調査と接触



西暦1944年6月10日


新世年1686年同月同日



第502SS猟兵大隊


それは、武装親衛隊に存在する特殊部隊の名称であり、ヨーロッパ一危険な男との異名を持つ、SS軍人であるオットー・スコルツェニー少佐に率いられ、数々の危険な任務に従事した、武装親衛隊の精鋭コマンド部隊である。


今回、ドイツにとってよ未知の大陸である、ローラシア大陸への初の偵察任務と言う事もあり、生半可な戦力ではなく、精鋭部隊を派遣すべきであるとの意見で一致した、国防軍最高司令部の意向により、彼らがドイツ人、いや地球人として初めて、異世界の地を踏む人間として選ばれたのだ。



第502SS猟兵大隊が地上偵察の為、ローラシア大陸へ派遣される6日前


ナチス・ドイツ


首都:ベルリン


未だにナチスによる統治が行われ、何より転送により生き返り、再び国家保安本部長官職に、就任したハイドリヒにより今まで以上の国民の思想や動向に対する監視体制が強化されていながら、戦争が事実上終わり、戦時体制が緩められた事もあり、街ゆく人々の顔と雰囲気には、安心感が漂っていた。


そんな中、ドイツ及びヨーロッパの事実上の覇者として君臨する独裁者、アドルフ・ヒトラーの仕事場である総統官邸の一室である、総統執務室にて、この官邸の主人であるヒトラー、そして今回偵察任務を行う部隊の一角を担う、第502SS猟兵大隊の指揮官


1943年9月12日イタリア中部グラン・サッソに幽閉されていた、元イタリア王国首相、ベニート・ムッソリーニの救出と言う輝かしい功績を持つ、一流のコマンドーである、オットー・スコルツェニーSS少佐と会談を持っていた。


「ハイル・ヒトラー!」


「よく来てくれた、スコルツェニー少佐」


副官であるギュンシェSS少佐の案内で執務室へと足を踏み入れると、スコルツェニーSS少佐は、ヒトラーを目の前に、まずはナチス式敬礼で挨拶をし、それに対してヒトラーもそう述べ、スコルツェニーSS少佐同様敬礼で応じた。


そして、ヒトラーの招きで総統官邸へとやって来たスコルツェニーSS少佐であったが、内心緊張していた。


と言うのも、この総統執務室には、部屋の主人であるヒトラーの他にも


啓蒙宣伝大臣のゲッベルス


秘書兼総統官房のボルマン


国防軍総長のカイテル元帥


更にはスコルツェニーSS少佐が属する、親衛隊の長官であるヒムラー


ドイツ転送事件の際に死から復活した後に、上級大将昇格と再度国家保安本部長官へと就任したラインハルト・ハイドリヒSS上級大将など


政府、軍、親衛隊の高官に加え


フェルキッシャー・ベオバハター


デア・アングリフ


親衛隊の機関紙ダス・シュヴァルツェ・コーア


ナチスドイツにおいて、情報操作とプロパガンダを実行し、国民を操るマスメディアの記者達も何人か、総統執務室にその姿があった。


「立ち話も疲れるだろ、座ってくれ少佐」


「有難うございます総統閣下。しかし、私はこのままで…」


「うむ、そうか」


ヒトラーは、少し緊張しているスコルツェニーSS少佐にそう声をかけると、執務室内に備えられているソファに座り、スコルツェニーSS少佐にも座る様促した。


だが、遠慮したスコルツェニーSS少佐はヒトラーにそう述べ、ソファには座らず、立ったままの状態で、ヒトラーの話を聞く事とした。


「さてスコルツェニーSS少佐、今回君を呼んだのは他でもない。例の謎の大陸に対する調査作戦の件だ。事前に命令の方は伝えていたが、準備の方はどうなっているかね?」


「はっ、勿論滞りなく進んでおります」


「うむ、そうか。」


ヒトラーの言葉を聞いた、スコルツェニーSS少佐は、そう述べ、それを聞いたヒトラーは、満足そうにそう答えた。


そして、一呼吸入れ続けて述べ始めた。


「少佐、今回の任務は、我々が知らず、そしてどんな危険が待ち受けているかも分からない、未知の大地へと足を踏み入れると言う、危険な…そう君が、今まで行って来た有りとあらゆる特殊作戦をも超える危険な任務となるだろう…しかし、我がドイツと盟友の未来の為、そして数々の死線を潜って来た君と、君たちの部隊なら必ず、この任務を果たしてくれると期待しているぞ」


