オルクセン軍野戦調理教本① 序文とグラーシュ

 八七六年版オルクセン軍野戦調理教本



 序文


 良質な栄養は兵士の健康を維持し、スタミナをつけ、疾病に対する抵抗力を高める。

 食事は戦地といえども(そうであるがこそ!)、楽しく食欲をそそり、美味でなければならないし、身体を壊さず、栄養を可能な限り多く摂れるよう調理し、消化も良好であることが望ましい。

 出征地の兵士は、全ての者が理想的な食事を提供されなければならない。

 本書の目的は、最も不利な条件下、戦地で利用可能な最も簡易な手段で、野戦炊事車による調理が行えるよう、供給される食糧を有効に調理可能であることを示すことである。

 困難であるからといって、食事の準備に手を抜くようなことがあってはならない。丁寧に調理するという小さな努力の積み重ねは、兵一名一名にとって健康を増進し、全軍にとっては部隊の効率を高めるというように、二重の意味で報われるのだ。

 とくに肉類の供給と調理には気を使わなければならない。

 我がオルクセンは豊かとなり、国民一名当たりの肉類消費は、今星紀のうちに約四倍に達しているからだ。八一六年には二七・二キログラム、八六一年には四六・四キログラム、そして今では一〇四・六キログラムの肉類をオーク族は消費する。我らの栄養学者たちは、肉類の栄養価は植物性食品の約三倍から五倍の効果を発揮すると結論づけている。

 新鮮な肉は二から三キログラムの大きさに切り、釜で調理し、利用可能な容器に保存する。ジャガイモや野菜などは、まず肉のブイヨンで調理する。まな板で肉を切り分けるのは最後にし、切り分けた肉を個別に盛り付けるよう心掛けること。

 兵士たちは、何よりも肉類を見たがるものなのだ!

 その他の食材もおろそかにしてよいというわけではない。

 日々の食事に用いる食材は、変化に富んだものを選ぶことが重要である。乏しい種類の食材しか入手できない場合でも、調理の手法を頻繁に変えて単調にならないようにしなければならない。また、例え少量でも可能な限り新鮮な食品を加えるべきである。

 食材を選ぶ際には、気候条件も考慮する必要がある。冬季においては肉類及び動物性油脂が重要である。兵士たちの体力を確保する。

 種族間における身体的及び医学的構造の差異についても留意すること!

 コボルト族兵たちは玉ネギ、ネギ、エシャロット、アサツキなどの類を摂取することが出来ない。煮ても、焼いても、何をしても駄目だ。慎重に注意を払わなければならない。やむを得ず調達内容に含まれる場合は、代わってコボルト族兵たちへの肉類の供給を多めにして対処すべきである。

 ネギ類を使用せず調味に深みを出すためには、生キャベツ及び乾燥キャベツが極めて有効である。徹底的に活用すること。

 ドワーフ族兵たちはスパイスの増量を望むことが多いが、あらゆる調理担当者は彼らの言葉に素直に耳を傾けてはならない。他種族の兵は舌がしびれるほど辛くなってしまう!

 大鷲族、巨狼族については完全に別の問題である。彼らは肉類のみを消費するからだ。

 全種族の兵は、特別の許可がなされた場合を除き、日中はアルコールを飲用してはならない。夜だけは酒保での酒類(ブランデー、ワイン、ウィスキー、火酒など)の販売と飲酒を許可する。

 熱くした紅茶あるいはコーヒーが、冬季における飲料としては最適で、また無害な手段である。

 調理担当者たちへ。

 別書に記載された各レシピの食材量は、最大二〇〇名のオーク族兵への供給を前提としたものである。必要な量だけを調理すること! また、脂肪の消費量を節約すること! 戦地において貴重な食材の節約に貢献できる。

 すべての食材を有効に使うこと。野菜を洗ったり、ジャガイモの皮をむいたりするときは、無駄を省くように。骨、筋、野菜の芯の部分や茎はしっかり火を通すこと。そのうえで、残渣物は丁寧に廃棄すること。これは腐敗を防ぎ、ひいては疫病を防ぐことにも繋がる。

 すべての食材、できればみじん切りにしていない食材は、調理の直前によく洗うことを心掛けねばならない。真水の節約となり、そして我が栄養学者たちは水分が栄養素を流出させると結論づけている。

 乾燥食品(ジャガイモ、野菜、果物)は、利用可能な容器に3時間、豆類(エンドウ豆、豆類、レンズ豆)はさらに長く浸す! 浸した水は流さず、調理に使う!

 それでは調理担当者諸君、具体的なレシピについて読み進めて行こう。

 なお、各レシピは絶対的なものではないことを明記しておく。部隊衛戍地方、出征先の気候、調達内容を勘案し、臨機に対応すること。

 技術を会得し、経験を深め、自信を持て。

 全軍を支えているのは、誰よりも君たちなのだから。



<グラーシュ>

 まず牛肉を胡桃大に角切りにし、小麦粉をまぶす。そして、塩と胡椒で味付けする。

 フライパンまたは野戦炊事車の補助釜で肉に焼き目をつけ、溢れ出る肉汁を煮詰める。

 肉にスープか水(ビーフブイヨンでも可)を加え、つづいて賽の目切りにしたジャガイモ、野菜、乾燥野菜類を投入。

 レモンの皮、タイム、つぶしたニンニク、パプリカで味付けし、ワインヴィネガーを少々、入手可能であれば赤ワインを加える。トマトピューレ(トマトをつぶしたもの)を加えて全体を濃厚にし、二時間煮込む。

 出来上がる少し前に、牛乳と小麦粉を混ぜてとろみをつけ、混ぜ合わせる。これはペースト状にするほどの濃度ではないことに注意すること。

 このレシピの秘訣は、よく混ぜることだ! 

 急を要する野戦調理においては、味を引き出すより加える方がずっと簡単である!

 柔らかく腹持ちもよい南部地方風の平打ちヌードルや、どんな兵士も満面の笑みで喜ぶマッシュポテトなどと供すると、極上の「軍隊シチュー」となる。



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