第58話

そうして始まった旅だがそこまで険しい道が俺らを待っているわけではない。


カイマッドは隣国であるため大陸不干渉地である平原を超えたらすぐなので距離としては5日程走らせたら着く計算である。


「着くだけで依頼を達成してお金も貰えるなんてラッキーだね!」


ルアは能天気にもはしゃいで喜んでいる。


「なぁ、ケイト」

「なぁ、スティール」


俺らの声が重なって2人で一度顔を見合わせる。


「「ルアってアホの子じゃね?」」


何か掛け声があった訳ではないが2人して同じことを言ったため思わず吹いてしまった。


「え?え?どう言うこと?」


事態を把握していないルアに俺は説明をする。


「気づいてないのか…レインって人はこれから俺たちの仲間になる可能性がとてつもなく高いんだぞ?そんな人が俺らに依頼達成金を渡す。その後俺らの元に加わったレインさんも当然チームの費用を使うことになる。…ここまでいえば分かるか?」


「…あぁ!レインさんが渡す達成金はレインさん自身も使うんだ!」


「そう、だから俺らに渡したところでレインさんに損害は無いんだ」


「詐欺師っぽい手腕じゃな…」


俺らは彼女の掌の上で踊らされているような…


一筋縄ではいかなそうだぞ…


「そろそろ御者を変わろうか?ラシュカ」


御者の場所に座っているラシュカに話しかける。


なんと意外なことにラシュカは馬車の運転経験があったのだ。


人は見かけによらないものだな…アレクが操縦すると人がいると逐一止めてしまって時間がかかりすぎるし、ロゼアはそもそも馬に好かれることがないらしく運転に適していたのがラシュカしかいなかったのが実情だのこと。


「…大丈夫。何かあったらケイトが対応して…」


この中で一番戦闘力が高いのは男である俺であろう。その判断が賢明で口を挟むことはしなかった。


「僕も十分強いんだけどなぁ…」


「こんな草原で傲慢が対応するほどの化け物なんてそうそう出てこないじゃろ」


ルアは何処から取り出したのかナイフを器用に振り回したり、ジャグリングをしたりして遊んでいる。


まるで手品だ。


ガタガダガタッッッ!


突如起きた地震により馬車が大きく揺れてルアのジャグリングが失敗してカタカタっと馬車内に転がる。


「もう!失敗しちゃったじゃんか!」


この異常より自分の遊びが失敗した方が重要らしい。


なんとも自由なこった…


「スティールは待機、ラシュカは念のためすぐに馬を走らせる準備を。ルアと俺で見に行くぞ」


「…了解」


「武器に困ったらしっかりと言うんじゃぞ?」


「お兄さんに付いていけばいいんだね〜了解〜」


総員に指示を出してすぐさま飛び出る。


近くに魔物らしき反応もないからただのプレートがぶつかって起きた普通の地震かもしれない。


そんな期待を淡くも持っていたが、すぐにそんな希望は打ち崩れる。


「なに…あれ…?」


ルアが心底驚いた反応をしている。


それも当然だ。


俺らが見たものは、俺の察知能力の限度が3キロ。


ギリギリ目視でものが鮮明に見える距離だ。


そこから徐々に狼が進軍してきていて俺の察知能力の圏内に入っていく。


30秒もすれば500体を超えて数えるのが億劫になるほどの大群がこちらにやってきているのだ。


「流石に、多すぎだな…」


数瞬の驚きはあったがデカさしか取り柄のないモンスターなら倒せるが、こうも数で押し切られそうになっているこの状況は好ましくない。


どれだけ個人が強くても次から次へと仲間の死を厭わない奴らが相手なら勝ち目は薄い。


「これが噂のスタンピードってやつか…」


大陸不干渉地は国の領地にならない特殊な土地である。


それゆえに管理が行き届いておらず、モンスターが溢れるばかりの増殖を果たしてしまった…と言うのが正解だろう。


この数を相手にするのは骨が折れるな…とため息をついていると不意に、


「お兄さんならこの狼どのくらいなら倒せる?」


「…ざっと見積もって600ぐらいだな」


実はもっと狩れる可能性があるが少なく見積もって現実的な数値を教える。


今の総群数は恐らく1000以上であろう。

600+αを倒したところで100以上の狼に囲まれて喰われてthe end…と言うのが現実なのだろう。


「あと400を僕が受け付けるから任せてもいい?」


とんでもない提案をするものだ。


「お前ナイフが主の武器なんだよな。400体を倒すのに必要な攻撃回数は最低でも400だろ?その前にお前が力尽きてドボンだろ」


「…フフッようやく僕の能力を見せる時がきたね!」


「カッコつけてないでさっさとやるぞ」


「ノリ悪い〜!」


そう言って俺はスティールがくれた小太刀「宵月」を装備してチートな短剣も一応準備はしておく。


「じゃあっ!いっくよ!」


そう言って思い切りよく振りかぶって手に力を込めている。


その力は魔力らしく、手のひらに淡く魔力が凝縮されているのがその証拠だろう。


「えぇっい!」


そのまま振りかぶって魔力のかたまりを敵の軍の真上あたりに来るように投げつけている。


「よっし…!穿て、刃よ。切り裂け、雷鳴すらも!放たれろ!【桜刃散謳】!」


そうルアが呟いた瞬間魔力の固まりから無数のナイフが飛ばされて狼の身体に当たってゆく。


絶命する個体や、致命傷をくらい下手に動けなくなった狼は反芻近くに登りルアの恐ろしさの片鱗を見ている気がする。


「あとは任せたよ〜」


「…今のやつの話、聞かせて貰うからな!」


「ようやく見せることが出来たからね!いっぱい話させて貰うよ!」


気になっていたから全てを話させるつもりで聞き出してやる…


と今後の予定を決めたところでここで力尽きることは出来ないな…


って俺神になったけど寿命が延びる以外メリットはないのか?


まぁそんなことはいい。


死ななければどうってことはないからな。


宵月は今も煌々とした煌めきを乱反射して輝いている。


剣先を大群に向かって振り、こう宣言する。


「おい!狼ども!こっから先は死んでもらうことでお前たちの行き道を決めてやるよ」


彼らの行き先は「天国」か「地獄」だな。


神の存在は認知してるしなんなら俺が神なのだから信心深く…って信心を俺が持っていいのか?


魔力を込めて叫んだことが効果的だったのか声が届く範囲で聞こえた狼の動きが鈍くなって一時こうぐんが行軍が止まる。


そこに先程ルアが発生させたナイフが

彼らの五臓六腑たちを切り裂いていく。

確実に致命傷を喰らっているのが…450体ほとか。




あとは俺の仕事だ。


「【我流実践剣術】…三の剣!【闇喰】!」


魔力を溜めた刃を横凪に振るう。


そこから真っ暗な闇の衝撃波が血肉を喰らうように乱雑な波を立てて狼を通り去っていく。


衝撃波が消え切った瞬間、


狼が時間差で斬られて、死んでいった。

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