第10話 孤独
『孤独に耐えられる者だけが闇を征服できるであろう』
異世界の文字で、そんな言葉が刻まれた石碑を見つけた。
その石碑の奥には如何にもと言った門が存在する。
スケルトン、リッチ、ゾンビ、等ここに出て来る魔物はどれもアンデッドだった。
その最奥にいるのは黒いローブを纏った人型の何か。
門の奥に見えるのはこの神殿のボスモンスターなのだろう。
「圧力が凄いねアレ。この距離でもバシバシ感じるよ」
いや、俺は全く感じませんけどね。
柊さんはゴブリン系列のスキルで感覚が鋭くなっているのだろう。
そんな彼女がそう言うのだから、あいつは今までの敵とは別格って事になる。
『勝てそう?』
「分かんないや。でも甘くはないと思う」
最善は一度草原まで戻り別の神殿も調べて勝てそうな奴から挑んでいくって物だ。
まぁ、相手の情報も何も無いからあれだけど。
初級鑑定を使ってみるか。
リッチとかスケルトンには使ってなかったから忘れてた。
『デスストーカーLV75』
わお。
俺たちまだ上限レベルが50なんですけど……
「ねぇつっきー、私は
俺の彼女が戦闘狂過ぎる件について。
でも、本当の最善を視るのなら戦って勝つ事だ。
そうすればクラスメイトたちに一歩差を付けられる。
逃げるなんて癪だけど、今でもあの勇者集団相手にどれだけ戦えるか分からない。
あいつらはミノタウロスやリッチなんかよりよっぽど強かった。
『分かった』
そして俺は柊さんと一緒に戦えば、ここらで敵は無いとも思うから。
『行こうか』
「つっきー、もし――になったら思い出してね」
『え?』
「私は貴方の事が大好きだから」
そう言いながら、俺を纏った彼女は門を潜った。
――――
――――
『なぁ、お前柊と付き合ってるってマジ?』
そこは教室だった。
「え?」
驚いた僕の声に僕は内心もう一度驚いた。
(声が出る……?)
手を見てみると肌が見える。
服は学校の制服だ。
「戻って来た?」
そんな馬鹿な……
俺は確か柊さんと一緒に……
一緒に、何してたんだっけ……?
「なぁ、俺の話聞いてっか?」
そう言って俺の顔を覗き込んでくるのは浜村良太というクラスメイトだ。
霧宗裕也とよくつるんでいたが、その印象は世渡り上手な感じ。
「ごめん、何の話だっけ?」
それでも俺とはスクールカーストで大と小の差がある。
「だから、柊とお前が付き合ってるってマジかよって聞いてんだよ」
「え、俺が柊さんと……」
そうだ。
俺は柊さんに告白してそれでオッケーを貰ったんだ。
あれでも、どうして告白何てしようと思ったんだろうか……
「そ、そうだよ。つきあってる」
相手は確信を持って俺に問いかけているみたいだ。
だったら嘘をついても仕方ない。
「マジかよ……」
「なんであんな奴と」
そんな声が周りから聞こえて来た。
え?
