第2話 成木くんはオレンジジュース

商店街の裏道を八分ほど通り

学校に着いた。

汐里は校舎を一人で散策する。

光の射す廊下はしんとして

汐里の心を落ち着かせる。

そんな、廊下で汐里は鼻歌を歌う。

万人受けしないロックバンドの

皆知らないだろう曲を…

落ちサビ前で

汐里は声を出し歌い始めた

「…暮れる8月君と僕 諦めなよ その命を

…」

「雨…宮さん??」

隣をむくと1年B組の 成木 夕 が

こちらをじっと見ている。


顔を赤らめる汐里に成木は微笑みながら感想を述べた。

「上手いじゃん」

汐里は首を横に振ってただ恥ずかしがった

「えっと、成木くん?だよね、、この曲知ってるの??」

連なる言葉とともに汐里は共通の趣味を持った人なのかと期待を募らせた。

「知ってるよ。良いよね。言葉に出来なくて消化できない毒を体内から吐き出すことが出来る薬みたいだよね」

汐里は初めて自分と似た音楽の趣味を持ち

そしてその解釈まで同じ人に出会えた。

「嘘だ…」

口をぽかんと開けた汐里に成木は優しそうに微笑む

「また今度喫茶店くらいで二人でバンドの話しませんか?」

汐里は、はにかみながら誘いに応じた。

「う、うん!行きたいです!」

成木は、スマートフォンをズボンのポケットから出した。

「八月六日ー…。あー…。今日にする?」

最後の言葉に汐里は戸惑った。

「今日??」

「そう。無理かな?」

生憎、今日は汐里も予定が無かった。

「や、行けると思う」

「んじゃそういうことだから放課後!」

スムーズすぎる会話に、汐里は困惑と嬉しさでいっぱいだった。


教室に戻り、しばらく本を開いてにやけていると

友人の瑠香が入ってきた

「おはよぉ…さんッ!!!」

汐里の首筋に冷えたペットボトルとくっ付けてきた。

「うわあ…!!」

いい反応をみせた汐里に瑠香は聞いた

「なーによ!彼氏でもできたの?」

汐里は本を閉じて少しむきになった

「ちがうもん!!そんなんじゃないし…?」

やはり嬉しげだったのが表に出ていたのかと思うと汐里は窓ガラスに映る自分を睨んだ。

瑠香がニヤリと微笑んだ

「はぁーん。分かった…その本。実はエロ本なんでしょ?」

変な冗談を言っているだけだと思い

汐里が瑠香の表情を見ると…

満更でもない顔をしていた。

「それもちがうよ〜。ただのラノベだもん(笑)」

不満そうな瑠香は汐里に何があったか早く教えろと言わんばかりの目で汐里を見つめた

「今日他クラスの男の子と放課後遊ぶの。それだけ。」

瑠香は、滅多に聞けない汐里の浮かれ話を聞いて悦んだ。

「えー!誰なの?!瑠香の知ってる人?」

「んー。成木くんだよ。分かる…?」

成木の名前を出した途端に

瑠香の表情が暗くなった。

「……」

「どしたのー?」


一瞬沈黙が流れた。


「辞めなー(笑) あいつ変わり者だし性格悪いよ(笑)」

「そうかな?優しそうな人だったけどなあ」

「へー…そう。」

気まずい空気がエスカレートしてゆく

「まあ、瑠香が言うならそうなんだよね!気をつけとく!」

安価な偽造品の微笑みを浮かべて

汐里はその場を凌いだ。


何故瑠香があんな表情をしたのか

授業中も汐里は考えていた。

考えることがあれば

学校生活の流れも早かった。



そして放課後

終礼が終わり廊下に出ると

成木が汐里を待っていた。


汐里は申し訳なさそうに謝罪した


「ごめん成木くん!今日の終礼長引いちゃった。待ったよね」


「待った……こともなくもなくもない。」


「なくも、なくも、ない。

だから待って無いのか〜!よかった(笑)」


二人は楽しく会話しながら

ゆっくり足を進めた。

そのとき、汐里は朝からずっと引っかかっていたことを成木に問うことにした。

「成木くんって、瑠香と中学一緒だっけ?」

成木は特に目立った反応もせず質問に答えた

「一緒だったよー。まあクラスは一度も同じになったことないと思うけどね。」

その言葉に汐里は頷いた。後に返した

「接点は?」

「ないなー…うん全然ない(笑)」

足を進めながらも

話したことも無い相手を変人だと決めつけて罵った瑠香に汐里は少し軽蔑した。


「ここだ!」


成木の声に考え事をしていた汐里はまるで遠くで銃声が聞こえたような感覚に見舞われハッとした。

「…! ほ、ほんとだぁ!」



喫茶店の扉を開くと吊るしていたベルの音が

シャリンシャリンとなる。

一歩足を踏み入れただけなのに、コーヒーの匂いにふわりと包まれた。

店長が自由席だと伝えると

成木は奥のソファーに腰を下ろした。

「まず飲み物頼んじゃおう!雨宮さん何がいい?」

「成木くんと同じのにします!」

こんなにいい匂いがしているのだから

コーヒー以外の選択肢はないと汐里は思った。

カフェオレにしろ、ブラックコーヒーにしろ本格的な物なのだからハズレは無いはずだと確信していた。


「決まったかい?」

店長がカウンターから声をかけた。


「オレンジジュース二つで!!」


「へ…?」


汐里は思わず首を傾げた。

…喫茶店に来て?オレンジジュース?

…コーヒーの匂いがプンプンするのに?オレンジジュース??


「ごめん。オレンジジュース嫌いだった?」


「いや…あの…ううん!嫌いじゃないんだけど

勝手にコーヒー頼むって予想してたの(笑)」


「僕コーヒー飲めないんだよ(笑)」


苦笑いする成木くんを前にして

ひたひたとオレンジジュースは汗をかいた。




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黒春 永遠 @towa222

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