しょっぱいもち

茶野 夕子

しょっぱいもち

最近、ある冷凍食品が人気だ。それはお餅だ。一見、普通の餅にしか見えないが、独特なしょっぱい味がしてその味が癖になる。何度も食べたくなってしまう。この餅を販売している食品メーカーは餅以外売っていない。過去に何か販売していた記録もない。

僕は夏休みの自由研究で工場見学のレポートを作ろうと考えた。僕はしょっぱい餅がとても好きだった。その食品メーカーに餅の製造過程を見学できないか問い合せた。しかし、見学は出来ないそうだ。仕方ないので、ネットでその餅の作られ方を調べてみることにした。得られた情報は一つ一つ手作りだということだけだった。

このままでは自由研究として提出できないと思った僕は、家から一番近い工場へ向かうことにした。自転車で四十分の距離にそれはあった。

工場というより刑務所のような見た目をしていた。周囲は高い壁で覆われ、壁の上には有刺鉄線がある。出入口はひとつしかなく、それも閉ざされている。それほどまでに餅のレシピを外に漏らしたくないのかと僕は思った。

しかし、どうしても工場の中を覗きたい僕はドローンを買った。近くの公園からドローンを飛ばす。気付かれないよう工場の屋根まで飛ばすことができた。窓からカメラで覗く。

そこには沢山の子供たちがいた。五歳くらいの子供たちが小さな手で餅をこねている。大粒の涙を流しながら。なぜこの子たちは泣きながら餅を作らされているのだろう。

そう思った途端ドローンの通信が切れた。僕は怖くなってその場から逃げ出した。


それ以来、僕はその餅を食べるのをやめた。

その餅は今も店の冷凍庫に並んでいる。

『人の不幸は蜜の味』と人々は言う。

その餅はとても美味しかった。

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しょっぱいもち 茶野 夕子 @yuko_samo

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