オルクセン軍野戦調理教範④魚介の準備と塩漬けニシン

<魚介について>

 魚(海鮮魚、淡水魚)、ロブスター、カニ、ザリガニなどの魚介類は、漁獲されてからただちに調理するほうがよい。少なくとも六時間から七時間以内に調理すること。

 出征先で現地調達する場合、鮮度を念入りに確認しなければならない。

 下準備には鱗を掻き、頭と鰭を取り去り、腹を開いてアラを取り覗いて、清涼な水で洗浄する。可能であればヴィネガーを水で割ったもので十分に洗浄することが望ましい。

 魚介は、大きさや調理器具に応じて、丸ごと、または切り身にして調理する。

 骨は丁寧に取り去ること。

 鮮魚だけでなく、タラの塩漬けや燻製、ニシンの塩漬けや酢漬けなども活用できる。

 タラ及びニシンの塩漬けは塩抜きが必要であり、短冊切りにして四八時間浸し、時々水を変え、できればヴィネガーを加え、常に水で覆われるようにしなければならない。

 手間のかかる作業だが、調理時間そのものは一〇分から二〇分で済み、ジャガイモや野菜類との煮込み料理にも合う。

 何よりも目先を変えることができ、兵士たちに新鮮な喜びをもたらすだろう。



<塩漬けニシンのホワイトソース、茹でジャガイモ添え>

 まず、塩抜きしたニシンの皮を取り去り、切り分ける。

 細かく刻んだ野菜、白コショウ、ヴィネガーとともに煮込み、柔らかく仕上げるのがコツだ。ヴィネガーには味を調えるとともに、ニシンの身を柔らかくする効果がある。

 ホワイトソースは、新鮮な牛乳、小麦粉、バター、マスタード、スパイスで作るとよい。サラりとしたスープ状にしたい場合は、小麦粉とバターを除く。

 ニシンにたっぷりとかけまわし、別に塩茹でしたジャガイモを添える。ジャガイモは新季のものか、小粒のものを選んで皮を剥き、たっぷりと使用すれば、表面も艶やかで、見た目にも兵士たちを喜ばせるだろう。

 このレシピは塩漬けタラにも応用できるし、むろん新鮮な場合にも使える。

 野戦炊事教本には、出生地で採集できる野草や山菜の活用方法と絵図が記載されている。この料理に限らず、パセリを散らすと鮮やかだ。

 美味しく、兵士たちを喜ばせる食事とは、味だけでなく、匂い、見た目、盛り付けなどの相乗であることを忘れないように。



 ※オルクセン軍野戦糧食史研究家より 

 食に拘るオーク族を主体としたオルクセン軍は、実に様々な努力と創意工夫を凝らして兵食の向上を図っていた。

 このレシピの場合、単純に「ニシンのホワイトソース」とするのではなく、「塩漬け」(オルクセン内陸地方出身者には故郷での料理を思わせた)、「茹でジャガイモ添え」と名称を装飾することで士気の向上効果を狙っていたのである。

 これはオルクセン軍野戦調理教範に記載されたレシピ全般に言えることで、「国王陛下風」であるとか、「田舎のお母さん風」、「生ベーコン風味」などといった言葉が添えられていた。

 デュートネ戦争時、出征先であった美食の国グロワールの料理技法に学んだ手法であったとされている。

 驚くべきことに、国王グスタフ及び軍の高官たちは演習時などの機会を利用して自ら兵食を試し、そんなレシピ名の考案までやっていた。

 炊事班はこれらのレシピ名を、ときに配食列に呼びかけ、ときに黒板にチョークで記して掲示するなどして、兵士たちを喜ばせたのである。



(続)

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