随想録15 国家憲兵隊予備隊

 「特設委員会」と呼ばれる内部組織が、占領軍総司令部で正式に出来上がったのは七月二二日のことだ。

 総司令部参謀副長ライスヴィッツ大佐、彼の率いる作戦部、そして兵要地誌局長シュティーバー大佐など参謀部側の三部局が、協同するかたちで作り上げた組織である。

 名称からは一見何を担当するのか分からないこのグループは、国家憲兵隊予備隊創設に向けた準備委員会的存在だった。

 組織が立ち上がると、早速エルフィンド暫定政府業務連絡局のシグリアン局長を呼び出し、創設へ向けた流れの概要を記した文書の手交、そしてエルフィンド側で担当者を定めること、両者の迅速な協議の実施を通告した。

 エルフィンド暫定政府側は、これでようやく本件に関するオルクセン側実務を参謀部が担っていることを把握した、という。

 初期段階で、彼女たちが混乱したのも無理はない。

 暫定政府に政治及び行政上の指導監督を行うのは、特別参謀部だ。より正確に言えば、そのなかで軍政局MVが中心になっている。

 ところがこの件に関していえば、本来は占領軍そのものの軍令組織である参謀部が出張ってきた―――

 特設委員会が通告した内容は、事細かな部分にまで及んでいた。

 エルフィンド警察の警察署を募集事務所とすること、集めた要員は管区警察学校で教育を実施すること、教育実施は本国から一〇〇名が到着する顧問団が担うこと。

 一任期三年。給与は初任で一二ラングから始まり、基幹要員となった者には六〇ラング。オルクセン通貨による月俸式。衣、食、住の三点は保証する。任期を務めあげて離職を希望する者には、退職金も用意する。

 必要な銃火器類はオルクセン側が用意するが、被服類等の非戦闘装備は極力エルフィンド内から調達し、経済効果も見込む。

 第一期募集は、遅くとも八月半ば開始が望ましい―――

 エルフィンド暫定政府側官僚たちは、安堵した。

 いままでは協力をやろうにも、内容に具体性がなく右往左往するばかりだった。

 準備期間約一カ月というのも、オルクセン側要求の早急さを感じさせはするものの、どうにか対応できるものである。

 早速閣議が持たれ、内閣書記官長が準備担当の長に定められて、治安維持担当の国務大臣たる内相が実施を担う、という大筋が決まった。

 内容の一部が占領軍総司令部側の手により公表もされると、エルフィンド内の話題は予備隊で持ちきりとなった。

 月一二ラングという初任給は、決して多くない。

 しかし出世も見込め、最高額とされた六〇ラングはオルクセン本土における熟練工並である。

 何よりもオルクセン通貨で支払われるという部分が魅力的であったし、退職金まで用意されるというのなら、一任期務めれば何か商売を開く元手くらいにはなりそうだ。

 衣食住が保証されるという点も、困窮している者には魅力的だった。

 まだ募集も始まっていないというのに、各地の警察署には問い合わせに詰めかける白エルフ族が殺到した―――



 このような世情のなか。

 怪商アダウィアル・レマーリアンが、第八軍野戦憲兵隊に逮捕された。

 七月二四日のことだ。

 容疑は二つ。

 占領軍調達物資の不正使用と、これを揉み消すためにエルフィンド暫定政権一部官僚に賄賂を送った、というものである。

 巨躯のオーク族兵に両腕を掴まれ連行されるとき、突如の事態に狼狽えるばかりの執事や愛人たちを前に、レマーリアンは憤懣やるせないという態度で叫んだ。

「オルクセンの奴ら! 散々良い思いをしたうえで、私を―――この私を捕まえやがった!」

 突如として邸宅に踏み込まれ、また同様の動きはティリオンのニンブス街にあったオフィス、各地で営む彼女のホテル、陸運会社などでも見られた。

 主体となったのは全ての個所においてオルクセン側の野戦憲兵で、これにエルフィンド暫定政府で経済犯罪を担当している特別検察局の検察官たちが随行していた。ティリオン警視庁に代表されるような、エルフィンド警察の警察官はひとりもいない。

