とある歴史書② オルクセン王国史発言集
<グスタフ・ファルケンハイン>
「狡猾。詐術。策謀。悲しいかな、どれも外交には必要だ。誰にだって分かっているんだ、そんなことは。だがせめて、相手に気取られぬほどの誠心誠意を尽くせ。この弱肉強食の世にも何か一つくらい、まともなものがあるんだと、夢を見せてやれ。それが自国の国益を叶える外交官というものだ」
「臣下へ名誉など求めるな。それは世の生きとし生ける者全てが、自ら発露させ自ら勝ち取るものだ。他者に強要するものではない」
「為政者にとって、死者を祭り上げることほど容易で、効果があり、恥ずべき仕事はない」
「戦争と外交で不誠実をやれば、千年のちも語られる。ましてやそれで負けなどすれば。未だ生まれぬ国、言語でさえ」
「戦争を仕掛ける者は、勝て。勝っても神になどはなれぬが、歴史書を都合よく書かせる程度のことは出来る」
「権力とは授かるものだ。無理に奪い取ろうとすれば、我が身までを焼き尽くす」
「郵便局に行けば、私の肖像など誰からも舐められているし、力一杯スタンプを押されている。王なぞそんなものだ」
「灯台守、作家、権力者。世の職業で、これほど孤独なものはない」
「いいか。トップに立つ者が、有能で、始終懸命でいなければならない国とは、良いことであるようで実は不幸なことなのだ。例えどんな奴が上に立とうと、民の生活は揺るぎもしない―――それが本当の意味で幸せな国というものだ」
「権力者は刹那的感情で批判者を遠ざけてはいけない。
結果を出し、物事を成し遂げる者なら、重く取り立てよ。
代案を用意できる者であれば、その部下にせよ。
批判が目的になっているだけの者であったなら、取るに足らない」
「若い者は、腹いっぱい食え。心おきなく、勘定も気にせず、子供でさえも。そんな社会を作ってやることが、大人の役目だ」
「休暇は、神聖な務めである」
「悪魔でさえ、手前勝手に聖なる言葉を引用する。魔王が言うのだから間違いない」
「大きな市場ほど楽しい場所はないな。一日中でもいられる」
「車は、愛する者と同じだ。我儘で、癇癪持ち、手のかかる奴ほど離れられなくなる」
「弱ったことに、権力者は楽しい。間違いなく、そんな瞬間がある」
「オムレツを食べるためには、まず卵を割らなければならない」
<ディネルース・アンダリエル>
「本当に喧嘩に勝ちたいのならば、名乗りを上げて正面から殴りかかる奴があるか。そっと近づいて、不意に急所を刺せた奴が必ず勝つ」
「勝ちたければ、喋りすぎるな。少し酔った顔をして黙っているほうがまだマシだ。男にも、戦争にも」
「感覚を鋭くしていたければ、贅沢にはなるな。質素にしていろ」
「酒瓶一本。鰊の酢漬け一つ。玉葱の微塵切りまで添えられるならば極上。それだけあれば、一夜の宴には贅沢に過ぎるというものだ」
「楽しいことは、幾らあってもいい。その通りだ。だが、一度に一つ。同時並行は駄目だ。それが心から楽しみ、幸せであれる秘訣」
「貴方は、浮気などしない。それは私もわかっている。もし貴方が他の誰かに入れ込む日が来たとしたら・・・ それは本気だ。貴方を殺して私も死ぬ」
「外国というものは面白い。見慣れない光景ばかりで、魅力的だ。言葉、習慣、市場で売られている野菜の種類さえ異なる」
「何でも覚えている奴と飲むのは御免だ」
「あのころの火酒ときたら、今日び酒屋で売っているものとはまるで違っていたな。喉を焼き、胃の腑で爆発した」
「我らに舌は一枚しかないが、目と耳は二つずつある」
<アロイジウス・シュヴェーリン>
「匂いを馬鹿にするものではない。百万の伝聞に勝る」
「蛮勇、蛮勇、蛮勇。いまの世には、いかにも悪しきものだと思われているがな。ときに一片の蛮勇が、世のいかなる戦術原則をも打ち破ってしまうことがあるのだ」
「いいか。攻撃しろ、包囲しろ、損害を与えろじゃない。殲滅しろ」
「いつ前進を開始するかだと? いまだ」
「生きるか死ぬか悩んだときは、突き進むに限る」
「命令の根幹は常に攻撃的でなければならない。運動は攻撃のためで、防禦もまた次の攻撃のためである」
「兵士たちよ! 敵軍の耳を掴み、引き摺り倒し、尻を蹴飛ばせ。尻を叩かれて喜ぶような者は、キャメロット人の変態だけだ」
「儂は戦場が好きだ」
「ひとは微笑み、善行を成し、同時に悪党たり得る」
<カール・ヘルムート・ゼーベック>
「物資の集積と補給を遺憾ならしめる事は、指揮官と幕僚にとって最大の義務である」
「組織を有効たらしめる最も肝要な手法は、得意な事は得意な奴に任せるということだ」
「戦ある日に備えぬ国家は、今日の平和も維持できぬ」
「よそはいざしらず、我が故郷でワインといえば赤だ」
<エーリッヒ・グレーベン>
「参謀肩章を吊っている者は、さも当然でございと将軍も兵も騙せなければならん。そんな奴でなければ、敵すら騙せなど出来るものか」
「何をやっとる! 参謀たる者、敵弾が己の立っている場所に届くか、そうでないか程度のことは瞬時に見極めをつけんか」
「事前に収集できる情報、ありとあらゆる想像力を働かせて作戦は立てろ。だが本当に大事なことはそこじゃない。作戦とは、そこまでやってなお、実態に合わせて修正する代物であるということだ」
「好機は一瞬のみ。だが失態は二四時間三六五日、待ち構えている」
「砲弾を浪費できない軍隊は、兵の命を浪費する」
「いかなる場合でも機動せよ。運動力を失った軍隊は、敵の三倍いなければ負ける」
「参謀肩章を外せ! 貴官の栄達の為に、豊穣の祖国は陸軍大学校で学ばせたのではない」
「天候と女房にだけは勝てない。戦を吹っ掛けようとも思わない」
<カール・ローテンベルガー>
「完膚なきまでに倒したい敵がいれば、世の誰よりも、敵自身よりさえも敵について詳しくなれ」
「諜報機関とは信用に依ってこそ成り立つ。信用なき諜報は、国家の最高権力者にさえ危険である」
<フランク・ザウム>
「世界で起きていることを見つめ、心でメモをし、己の先入観さえ精査して、解説する。記者はそうでなきゃ」
「記者の数だけ意見はあるが、そいつが必要なのは社説だけだね」
「取材費をケチる社は、いい仕事はできない」
<ミヒャエル・ツヴェティケン>
「部下には笑うことを教えよ。どんな苦境でもユーモアを失わず、笑っていられる兵がいちばん強い」
「部隊は固めて用いよ。例え一個大隊でも、固まってさえいれば壊乱することはない」
「今朝は寒いな。兵たちにコーヒーは行き届いているか?」
<イアヴァスリル・アイナリンド>
「騎兵は馬の側で死ぬのだ」
「声を立てずに笑っているときの姐様は怖い。素面のときの姐様はもっと怖い」
<アドヴィン>
「早口になるな。気が狂っているように見えるぞ」
「戦士は、戦士を。誇り高き者は、誇り高き者を。狼は、狼たるを知る」
(続)
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