「総統閣下の励ましのお言葉、心に沁みました。必ずや、祖国ドイツのために、任務を遂行いたします」


「うむ、頼むぞ」


ヒトラーの、演説じみた訓令を聞き、スコルツェニーSS少佐は、姿勢を正し、ナチス指揮敬礼をしながらそう述べると、ヒトラーは満足そうにそう述べ手を差し伸べた。


そして、スコルツェニーSS少佐は、差し出されたヒトラーの手を握り握手をすると、その瞬間、待ってましたと言わんばかりに、この部屋にいた記者達が二人の周りを囲み、ヒトラーとスコルツェニーSS少佐の、互いの握手の瞬間を写真を収めた。


時は立ち6日後


「ここが…」


6日前にヒトラーと面会し、任務遂行を誓ったスコルツェニーSS少佐、そして彼が率いる部隊


Sd.Kfz.251


Sd Kfz 232


物資輸送トラック


Sd.Kfz. 234


そしてドイツが開発した世界初の、アサルトライフルであるStG-44


ヒトラーの電気ノコギリの異名を持つドイツ軍最強の機関銃MG42機関銃


パンツァーシュレック及び、パンツァーファウストなどの対戦車、対装甲車装備


多くの輸送車、装甲車、そして歩兵装備など大量の強力なドイツ軍の兵器でフル武装した、1000名弱の戦力となった第502SS猟兵大隊は、ヒトラー及び国防軍最高司令部の作戦命令に基づき、謎の領土もといカロリング王国に対しての偵察作戦を実行する為、トゥルーズ辺境伯領内へと侵入していた。


「総員計画を怠るな…ここは、我々がよく知るヨーロッパの地ではなく、未開の…何が待ち受けているか分からぬ土地だ。360度に気を配り、進め!」


「「「Ja!!」」」


そして、初めて見る大地、初めて見る土地に、百戦錬磨の精鋭兵達も戸惑いと、高い警戒心を隠す事はできなかったが、大隊長であるスコルツェニーSS少佐の元、進んで行った。


すると


「…それにしても」


「どうかしたか、オットー?」


「いやなカール、意外と道の整備が整っている感じがしてな…」


「…言われてみれば確かにそうだな、これなら装甲師団の運用も問題なく行えそうな…」


「あぁ、事前に聞いた話だと、偵察機による航空写真に映っていた写真を分析した結果、この大地に存在する文明は、中世程度の文明レベルの可能性が高いと聞いていたが、鉄道を除けば、これ程のインフラを保有しているとは…正直見くびっていたやもしれないな。」


スコルツェニーSS少佐は、側にいた自身の大学以来の友人である、副官のカール・ラドル大尉にそう述べた。


調査を進める中でスコルツェニーSS少佐は、現在第502SS猟兵大隊が進んでいる道路は勿論、途中で通りかかった川に架けられた橋などを含め、この地に存在する多くのインフラの設備が、かつてのドイツの宿敵であるソ連よりも整っている印象を受けてつつも引き続き調査の為、前進を続けた。



一方その頃


カロリング王国西部辺境・トゥルーズ辺境伯領


首都:リュニン


ドイツ側の調査対象である、カロリング王国側でも、ドイツに対する調査活動を始めようとしていた。


だがその時


辺境伯邸


執務室


「何、我が領土の西部辺境の村に盗賊団が!?」


「はっ!近くに駐屯していた兵士の一人が命からがら伝えて来た情報です!」


銀色の鎧に身を包み、マントを羽織た、この都市に駐屯する部隊の指揮官である、アンチュール子爵の報告を聞いたトゥルーズ辺境伯は、思わずそう叫んでしまった。


彼が辺境伯に述べた報告、それは西部辺境地域に存在する、トゥールズの町から西に約190kmほどの距離にある、エクロット村とやらが、盗賊の一団に制圧され、しかも村の近くに駐屯していた兵までもが、盗賊に駆逐されてしまったのだ。


