第6話 参加者たちの自己PR3

「あの、ここはアイドルオーディションの会場じゃなくて、お母さんオーディションの会場ですよ?」


「はあ? 何ふざけたこと言ってるんですか? お母さんオーディションなんて変なオーディションあるわけないじゃないですか? 司会者まで私のことを馬鹿にしてるってことですか?!」


一応早希は冷静な指摘をしたが、荒れ狂う尾崎奈央はそんな言葉を信じようとはしなかった。もっとも、このやり取りだけ聞いていれば尾崎奈央のほうが正しいことを言っているように聞こえないでもないが……。


「オーディションをふざけた場に変えてしまったあなたたちのことは許せないです! まずは審査員さん、あなたからです。罪を償ってください」


そう言って、持っていた小さなハンドバッグから突然拳銃を取り出し、夏香の方へと銃口を向ける。そんな物騒な物を向けられてしまえば、異常な状況にすっかり慣れてきていた夏香でもさすがに慌てる。


「待って! さすがに脈絡がなさすぎる! 何がどうなったら、突然近所の公園で銃口を向けられることになるのよ!」


そんな夏香の叫び虚しく引き金が引かれ、大きな音が公園内に響いた。


どういう経緯で尾崎奈央がお母さんオーディションのことを知ったのか、どうして拳銃なんて物騒なものを持っているのか、そもそも罪を償うも何も私も意図せずしてここに連れてこられた被害者側であること等、言いたいことは山のようにあったが、すでに体に命中している銃弾のせいで、まともに声が出そうになかった。


撃たれた箇所を触ってみると、おそらく血であろう、手のひらには生温かいものによってびしょびしょに濡れている感触があった。


「ええっと、審査員の夏香ちゃんが撃たれちゃったので、審査不能ということで代わりに私が審査します。優勝は……なんと……」


真横で友達が銃で撃たれたという、訳の分からない状況に遭遇したにも関わらず、早希は特に気にせず審査結果の発表を始めている。この期に及んで、わざわざ優勝者の発表を勿体ぶる演出までしているが、そんなことをする時間があるのなら、一刻も早く救急車を呼んで欲しい。


この間にも、なぜか撃たれた場所から離したはずの手のひらがどんどん濡れていっているし、もう何が起きているのか考えてはいけない気がしてきた。


「優勝は、エントリーNo.4、私の可愛い妹の白井優里です! 今日から優里には、私の妹兼夏香ちゃんのお母さんとして頑張ってもらおうと思います!」


「ややこしいからやめて! 私は私のお母さんに投票するから……」


夏香は掠れる声を振り絞ったが、早希に届いているのかはわからなかった……。

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