天使のララと女神様

 某世界の天界。


 本人も被害者と言えば被害者であるのだが…その女神は只ひたすらに怒られ続けていた。神ともなれば時間の概念など世界の片隅で羽虫が戯れる間ほども気にならない無限のものである。…故にしつこくねちっこく…滅多に無い不祥事に対しての糾弾タイムが神々の暇つぶしのネタとして続いているのである。

 長すぎる時間。かつて他柱の失敗に対して同じようにしていた彼女は無心に頭を下げ続けるのである。


 トイレの女神様である彼女が引き寄せられたのは異世界の芳香剤。下らない事の様に思えるだろうが…世界は滅びを繰り返す。そして発展も。

基本的に神は世界に入れ知恵はしない。進化はその世界の住人に一任するのだ。そうでなくては他の世界とのバランスを欠いてしまうし…チート過ぎてつまらない。ただ、時として突然の閃きや天啓を与えて文明の進歩を促す事もある。

 先述の通りこの世界での「今」は我々の世界で言うところの、ある程度の文明を残しつつの中世に近いものである。ほんの少し人類に快適さを施そうと吸い寄せられた些細な結果がコレである。

 世界を滅ぼそうとする人口知能が異世界の神を召喚する為に行なった事は『すげぇトイレの芳香剤』の開発であった。わらしべですら長者を生むのだ。因果律とは無限の可能性を秘めている!なんと素晴らしい!

…などと無限に感じる時間をやり過ごす為の自己肯定と否定の狭間を行ったり来たりの妄想を繰り返して辿り着く処はやはり『無』である。

 そっと溜め息を押し殺す彼女は知っているのだ。これが終わったところで山のような始末書(様式美)が待っていることも…。


(はぁ…あの人間、おとなしくしていてくれてるかしら…?)


 同様にまた別の世界、迷える天使は一仕事終えて有頂天になっていた。


「ありがとう!お前本当に神の使いだったんだな!

 こんなアッサリ魔王倒せるとか思わなかったぜ!」


 と、そもそも騙されて付き合わされた事など忘れてしまって意気投合の囁かな冒険を終えた天使は鼻高々である。


「と~ぜんです。世界を救うなんて二度目なんですから~♪

 魔物の王如きが舐めんじゃないですyo♪」


 死闘を終え、登る朝日をほんの数日しか過ごしていない仲間達と眺めながら某天使は元々の目的を思い出す。


「あ、そうでした!…『下界での奇跡』もこれで十分でしょう。扉の承認を…。」


 と、よくあるゲームを模したアニメの様に目の前にウインドを開き、ひとつの項目にタッチする。


『承認されました。天界への扉を開放します。』


 …先程の女神と違い、天使ララメミルの目的は神々の盟約に基づいての自分達の世界から連れ去られた人間と神具の回収…主にこの天使が回収を命じられているのは後者であるが…完全な被害者側でもある。故に他世界への干渉も黙認される。

それでも一応ルールは有り、各世界で何かしらの奇跡を起こし、それぞれの天界に赴く資格が有る事を示せばならないのであった。それが今、承認された。


「やっりました~♪

 出会いは最悪でしたけど…楽しい旅でしたよ。」


 ただ吐き捨てただけの言葉であったが、寿命の短い人間は勝手に意味を求めて感極まる。


「ありがとう!この世界は俺達が守って行く!」

「またいつか会えるかしら?」

「次は負けないぜ~!」


…などと数人程度で攻略されてしまう世界の危機を救った天使はこの世界の神への御目見得を許された。


「ふふ♪

 堕天案件かとも思いましたが…終わってしまえばカワイイ人間達でしたね。

 さて、ここからが本筋です!」


 そう呟きながらララメミル…以後ララと記述する天使は天界への扉の先へ飛び込んでいった…。



 下界では数日が過ぎ、身体も回復したDDは森でリハビリも兼ねたトレーニングをしている。いつになるか解らないが、元の世界に戻った所で即『世界を救った英雄』です!…とは行くまい。命を狙い、狙われる日々は続くのである。

 そんな男を窓から眺めながら少女は傍らの執事が入れてくれたお茶を楽しんでいる。


「…そんな報われない世界になんて、どうして帰りたいのかしら?」


 そんな呟きに執事は静かに答える。


「生き様…というものではないでしょうか?

 聞き及びましたところ生まれながらにそう育てられたようでございますし、

 その在り方に誇りを持っておられる様に感じられます。」


「ふぅ~ん…。そう言うものですの?

 ……つまらない生き方ですわね…。」


 それがDDに対してのみの言葉ではないことを重々承知しながら執事は空になりかけたティーカップを新しいものに取り替え、お茶を注ぐ。


「えてして価値観は人それぞれ…。

 割り切ってしまえば楽になる…ということもあるのではないでしょうか。」


 憂いを帯びた表情で小さな溜め息をつきながらお嬢様は…


「…そうですわね。

 私に言えたことでも無いですわね…。」


そう言って遠い空に想いを焦る…様にする。


「…悪くない台本でございますな…。演技の方も引き込まれます。

 続きが気になる流れでございます。」


 と、ショーンは多少戸惑いながら苦笑いを浮かべている。


「そうかしら?そうかしら♪

 こおゆうのが良いのよ!私も女優というのになれますかしら?」


 色々出来てしまう神具ケラウノスがお嬢様の暇つぶしに提供した映画、ドラマ、アニメに影響を受けたレティは様々なシチュエーションでショーンに演技を披露しているのである。


「そうでございますな…素質は十分と私は…思いますよ。ふふ…。

 楽しそうで何よりでございます、お嬢様、」


 予想に反しない評価をもらい上機嫌。


「そうかしら?そうかしら~♪」


 その笑顔を年老いた執事は、多少憂いを帯びた表情で眺めながら新しい茶菓子をその場で作り出している。The魔法である。


「…すっかりお気に入りでございますね。」


「それはそうですわ♪

 貴方と…」


 その場にいる二人にしか理解の出来ないであろう暖かく切ない沈黙の時間がその場を支配し、執事は冷めかけたお茶をいれかえる。


(…)


「そうですわね…貴方と、貴方とは別の方々とこんなにおしゃべり出来るなんて…。

 それも貴方の御陰ね、

 私は頭が弱いからこんな言葉で伝わるかしら?

 本当にいつも美味しいお茶をありがとう。」


 そう言われた執事は感極まる感情を必死に押さえて畏まり、自身最高の技術をふるっていれたお茶を楽しむ主人を愛おしく愛でながら言う。


「…本日も、良い天気でございますなぁ。」

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

死なずのお嬢と絶殺の殺し屋さん FM @ofutonmofmof

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