第2話 それぞれの思考

 大道寺さくら、運動神経抜群、頭はよくないが今後に期待できる学習能力を兼ね備えていると黒龍はみた。


「話って何ですかー?」


「まずはお前がアリスのゲームで一番警戒する人物は誰だ?」


「そうですねー、天理ちゃんと香ちゃんですねー、次にアリスちゃん、作った本人ですし」


「なるほどな、お前は天理と明智と仲が良かったな、天理はどういう人物だ?」


「どういうですか?難しいですねー、何かを隠し通してると言いますか全く読ませてくれないような独特な思考の持ち主ですかねー」


「親友のお前でもわからねぇのか、一筋縄ではいかねぇな」


「あ、でもチェスが好きで赤いものいつも着てます、テニスラケットも赤です」


「まあそれは分かるぜ」


 天理に関しては親友であるさくら経由でも掴むことができない。そもそも天理はさくら自体を親友として見ているのか、表上の親友としか見ていないのかもしれない。もしそうなら天理の真の信用する人物は?


「でも前に天理ちゃんが言ってましたねー、私はどんな人間も駒としか見ていない…って、でも私は駒とみられていても天理ちゃんの側にいられるだけで満足ですねー」


「なんでお前はそんなに天理を信用できる?」


「私の頭の悪さを受け入れてくれたからですかねー、卑下すのではなく個性として、一つの特徴として悪い意味で考えない思考、その天理ちゃんに私は尽くそうかなーって、小さなきっかけですよー。それに天理ちゃんたちといると無意識に何か得てる気がするんですよねー」


 さくらは自分が気づいていないだけで確実に成長している。この人物はいずれ天理をも超えるかもしれない。


「無意識か、そこのしれねぇやつだ」


「兄貴はもしかして全員探ってるんですかー?」


 すでに感づかれていた。さくらは天理のような一面を持ちつつある。


「何をだ?」


「アリスちゃんのゲームの参加者に探りを入れてるのかなーって思っただけですよー、私の勘ですけどねー」


 当たりである。


「チッ、お前にも気づかれたか、まあいい、少しは理解したぜ。お前も案外つかみどころがねぇのかもな」


「そんなことないですけどねー、天理ちゃんは考えてないようで考えている、私は後先のこと何も考えてませんからねー、じゃあ部活に失礼しまーす」


 それだけ言うとさくらはびゅーんとテニス部に向かっていった。


「ある意味天理以上の存在なのかもしれねぇな」


 そして最後の脅威、アリスの元へ向かう。


「あいつは絶対にコンビニに行く、未来と会えたのかわかんねぇがコンビニにいればアリスは来る。もうコンビニで買い終えた可能性もあるけどな」


 アリスがいつも寄るであろうコンビニに向かうが暗くなりつつある。

 路地裏から鈍い音が聞こえる。前にも同じようなことがあった、まさかと思い黒龍は向かう。

 男子生徒三人から徹底的に暴力を受けている黒いパーカー服の少女。


「おいお前ら何してる」


「見てわかんねぇのか?」


 どうやらこの男子生徒三人は黒龍のことを知らないらしい。黒龍は男子生徒を軽く暴力で黙らせて力の差をわからせて三人は退散する。

 パーカーの少女は予想通りアリスだった。まだビクビクと震えている。


「おいアリス」


 いじめられている反動が強すぎたのか黒龍だと気づいていない…


「ぁ…ぇと…」


「いや俺だよ黒龍だ」


 アリスはようやく顔を上げ黒龍の顔を見る。


「君まで僕を痛めつける気か…もうやめてくれ」


「いやしねぇよ」


「はぁ…未来の次は君に会うとは、やっぱり強がらないで未来に家まで送ってもらうべきだったよ、それで何の用だい?」


「お前はまたゲームを作るつもりだな、お前の作るゲームは興味深い、その前にだ。お前がゲームの上で警戒する人物は誰だ?」


「一人上げるとしたら難しいな…」


「一人じゃなくてもいいぜ?」


「結論から言うと全員だ、それでも絞るなら天理、未来、さくら、朱音だね」


 黒龍は4人聞いた中で3人が朱音という人物を警戒していることとなる。


「このゲームの要は天理ではなかった、朱音かもしれない、そしてこのゲームをいずれ支配するのはさくらだ」


「なるほどな、俺も今日さくらと話したが今日さくらは警戒する人物になった、俺の警戒する人物、天理、未来、さくら、そしてお前だ」


「僕は警戒に値しないよ、むしろ一番の弱者だ。自分でゲームを作っておきながらすべて敗北で終わっている」


「確かにゲームの結果ではお前は負けている、だがお前の真の目的はゲームで勝つことだけではないだろ?目を見ればわかるんだよ、だがそれが何なのかお前も見定める必要があるな」


