第9話
高速に乗り、十二時間。ひたすら西へ。GO WEST. なんてアタシ達にぴったり。
午前九時。繁華街の真ん中、商業ビルの上階の居住地部分にあるアタシ達の愛の巣に到着。最上階の角部屋。
ここまで街の真ん中なら下手なことはできない、かもしれないって希望的観測ね。
「キヨマサは何の仕事するの? アタシ手伝う?」
「いやいい。足でまといになる」
「ムカつく!」
「いいか。お前はおれより弱い。大人しく好きなことをしてろ」
うふふ♡ ムカつく♡ 鍛えて一度は殴りたい♡
アタシより強い男に守られたい♡ って思ってたけど、こんなのは違う。
「わーかった。ミスってアタシにダサいとこ見せられないもんねえ」
「そういうことだ。守りきれずに怪我させたくないからな」
あー♡ 自分の獲物は傷つけられたくないタイプね。はいはい♡
「わかった。好きなことしてる」
ロンTにストレートデニムにニットキャップに着替えたキヨマサは、どこにでもいそうなアメカジ青年って感じ。気だるげで殺気もなければやる気もない。
「お前も街を見て回りたいだろうから……、15時に戻る。それなら15時50分の上映時間に間に合うだろ。映画館はここから歩いて10分。タピオカ屋はその道なりにある。どうだ?」
「オッケー」
アタシは何度も小刻みに頷いてみせる。
細かくて怖。てかなに? もうここの地理理解してんの? 上映時間まで? キモ。
ま。いいや。超高性能のナビゲーションシステムと思えば。
アタシはさっき渡されたカードケースから中身を取り出す。免許証と健康保険証とクレジットカード。
yaeko matida 町田八重子。
ふ。所詮、一般ネーム。偽名すら必要ないってか。コードネーム以外は全部偽造だけども。
背後から覗いていたキヨマサが言う。
「よかった。おれ、お前の名前を呼ぶの好きなんだ」
トゥクトゥーン♡ ここで笑顔のひとつでも見せてくれたらポイント無制限なのに。
表情筋死んでるけど、セリフはイケメン♡ ポイント高い♡
「ボスに付けられたコードネームだけどね。アンタは生まれ違うんだっけ。ヤマトタケルじゃない名前があるんだよね?」
「ある」
「なんていうの?」
「最終日に――、お前次第で教えてやる」
「あ。そう。じゃあそれまで生き延びなきゃ」
「心配するな。おれが生かしてやる」
「神話ネームクラス以下の敵なら自力で生き延びるから結構ですぅ♡」
「それもそうだな。じゃあな、町田八重子」
「うん。15時。下のエントランスで待ち合わせ。遅れないでね」
「わかった」
「約束よ」
「ああ」
「いってらっしゃい」
キヨマサはアタシを見て小さく頷くと、部屋を出ていった。なんか変な感じ。誰かを見送るなんて、初めてだから。
しかも、帰ってくるんだ。きっと。わからないけど、まあ、アイツなら帰ってくるんだろう。
アタシはスマホのメッセージアプリで桔梗にメッセージを送った。
キヨマサの仕事内容と、アタシの仕事内容の確認。数分後に返信がきた。
キヨマサの仕事は、勝手にうちから抜けて新たな組織を立ち上げた奴らの追跡と排除。一人で大丈夫なのかな。えーっと、アタシの仕事は……、どうやら本当に奴のプライベートのサポートらしい。あとは自由……か。
なら、いっちょ殺りますか。
さっそく部屋を見て回る。広めの2LDK、お風呂とトイレは別。ベランダは南向きだけど、ちょっと排気ガスが気になる。寝室の奥にはウォークインクローゼットがあって、メイクもできるスペースもあって、道具も一式揃えてある。
さすが、
アタシは桔梗に電話をかけ、プライベートな狩りに必要な情報を貰った。
BE MY BABY 水上蓮 @waterlily88
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