よく辺りを見渡す。
クラスメイトたちが俺の座った席を囲む様に立って居る。
というか俺が座る席以外の椅子と机は無く、俺がクラスメイト全員から取り囲まれている様な構図だ。
そして教卓に居るのは先生ではなく、このクラスの代表とでも言いたげな生徒。
霧宗裕也。彼の顔を見ていると何か怒りが湧いてくる。
けれどそれが何故か思い出せない。
「お前何裕也君にガン飛ばしてんだよ?」
浜村良太が俺の顔を掴む様にしてそう聞いてくる。
「い、いやそんな事……」
「で、君はどうするつもりかな?」
霧宗裕也が俺に問う。
まるで自分が裁判長だとでも主張するように。
「な、何が……」
「何がって、君と四葉が釣り合う訳ないだろう?」
その言葉は俺の頭にすッと入って来て、まるで呪いのようにのしかかる。
相手は明るく可愛く、スクールカーストも上で、俺なんて話しかける事も憚られる様な存在。
対して俺はただのオタク。
クラス内では気持ち悪がられる存在だ。
よく見れば、この場には柊さんだけが居ない。
俺はやっと理解した。
つまり、この会議というか裁判と言うか公開処刑は、俺と柊さんを別れさせようって物な訳だ。
「なぁ、教えてくれよ。どんな餌で釣ったんだ?」
「弱みに付け込んで脅しでもしてるのか?」
「お前みたいな奴が付き合える訳ないんだからそうなんだろ?」
「それとも金でも渡したか?」
「本当に気持ち悪いな」
「少なくとも、お前なんかが好かれる訳ないだろう?」
「自分の顔、見てから告白しろよ」
「少なくとも、四葉は君の事なんて好きじゃ無いよ?」
「なぁ、彼女の事を考えるなら早く別れろよ」
クラスメイトたちから、そんな言葉が浴びせられた。
俺を否定する言葉。
俺の存在価値を無にする言葉。
そうだ。
そうだった。
俺はずっとこんなんだったんだ。
クラスじゃオタク友達と声を潜めながら話す様な奴なんだ。
要望なんて誰にも言えないし、自分の意見なんて通る訳もない存在。
クラスの中じゃ、俺なんて居てもいなくても同じな存在。
けれど柊さんは違う。
誰もが必要としていて、どんな人からも好かれる様な存在。
俺とは不釣り合い。その通りだ。
「俺は……」
「なんだよ!? 聴こえねぇぞ!?」
俺の声に被せる様に浜村良太が叫ぶ。
その堂々とした態度は、俺とは雲泥の差だ。
『つっきー、もし一人になったら思い出してね』
あぁ、そうだ。
俺は柊さんの声を思い出した。
『私は貴方の事が大好きだから』
「あの人は恥ずかしがりやな人なんだ!」
「あぁ? 何言ってんだテメェ」
「だから、好きなんてそんな簡単に言う人じゃ無いんだっつってんだよ!」
俺は席から立ち上がり、霧宗裕也を睨みつける。
「テメェみたいなバカとは違って、優しくて思いやりのある人なんだよ!」
それが俺に好きなんて言ってくれたんだ。
だったら、俺がこんな所で手間取ってる場合かよ。
「俺は柊四葉が大好きだ! 文句があるならかかって来いや! ステゴロでぶっ飛ばしてやんよ!」
少なくとも、クラスメイトに剣を向けるような事をあの人はしない。
柊さんはそんな尊敬できる人で、お前は剣を向けるような馬鹿だから。
俺はお前が全く怖くない。
「見下してんじゃねぇ。小せぇ癖に」
俺がそう言った瞬間、教室が割れる様に崩れていく。
――
――
カン、とか、キン、とか、ボン、とか、バンとかそんな音と共に俺は目を覚ます。
「おもっ……」
『カカカカカカ』
視界のぼやけが消え、その光景が鮮明に理解できる。
柊さんが戦っている。
独りで、俺の纏いが消えた状態で。
「つっきーおかえり。ちょっと助けてくれると嬉しいな」
傷だらけの身体で。
血を流しながら。
それでも彼女は拳を振るい戦っている。
俺は急いで彼女に近づき、モードアームズを起動する。
『柊さんは一人にならなかったの?』
「いいや、つっきーが他の女とくっついてる夢見せられたよ。でも、もしも君が別の誰かを好きになったとしても私は諦めないよ。必ず君を私の元に戻ってこさせるの」
ははは。
やっぱり君は強いな。
「――君はもう私のものだよ」
かっこいい。
不覚にも、俺は彼女にそう思ってしまったんだ。
魔物で始めるレベルアップ 〜スケルトンに転生した俺と、ゴブリンに転生したギャルはダンジョンマスターとして君臨する〜 水色の山葵/ズイ @mizuironowasabi
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