第60話
ギルドを出て人通りの多い道を進む。
「いやー嫌な人もいたもんだねー」
「あぁいうやつほど後で痛い目を見るわい」
ルアもスティールもあの受付嬢への不満が強く印象付いてしまったようだ。
「あの人が言ってたことは半分は合ってたんじゃない?嘘つく人がいて対応に追われてたってとこ。あんなおざなりな対応になっちゃうのも少しは分かるけど…」
「ケイトは甘い!元々接客業というモノは相手に愛想を振らなければ満足度が下がる!態度のでかい客に下手にでるのがよいとは言えないが、あの調子じゃリピーターがつくこともないと思うのじゃ。やはりあの小娘程度の接客の心得の低さは目に余るわい!」
鍛治師として武器の販売も自身でやってきたとスティールは言っていた。その経験も合わさってあの態度は受け入れられないのだろう。
…もっとも、スティールが愛想笑いを振りまく姿を想像することなんてできないのだが。
「まぁ、先人の言葉を借りるなら『愚行を理解こそはすれど、許容することは不可能だな』って言うのが俺の立場かな」
「…少し言葉が重いな。理解は許容と同義、なんていう輩もいるがその先人の考えの方が自己の深層に残って気持ちが悪いような気がするがのぉ」
「俺は先人の考えを推すよ。理解を許容と考えるのなら、極論殺人犯の動機を聞いたらどうして殺したくなったのか理解した。だから、許す。みたいな感じで嫌いなんだよ。どれだけ深層に残したって、身勝手に俺が突っ込んでいる場合もあるから忘れちゃいけない…そう考えてるんだ」
先人と言葉を濁しているが、その言葉を残したのは、前々世のお世話になった先輩だ。少し厨二気質なところがあったけど、それのおかげで俺の心に刺さった言葉も教えてくれる。いい先輩だった。
「難しい言葉ばっかでよくわかんないけど、なんか僕たち見られてるよ?」
「…なんとなく予感はしていたよ」
違和感の正体はやはりそれか。人通りが多くて誰かまでは及ばなかったけど俺らを監視する人がいることはなんとなく胸中の勘が物語っていた。
「だけど、敵意はなさそうだからこっちから接触して見ようかな?」
「迂闊な行動じゃな…」
「もし、戦闘になったとき…関係ない人も危なくなっちゃう…」
「それもそうだな、人気の少ない方に移動するか」
そうして、作戦も決まったから純粋にに魔国の珍しい露店を楽しみながら路地裏に入り込んだ。
すると、案の定さっきから尾行していた奴が姿を現す。
「やはり、気づかれていましたか。流石師匠の言っていた方です。…しかもこちらは片手間程度にしかみられていなさそうですし」
「…お主、ライトか…」
スティールが安心したのか息をつく。俺は何者なのか知らないが、スティールの知人なら…大丈夫なのか?
「スティール…知ってるの?…」
「あぁ、此奴は…レインの弟子じゃな。名前は確か…ライトだったか」
「覚えてていただきありがとうございます」
スティールがいうライトという少年は恭しく礼をした。簡単に外出ができてる身分なため貴族位では無いにしろかなりの教育がされていることが窺える。…これも件のレインが仕込んだことなのか…
「ちょうど良かったのぉ、レインを探すのにはライトを見つけるのが最適じゃからな。探す手間が省けたわい」
「まぁ、師匠は俗に言う引きこもりですからね…もう少し外出した方が師匠の身体が健康になるのですけどね…まぁ、アトリエの中にこもってるからこその感性があるのかもしれませんけどね」
少し戯けた表情でライトは茶化す。
「それにしてもこのような場所で立ち話もなんですし、アトリエまで招待しますよ。…スティールさんのお仲間さんをこちらも探しておりましたので…」
俺の方をみてライトは微笑む。レインの探していた相手を知っていることに少し違和感を覚える。
「レインはともかくなんで俺の顔を知ってるんだ?」
「お兄さん、レインさんは芸術家だよ?似顔絵くらい描けるよー」
「その通りですよ、お嬢さん」
「えへへー!」
あっ、ルアは今日もかわいいな。…おっと、心を落ち着かせよう。ヒィィィィぃぃぃぃ⤴︎⤴︎⤴︎ハァァァァァァァァッッッ…ふぅ。心の中でふざけてるとスティールがハッと思い出したように誤りを正した。
「ちと、言葉を間違えたな。ライトに会うのが最適…というより、レインが引きこもりの今、あのアトリエに行くにはライトがいないとダメじゃったな」
「…?わからない。スティールはアトリエの場所を知ってるんじゃ無いの?」
ラシュカの疑問ももっともだが、これは…
「どうせスティールとかと同じ類のものってことだろ。転移の扉をつかうやつ」
「ご名答じゃ。レインが完全プライベートなものが欲しいと言って材料を闇市で勝ち取ってきたからな」
「それなら僕らも闇市に行けば材料買えるじゃん!」
名案だと言わんばかりにドヤ顔してこちらに顔を向けてくる。が、一瞬でそのドヤも崩れ去る。
「阿呆、値段が法外な上にレインが買ったのは闇市の200年以上の歴史のなかで初めてのものじゃったんじゃ。そんなレアものがホイホイ出てくるわけなかろう」
「あ、そっか。…そもそも僕らお金持ちってわけでも無いから闇市行ってもなんも買えなさそうだもんね〜」
ドヤを決めたのを正面から論破されて少し顔を赤くしながら照れ隠しをしていて、迂闊な発言をしたことに軽く後悔してるな。…うちは財政難なのだ。
「…コホン。立ち話も程々にしてそろそろアトリエに向かいましょうか」
ライトが会話を終わらせて、アトリエに向かうことを薦める。
「…それも、そうだな。この裏通りはまだ来る場所じゃなさそうだ」
一見何も無いように感じるが、違和感を感じていた胸中は収まることがなく、尾行されていたこと以外に何かが、起こりそうだ。
みんなが去った裏路地を最後に振り返ると、影が不気味に笑った気がした。
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