 アリスと黒龍の駆け引きは始まるのであった。



 夜の八時、辺りは暗い。

 赤いフードの少女は上級生であろう男子生徒に告げる。


「ふん…そいつが勝手にばらしたのか…お前が脅して無理矢理な…早くここに連れてこい…」


「で、でも、もう時間が…」


「お前が私のクラスメイト脅して私の秘密をばらした…知ってる以上潰す…早く呼べやこらぁ」


「は、はい…」


 上級生に容赦ない脅迫。



 数分後、それは同じクラスメイト。


「て、天理さん、すみません」


 天野天理と天野天理のクラスメイト、そしてその上級生。


「お前たちはアリスもいじめているようだな…だから黒だ…」


 容赦ない天理の裁きの鉄槌。男子生徒の上級生と天理のクラスメイトの男子生徒は成すすべなく撃沈した。


「脅されてもばらしたらどうなるかわかったな…?脅されたならそいつを連れてこい…」


 二人は天理に従うことしかできなかった。


「私は私のやり方で救済する。アリスや私のような人間がよりよく暮らせるために…そのためならどんな駒でも犠牲にする…」


 天理は呟くように言う。


「それにしても厄介だなアリス…家まで特定されるとは」


 すると二人が退散するのを見守り怖がっていたのかアリスが出てきた。


「僕もやらかしてしまったよ…公衆電話があってよかったよ」


「まだ私の目が行き届いていないところでいじめが起きているらしいな…わからせる必要がある…」


「僕たちは分かられない存在だけどね…借りを作ってしまったね、これで家にはいれるよ」


「分かられないなら私たちでわからせる…それだけ…」


「君と未来くらいだよ、同情されても怒りを表さないのはね」


「種類は違えど同じ存在だ…」


 すると天理の携帯が鳴りだした。


「朱音さんか…」


「どうしたんだい?」


「私はSNSでグループを結成した…今は20人弱…朱音さんの文章だ…」


 それを天理はアリスに見せた。その文を見るに今日朱音はこの地域に来ていたことが発覚する。5人の名前が書かれていた。


「誰だいその5人は?」


「今日アリスをいじめていた人間を朱音さんは名前を聞いただけに過ぎない、朱音さんは喧嘩に関しては強くない…次のターゲットはこの5人か…」


 天理と朱音、また他20人は繋がっている。


「アリス、お前は自殺する気だな」


「君にも話していたかい?」


「朱音さんから未来がアリスの自殺を絶対に止めると言っていたと聞いた…」


「天理、いつから君は朱音とそんなに親しくなっていたんだ」


「そんなことはいい…お前の目的が自殺なら私の目的は復讐…力もない、何も罪も犯していないのに私たちだけ見下されるのはおかしいだろう…?」


「もしかして君は」


「逆にいじめる側の人間がいじめられる立場になったらどうなるだろうな…」


「もしかして君は、いじめる立場になるというのか。そんなことをしたら愚かな人間たちと変わらなくなってしまうじゃないか」


「私たちは苦しい思いをしたのに自分たちだけ好き放題して見下されるのにも飽きただろう…」


「いいや、僕はいつか自殺をしてわからせる。自分たちの行いが愚かだったということを」


「なら私はいじめる人間を精神的にも肉体的にも潰す…もう生きたくないと思わせるほどに…私たちが絶望を与える番だ…」


 アリスの目的は自殺していじめっ子に罪の意識を与える、天理の目的はいじめっ子にアリスと同じ目を遭わせ自殺に追い込む。二人は互いに目的を持っていた。

 ただ言えることはアリスと天理の目的を叶えさせてはいけない。


 それぞれがそれぞれの繋がり、そして考えを持ちアリスによる新たなゲームが開催されようとしている。





 


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悟りゲーム 詮索編(パート7) @sorano_alice

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