「クッ…兎に角すぐに対応を決める必要がある。辺境伯軍の幕僚を急ぎ招集せよ!それと、念の為に街の警戒大勢を厳重にせよ!」


「御意!」


兎も角起きてしまった以上、対応を決める為、トゥルーズ辺境伯は部屋にいた、自身の補佐官に、自軍の軍隊の幕僚を招集する様命令した。


「しかし…よりにもよってこんな時期に」


王族である、フランソワ皇太子が居るこの時期に、よりにもよってこんな失態とも言うべき事件が起きた事に、トゥルーズ辺境伯は、頭を抱えながらそう呟いた。


それから1時間後


会議室


対策会議の為に、トゥールズ辺境伯の命令で召集された、多くの地方軍の将校達が、トゥールズ辺境伯領の地図が広げられた机の周りを囲んでいた。


「馬鹿な!何故盗賊団如きに、我々名誉ある王国軍の騎士がやられると言う醜態が起こったのだ!常識的に、我が誇り高き王国軍が盗賊如きに敗れる事などあり得ぬ事だ!!」


すると、報告を聞いたトゥールズ辺境伯傘下の騎士団の司令官の一人である、ヴジューヌ伯爵が、机に拳を振り下ろし怒鳴った。


しかし、彼の怒りももっともな事であった。なんせ、ただの野党集団に、辺境地に配属されている部隊とは言え、装備と練度の差が上回っているはずの王国の正規軍が破られると言う、あってはならない事態が起こってしまったのだから。


「しかし…何故我々王国軍が、野党集団如きに遅れを取ったのか…」


「辺境とは言え、我が騎士団はそこまで練度は低く無いはずだが…」


トゥールズ辺境伯軍の幕僚達は、自分達正規軍が、盗賊如きに遅れをとった事に踊りつつも、困惑した様子でそう述べた。


すると


「それが…生き残って、我々と合流兵士によると、どうやら盗賊団には、強力な魔法を使う者や、剣術の達人と思われる者が何人かおり、更にはマスケット銃までもを装備した者が居たとか…」


「何だと!?」


「そんなバカな!」


報告を聞いた辺境伯、そして幕僚達も思わず声を上げてしまった。


強力な魔法を使える魔法使いに加えて、最新の武器であるマスケット銃をも装備、その話が本当であれば盗賊の装備は、正規軍に勝る物であるからだ。


「何故盗賊如きがそんな装備を…」


そのような装備、普通であれば盗賊が手に入れられる代物では無いはず、辺境伯がそう思っていると。


「もしや…」


「どうかしたのか、シュヴァルツ卿よ」


「何か、含む所でもあるのか?」


すると、トゥールズ辺境伯の食客の立場である、カロリング王国の隣国出身の伯爵家出身の軍人、オスカール・フォン・シュヴァルツが何か心当たりがあるかのような雰囲気で呟いた。


「はい、恐れながら」


「発言を許可する、言ってみたまえ」


「はい、これは皇女派の仕業ではないでしょうか?」


オスカールは、そうトゥールズ辺境伯に述べた。


「何?」


「皇女派だと?」


すると、その言葉を聞いたトゥールズ辺境伯、そしてその家臣達はそう述べた。


「根拠は幾つかあります。まず皇太子殿下が、調査の為にこの地方に訪れているこのタイミングで、調査隊の進行ルート上にある村が、野党に…しかも、正規軍顔負けの装備を持った野党に制圧されるなど、明らかにタイミングが良すぎます。となると、殿下が西方辺境地域に行く事を知り、なおかつそのルート情報をも手に入れらる人物が、奴等の裏に居るのは確実でしょう。そしてそのルートを知る者は…」


「中央に巣食う皇女派…と言う事か?」


「その通りです」


「何と…」


オスカールの説明を聞いた辺境伯、そしてその家臣達は、自分達が守る、このトゥールズ辺境伯領が、謀略の舞台になってしまった事を実感し、重く暗い表情で、頭を抱え始めた。


「どうするのだ、このまま殿下を行かせたら…」


「こうなれば、訳を話し調査を中止させる様勧めてはどうか?」


そしてそんな中、トゥールズ辺境伯、そして最初にこの事態の報告をした駐屯部隊の指揮官は、頭を抱えながらそう述べた。


「しかしそうなれば殿下は、国王陛下から与えられた任務一つこなせない無能な人間であるとの烙印を押され、結果的に殿下の名声と権威に大きく傷がつきます。恐らく、皇女派の奴等は、そこまで計算ずくであると考えます」


「では、行くも地獄、退くも地獄では無いか!一体どうするのだ!」


このまま調査を強行すれば、フランソワ王子の身に危険が迫り、尚且つこの事を知りながらフランソワ王子を助けなかったとして、トゥールズ辺境伯家の家名は地に落ち、又はお取り潰しもあり得る。


