第59話

狼の大群以外に大きなハプニングがあったわけでもなく、地球人だったら長く感じるカイマッドへの旅路もそろそろで終わりそうだ。


「さっきまで誰もいなそうなのどかな平原だったのに急に生活感がいっぱいのところまできたね!」



キャッキャとはしゃぎながらルアは狼の牙を振り回している。


ナイフだと人目に当たったら怪しまれるからルアの癖を誤魔化そうと先日に手に入れた戦利品を使わせている。…これでも多少は怪しいがなんとかいいわけをする手もある。この問題はひとまず解決と言えるだろう。


先程のルアの言葉に耳を傾けてみると、彼女のいう通り偶に木々しかない本当に何もなかったが、徐々に国外なのに露店を開いている者もいる。…おそらくここまで来たのはいいが、何らかの理由で入国ができずに余った商品を消化しようとしているのだろう。


関所に着いたが、ギルドが発行してくれた特別製の手形ですんなりと入れた。


こういう事態に強いのが数少ない利点で、非常に役に立つ。


それなりに高い石壁についた門を抜けると、先ほどの商人の多かったところとは大きく変わって、カイマッドの住人も多く見られるようになり非常に活気に溢れている。


先ほどまで乗っていた馬車を【アイテムボックス】に収納しておき、盗難を恐れる心配もない。


「便利…」


口足らずのラシュカだが、ちゃんと言葉を発しようとする努力をしているのが偉いと思う。(我が子を見る目)


「先ずはギルドに到着の連絡を入れて次に行く場所を教えてもらわなきゃ

な」


「教えてもらわなかったけ?」


「お主は何も聞いておらんかったろ…」


ルアはあの時うとうと寝ようとしていたから話なんて聞いていなかっただろう。


「まぁそれは置いとていて、早く行こうぜ」


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カイマッドのギルドは少し禍々しい雰囲気が醸し出している。


屋根に魔族特有の角を模した…というかなんらかのモンスターの角がブッ刺さってる。…いや、比喩じゃなくて屋根を壊す勢いでブッ刺さってる。


…ともかくこれが地域別のギルドの違いである。


「いらっしゃいませー!」


受付嬢のとこに向かうと、少し紫がかった肌の美少女が対応をしてくれる。


「すまないがレインにつないでもらえるか?」


「…レイン様ですか?…どのような御用件でしょうか?」


「レインの人探しの件の…件の者を連れてきた…といえばわかるか?」


「すみません…そのように申す方がたくさん来ておりまして、此方から対応することは出来ません」


…何となく予想は出来ていたことだ。


「えぇっ!だめなの?これでひと段落…って思ってたのに…」


やっぱりルアは何も考えてなかったか…


もう少し理知的な人間だと思っていたが、…いや、この前の狼騒ぎもあいつナイフの嵐で解決するような数の暴力至高主義、所謂弾幕バカの部類の人間だ。


戦闘の時は少しは頭を捻るだろうが今は頭を休める休憩時間なんだろう。そう考えないとやってらんない。


「一応耳にしておいて貰うが、俺はアイルスタンのギルド長から証をもらっている」


「はいはい、お疲れ様でした。そのようなことを言って戯言を放つ冒険者が沢山いるんですよ。あなたもその1人なのでしょう?対応はできませんので、速やかに依頼をこなしてからお越しください」


シッシと軽くあしらわれるように目で「出て行け」とアピールしてくる。


国が変わるだけでここまで対応が変わるのか…


「お嬢さん…いくらワシが寛容でもその怠惰は見過ごせないぞ…?」


「スティール…落ち着いて…」


少し語気を強く(本当に微量の差だが)ラシュカが注意したことで、スティールも少し落ち着きを見せる。


「…わかった、一度俺らは出ることにしよう」


「今度はちゃんと依頼を達成してから来てくださいね〜」


「チッ」


スティール…舌打ちするんじゃありません!


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その日の夜のギルドミーティングが行われる。


「今日の朝のミーティングでも報告しましたが、アイルスタン支部のギルド長から、こちらに特例依頼人物が向かってきてそろそろ到着の予定との伝言が送られてきていました」


「へ?」


「へ?って…あなたは何も聞いていなかったの?ちゃんとミーティングにはいたはずじゃない」


近くにいる受付嬢仲間に小声で呼ばれている…がそんなことにも気づかずに体から汗がふきでてくる。


(まさかあの人たちは本物…?アイルスタンのギルド長からの証、今日明日あたりに来る特例依頼人物…朝のミーティングで言ってたなんて知らないわよ!いつも重要なことなんて言ってないから聞いてなんかないわよ!)


心の中でも自身の行いの非を認めようとせずにどうにか言い訳をして自分の精神の拠り所を作る。


「す、すみません!その人物たちの特徴はどのようなものなのでしょうか?」


「男性1人と女性が3人のパーティーのようですね」


終わった。私のギルド人生終わった…いや!まだ希望はあるはずだわ!


どうにかして切り抜けるかの糸口を探しだす。


この際少しの罰は受けた方が良さようね…小さな犠牲で大きな利得ってやつね…


多少なら押し通せるし、軽い罰則って言ったって厳重注意とかでしょ。肩身は狭くなるかもだけど、この高給取りの仕事を辞める方が大きな損失よね〜。


だが、この浅はかな考えが彼女自身の行動の視野を狭め、重い、重い鉄球に繋がれた足枷を自身に課していることにまだ気付くことはなかったのだった。


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お久しぶりです。赤井錐音です。

失踪ではないです(土下座)

ようやくこさこの多忙地獄の片鱗から抜け出すことが出来ました…

昨日は短編作成の方に時間を費やし過ぎてしまったので文量は少なめです。


https://kakuyomu.jp/works/16816927860186700188/episodes/16816927860186776626


ちなみにの短編です。


久しぶりの執筆なのでかなり多めに見ていただけると幸いです。


これから徐々に投稿できるかもしれませんのでまだまだお付き合いください。

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