オルクセン軍野戦調理教本② 野戦炊事車とミートボール

 野戦炊事車について


 新採用の八七二年型野戦炊事車は、最大で二二五名のオーク族兵に食事を供給できる中央のスープ調理釜と、右側のコーヒー用釜及び鋳鉄製グラインダーのコーヒーミル及び胡椒とスパイス入れ、左側のオーブン及びミンチマシーンから成る。

 従来の八六一年型との最大の相違点は、グートブロード式圧力釜をスープ調理釜に採用し、上部中央にある安全弁により余熱調理が可能な点である。これは最初に燃料へ着火すると、そののちは殆ど加熱する必要なく最大約二時間の調理が可能だ。走行中の調理すら可能であるが、安全弁の構造上、緊急時に限ること。

 圧力鍋は、内鍋と外鍋の二重構造である。中空となった両者の間には、内鍋の焦げ付き防止と保温のためグリセリンが充填されている。残量は液量計測棒を引き抜いて目視により確認し、、不足量は注入口に漏斗を挿入して補充すること。

 同様に、八七二年式より新たに加わったオーブンでは、肉料理やハムのロースト、簡単な温めなどが可能である。大変便利であることは言うまでもないが、焦げ付きを防ぐため十分な油脂を使用すること。

 各火室の燃料には主に薪を使用するが、石炭や練炭でも同様の効果を発揮できる。緊急消火には、車体下部のダンパーを解放し、灰を一気に叩き落すことで対応すること。

 出征地においては藪や木の枯れた枝は、燃料として最適である。しかし、頻繁に利用する水場の近くでは、乾燥した木材が不足するのが常である。このことが分かっている、あるいは予想される場合は、道中で薪を集めて運ぶことを推奨する。

 また、木材の乏しい場所では、藪を伐採することは、同地での重要な木材のストックを失うことを意味するため、薪のために自生藪の伐採は避けなければならない。補給品木箱や叺を再利用し、徹底的に活用すること。

 炊事車の煙突には、排煙と火力調整用に三段階の開閉器を備える。「開、半開、閉鎖」から成り、通常移動時には「閉」とすること。降雨時に「開」にしたままにすると、雨水が火室に侵入してしまうからである。

 炊事車には次の付属品が格納されている。

 燃料用斧及びシャベル、調理用皿とナイフ各種、石炭すくいと火掻き棒、肉用ノコギリと肉用フォーク。


 炊事車には、前車が連結されている。

 前車には、以下の装備がある。

 塩、コーヒー、紅茶入れ。四〇〇グラム牛缶詰一五缶収納木箱で二〇〇食分格納可能な缶詰入れ。卵入り乾パン二〇〇袋及びキャンバス製水バケツ入れ。五〇キログラム収納の輓馬用大型飼葉袋入れ。

 また以下のものを標準品として備える。

 背負式二〇リットル保温缶、コーヒー粉末保管缶、コーヒー保温缶、水缶、歯車式缶オープナー、燃料炭ショベルと斧、火掻。

 展開した野戦炊事場においては、前車と炊事車の連結を切り離し、各種食材や調味料などを取り出しやすいよう左右に並べて運用すること。作業の迅速化に繋がる。なお、地形、状況等に依ってはこの限りではない。



オルクセン軍事史研究者より註

※野戦調理教本に記載されている野戦炊事車は、オルクセン軍が使用していた二形式の野戦炊事車のうち大型のものである。小型の軽炊事車は、この約半分の能力があった。前車は共通である。軽炊事車は、アンファウグリア旅団に代表される騎兵部隊などに装備されている。

※この他に、手押し車式の「野戦釜」と呼ばれる補助炊事具や大型鍋、大型フライパン、焚火台が正式装備として存在した。これらは戦後になって大量放出され、オルクセン本国及び旧エルフィンド領域において、町の呼売商やコーヒースタンドに使用されている。

※オルクセン軍は、野戦炊事車の装備更新中にベレリアント戦争に突入したため、戦地においては新旧四形式の野戦炊事車が混在する結果になった。八六一年型の「重」及び「軽」、八七二年型の「重」及び「軽」である。八六一年型は圧力鍋の未発達な時期に採用されたため、移動時の調理は不可能であり、燃料消費量も多く、またオーブンは装備されていない。

※当然のことであるが、戦地においては現地調達の調理器具などの、臨機な「私物」が大量に存在している。代表例として、野戦炊事車には上記の通り機械歯車式の缶オープナーが標準装備として付属していたが、簡易なハンドオープナーはどの隊の調理担当もこぞって入手していたようである。



<国王陛下風ミートボール>

 刻んだ豚肉に新鮮な卵と小麦粉を少々加えてボール状にし、かぶるくらいの肉汁で茹で、一五分ほど浸しておく。

 肉汁とルーで軽いグレイビーソース(次のレシピ参照)を作り、レモン、ワインヴィネガー、白ワインで味付けする。

 特別な日、慶事の祝いにはミートボールを大きめに作ること!


<オルクセン式グレイビーソース>

 おいしいグレイビーソースを作る秘訣は何よりも肉汁の旨味であり、その次にはルーやすりつぶした白パンなどによるとろみ付けの妙技である。重くなりすぎてはいけない。

 脂を溶かし、細かく細かく刻んだキャベツを炒め、小麦粉を加えて数分とろみをつけ、柔らかく甘みを出す。

 次にブイヨンと少量のトマトペーストを加える。

 丁寧に石突を取り、薄くスライスするか微塵切りにしたマッシュルームを加え、塩、胡椒、パプリカ、ヴィネガーで味を調える。

 オルクセン風グレイビーソースは、食欲をそそるクリーミーな白さが特徴である!

 料理に合わせるとき、味を調えるのは最後にしなければならない。隠し味であるレモンやワインヴィネガーの量は繊細に。決して肉汁の旨味を妨げてはならないのだ。

 そうして先任下士官の味見を見守ること!

 丁寧に技巧を凝らせば、国王陛下も愛されている逸品となる!



(続)

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