かと言って、この事件を理由にフランソワ王子を帰せば、トゥールズ辺境伯家の後ろ盾の様な立場にあるフランソワ王子の権威が失墜する恐れがある。


どちらをとっても、結果は皇女派に有利に働き、こちらの不利益になる結果ばかりであった。


「現実的に考えれば、殿下にはすぐ様この場から撤退して頂くのが最適であると考えるが…」


「…うむ、止むを得ん、殿下の御身が第一だからな。殿下には、私がご説明する」


駐屯部隊の指揮官、そして辺境伯はそう言うと、会議室にて今回の事態を議論していた面々を連れ、フランソワ皇太子が居る応接部屋へと向かった。


応接室


「事態は分かった」


「それでは…」


「だが、それは出来ん」


話を聞き事情は理解したものの、フランソワは、辺境伯が述べた調査の中止と、王都への帰還に関してはNOを突きつけた。


「殿下のお気持ちはお察しいたします。しかし殿下の御身に何かありましたら…」


「その程度の事は覚悟の上だ!例え盗賊団に襲われようとも、王女派の妨害があろうとも、王から…父上から命ぜられた勅命をやり遂げなければならないのだ!!もしここで私が、盗賊如きの妨害で、任務を中止などすれば!私の名声と、王家の権威に大きな傷がつく事となる!!そうなれば…!」


なんとか説得しようとする辺境伯に、フランソワ皇太子は、どこか焦りを感じる表情をしながらそう言った。


そして


「辺境伯…」


「ハッ!」


「これが、我が妹と、その周りに群がる、不埒な取り巻き共の差金かは知らないが、国王からの勅命と、私の行動を奴等が阻むと言うのならば是非もない…地方軍と我が調査団による軍を編成し、直ちに殲滅する!異論は認めん!」


「は、はっ!!直ちに軍を編成します!」


フランソワ皇太子は、王族とは思えない、怒りに満ちた、迫力ある顔で辺境伯にそう命令をし、それを聞いたトゥールズ辺境伯も、フランス皇太子直々の命令である以上拒否は論外である為、そう言うと直ちに準備にかかろうとした。


その時


「殿下!どうか意見具申を許可願います!」


「貴殿は?」


「はっ!トゥールズ辺境伯の元で、食客として召抱えて頂いている、オスカール・フォン・シュヴァルツでございます!」


オスカールが、突然跪きながら、フランソワ皇太子にそう告げた。


「オスカール卿、殿下のご命令に意見具申とは…!」


「構わん、ウジェーヌ伯爵」


すると、部屋にいた地方軍の幕僚達が、オスカールのフランソワ皇太子に対する、突然の意見具申に対しウジェーヌ伯爵は、オスカールに少し立腹した様子でそう言ったが、当のフランソワ皇太子は、オスカールに話を続ける様述べた。


「はっ、僭越ながら我が軍を招集し、賊共の討伐に本格的に乗り出す前に、敵陣地の偵察を行うべきであると考えます」


「偵察だと?」


「左様です。敵の数とその武器などを把握する事が出来れば、戦況を有利に運ぶ事も可能です。また、族の戦力が我が方よりも少なく、或いは分散している状況であれば、辺境伯軍全軍を招集せずとも、攻撃に撃って出て、勝利を掴む事も可能でしょう」


オスカールが、フランソワ皇太子に提案した事は、所謂作戦開始前の敵上視察の実施であった。


「成る程…確かに卿の言う事は戦略的に考えても理にかなってはいる。しかし、賊とはいえ敵の只中に潜入する危険な任務…誰がその任を実行するつもりだ?」


問題は、地方軍の辺境警備隊とは言え、軍隊をも駆逐する程の敵が居座る地域へ、敵地の只中に潜入する強行偵察と言う危険な任務を、誰がやるかであり、フランソワはまるで試すかの様な様子でそう聞いた。


「僭越ながら、私が行って参ります」


「ほう貴殿が行くのか?」


「はっ、祖国ゲルマニアを追われた、我ら一族を食客として迎え入れて頂いた恩に報いたいと思う所存であります」


提案者であるオスカールは、フランソワ皇太子の問いにそう答えた。 


「成る程…フォン・シュヴァルツと言ったか?」


「御意!」


「貴公の忠節の心は理解した。良いだろう、その任務…貴殿に任せる事とする」


「はっ、有難うございます!」


オスカールの立案した案を採用する事としたフランソワは、任務の実行者であるオスカールにそう述べ、オスカールは首を垂れながらそう言った。


すると


「なお、ささやかながら私からも手向けとして、我が調査隊から何人か、手誰の者を貴殿に貸す事とする。その者と共に、任務に励むが良い」


「殿下の御心遣い、感謝の言葉もございません。かなやずや殿下とこの国の為に、任務を完遂してみせます!」


「うむ、期待しておるぞ」


必ず任務を完遂する事を誓ったオスカールに、フランソワはそう述べた。


そして偵察作戦は、敵の発見を防ぐために、真夜中に行われる事が決定し、オスカールはフランソワ皇太が貸してくれた兵力を連れ、最低限の装備と物資を用意すると、族に占領されたエクロット村へ急いだ。



