときよりもさらに感情を隠す仕事ぶりだ。
そう、この店、スネイルのような食通に耳に届いていないのもまあ無理はないのである。だってそもそも美味しい料理を出すのがメインのお店じゃないのだから。
(美味しいコース料理を出してくれる高級店の姿はあくまでも表向きの姿――。しかしてその実態は、レストランとホテルが合体した連れ込み宿よ――!)
帝都に住まう人間の、限られた客層のうち、さらに限られた存在しか知ることのない高級連れ込み宿――それが、アレッタがスネイルを連れて行こうと目論む美味しい料理屋の真の姿であった。もはやこの女になりふり構う余裕はないのである。
「あたしは今日、ダンジョンの斥候として鍛えぬいたこの肉体で――キメる」
「何か言いましたかアレッタ?」
「あっ、ううん、何もないよ。さ、いこスネイル様っ」
「え? あ、ああ、はい……」
自身の左腕にするりと腕を絡めてくるアレッタに少しだけ、ほんの少しだけ背筋に冷たいものが流れるのを感じながら、それでもスネイルは彼女の善き主人として己が捕食場へと足を向ける。
アレッタにとってのメインディッシュは翡翠級魔牛のステーキなどではなく、己のその肉体もとい肉棒であるということなど、露とも思わずに――。
そういうところが甘いんですよね、この男は。
奴隷商人はいやがる美少女奴隷を手篭めにしたい(でもできない) 国丸一色 @tasuima
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