第7話 円満解決
ピピピピッピピピピッ
聞きなれた目覚まし音が部屋中に鳴り響いていた。
夏香が勢いよく起き上がり、周囲を見渡すと、自分の部屋の中にいることに気が付いた。どうやら先ほどまでの変な状況は夢だったみたいだ。
手のひらが一緒に寝ていた愛犬のチョコの唾液でビシャビシャに濡れている。多分寝ている間に舐められてしまっていたのだろう。
「なんだ、夢か……」
夏香は困惑しながらも安堵する。普通に考えて、夏香の家族や友達の早希がそんな変な企画を突然始めるわけがないではないかと苦笑した。
先程までの変なオーディションが夢だとわかり安心していると、ドアをノックする音とともに声が聞こえてきた。
「夏香ちゃん、そろそろ起きないとダメだよ!」
そう言ってドアを開けてきたのは、母親ではなく、なぜか早希の妹の優里だった。
「ええ、なんで優里ちゃんがうちにいるの? 優勝したから私のお母さんになったってこと?」
まさかあの異様なオーディションが現実のことだったのだろうかという嫌な考えが頭の中で回り出して、冷や汗で背中が冷たくなってくる。
そんな驚いた様子の夏香を見て、優里は首を傾げた。
「今日は私とお姉ちゃんと夏香ちゃんでお洋服を見に行くって約束してたじゃん」
そう言われて、夏香は冷静になる。そういえば、昨日の金曜日に学校でそんな約束を早希と交わしたような気がする。
夏香は安堵して、大きく息を吐きだした。
「”お母さんオーディション”なんてお姉ちゃんが勝手に始めた遊びの一環みたいなものなんだから本気にしたらダメだよ。夏香ちゃんのお母さんは今日からもお母さんのままだから大丈夫だよ」
優里が無邪気に、にっこりと微笑んでいた。
「お母さんオーディションの存在自体は夢じゃなかったのね……」
夏香は大きなため息をついた。一体どれが夢でどれが現実なのか、もう考える気にもなれなかった。チョコが小さな声で「お疲れワン」と言ったような気もしたが、もう気にしないことにした。
お母さんオーディション 西園寺 亜裕太 @ayuta-saionji
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