時は進みその日の夕方


日も沈みかけ、青色の月が空に浮かび始めた頃、なんの因果か、俗に占領されたエクロット村から約5.2kmの場所の森に、ドイツから派遣された調査隊である502SS猟兵大隊が展開していた。


「もうすぐ夜が更けるが…何度見ても、未だにあの月は慣れんものだな…」


502SS猟兵大隊麾下の歩兵中隊の中隊長である、ナイトハルト・ヘルダーSS大尉は、指揮下にある自分の中隊の兵士達と共に、周辺の偵察を行っている際、この世界が異世界である確たる証拠である、青色の月を見てそう呟いた。


「我々は、本当に…何処に来てしまったのでしょうか、隊長…それに、この世界は一体…」


「…不安かね、クルト伍長?」


「…はい」


すると、自分の祖国ドイツと、ヨーロッパが未知の世界に来てしまい、この世界、そしてこの先ヨーロッパやドイツはどうなるのか、不安になっているクルト・フランツSS兵長に、アドラーSS大尉はそう問いかけると、フランツSS兵長はそう一言述べた。


「私もだ…」


「えっ?」


アドラーSS大尉は、自分の心の胸の内を兵長に述べ、まだ若い故に先の事に不安を覚えている伍長を落ち着かせようとした。


するとその時


「キャアーーーッ!助けて!!」


すぐ近くから悲鳴が聞こえた。


「何ですか、今のは!?」


「悲鳴だな…声の大きさから察するに、すぐ近くだな…通信兵は、スコルツェニー少佐にこの状況を報告!歩兵部隊は状況の確認の為、現場へ行ってみるぞ!中隊、ついて来い!」


「「「Ja!」」」


その声を聞き、状況の確認をする必要があると考え、アドラーSS大尉は、この事を報告する通信兵と、通信兵の護衛の為の兵士3人をこの場に残し、後は全中隊で悲鳴が聞こえた場所へと急いだ。



悲鳴の聞こえた場所は、アドラーSS大尉たちが展開する森の中の近くに通る、道から聞こえた物であった。


「ハァ、ハァ、ハァ!」


「逃げるなお嬢ちゃんよ〜!」


「別に逃げた事は、咎めねぇからよぉ〜」


そこでは、17歳位の女の子が馬に乗った二人の盗賊に追いかけられており、盗賊二人はまるで小動物の狩りをする様な雰囲気で、女の子を追い回して居た。


「誰か…助けて!!」


もし捕まったら女の子の運命は火を見るより明らか、その為女の子は必死に助けを求めながら逃げて居た。


「無駄だぜお嬢ちゃん!」


「どんなに叫んでも、助けなんか来るわけはねぇだろ!!」


そう言うと、盗賊の一人が弓矢を女の子目掛けて射た。


「キャアーーーッ!!」


「イヨッシャーー当たった!!」


矢は女の子の肩に刺さり、傷口から流れ出る真っ赤な血を見て、自分が射た矢が標的に当たった事を痛感した盗賊は、明らかに野蛮な声を上げてた。


「さて、早速お楽しみタイムと行かせてもらおうか」


「俺にも、しっかり回せよ」


そして二人の盗賊はそう言いながら馬から降りると、仕留めた獲物へと近づいて行った。


しかしその時


「えっ…」


「な…」


乾いた破裂音の様な音が多数聞こえると同時に、女の子に矢を射った盗賊の身体中に、瞬く間に風穴が開き、先程まで生きて居た盗賊は、女の子が流した血よりも遥かに多い血を身体中から吹き出し、物言わぬ肉片と化した。


「な…一体な…」


そしてもう一人の盗賊も、仲間の盗賊の哀れな姿に動揺した様子でそう呟いたその時、先に死んだ仲間同様身体中に風穴を開けられ死んだ。


「ヒッ!な、何…」


先程まで、自分を襲って居た二人の屈強な盗賊の死体を前に、女の子は困惑と恐怖の様子で、そう呟いた。


すると


「隊長…本当に良かったのですか、子供とはいえ、命令に無く彼女を助けてしまって?」


「構わんクルトSS伍長、何せ彼女は我々がこの世界で接触した、初めての人間だからな…色々聞きたい事がある…」


「貴方達は…?」


盗賊達が立って居た場所の後方の森の中から、灰緑色の軍衣と鉄製のヘルメットを被り、筒先から煙が立ち込めるStG-44を手に持つ、アドラーSS大尉と彼が率いる中隊が女の子の目の前に現れた。






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