 捜査陣は、帳簿の類を徹底的に押収し、用意の木箱に詰め、更には出勤してきたばかりのところをガサ入れに遭い何事かと驚く経理担当者などとともに、幌付き輜重馬車の荷台に押し込んだ。

 向かった先は、ティリオンにあった第八軍軍律審判所である。

 たいへん面倒な話だが、いわゆる軍法裁判と軍律審判は異なる。前者は命令違反等の軍法違反を犯した軍人に対するもので、特別司法手続きの一種。後者は占領地に施行した軍律に触れた被占領民に実施する、行政手続きだ。軍律は「法」ではなく、「行政規則」にあたる。ゆえに「裁判」ではなく「審判」という。

 また同日には、暫定政府の内務省警察局調達課長、商務省運輸局部長、同技官、ハートウィグ銀行副頭取といった者たちも収賄側として家宅捜査を受け、身柄拘束のうえ、現金、宝石、高級衣類、香水、雨傘、靴、タバコ、コーヒー豆、糖蜜といった類が証拠物品として押収された。

 レマーリアンの愛人たちは、知らせを受けて邸宅に駆け付けた、元エルフィンド軍参謀上がりの腹心に泣きついた。レマーリアンの営んでいた企業―――エルフィク観光社の専務にあたる。

 彼女はどうにか食事を差し入れたいという口実を用意し、また第八軍司令部に通訳として雇用されていた元エルフィンド軍将校に知己があったので、この伝手を頼った。

 拘置所の近くにある、指定業者からの弁当なら構わないという占領軍の了承を翌日に取り付け、ジャガイモ粉入りライ麦パンで出来たサンドウィッチ、ゆで卵二個を用意し、面会に臨んでいる。

「会長、こんな粗末な物しか手に入らず・・・ 申し訳ございません」

 と詫びる腹心に、レマーリアンは、

「構わん、構わん」

 文句も言わずそれを平らげた。

 一般市民向けに、質の悪いライ麦粉へ、更に一割ほどもジャガイモ粉を混ぜた不味い代物だ。

「知っているか。こうした方がライ麦だけのパンより、よほど柔らかくなるんだ。私はむしろ好きだな」

 若いころはこれでも贅沢な料理だったと、レマーリアンは意に介さなかった。

 彼女は、己の出自を誰にも詳しく語ったことはない。

 だがどうやら、北部の非主流氏族の一つ―――それもずっと小さく、貧しい氏族の出だったらしいということを、腹心は朧気ながら気づいている。

 どうやらその生い立ちが、尽きることもない欲望への根幹になっている、とも。

「・・・やられたよ」

 レマーリアンは、ぽつり、と呟く。

 悄然としている―――というのとは、違っていた。

 聴取で何があったのか、予想外に元気なのだ。

 そうして、

「私としたことが、“読み”を違えてしまった」

「・・・会長?」

「まあ、あまり心配しなくていい。奴らの狙いは、私じゃないんだ」

 謎のような事を言った。



 国家憲兵隊予備隊の募集が始まったのは、八月一三日のことだ。

 三日間で約一八万名の応募があり、募集が締め切られた五日目には約三八万名に達している。実に五・一倍という競争率である。

 準備期間中には、エルフィンド警察で現役警官の者は応募してはならないという追加条件ができ、暫定政府側実施担当者たちの気を揉ませたが、これは止むを得ない措置であったと言えよう。

 似たような給与水準とはいえ、衣食住が保証されたうえにオルクセン通貨払い、オルクセン側の直接雇用とあれば、転職者が出てしまうことが予想された。警察官の員数が減ってしまったら、返って治安維持能力は低下してしまう。

 本末転倒を引き起こさぬように取られた措置であった。

 応募書類を警察署で希望者に配布し、採用試験が始まったのは募集開始の四日後。

 ベレリアンド半島全土の警察署、警察学校、一部の村会所や公会堂といった諸施設、約一八〇箇所を利用した。

 四〇名ほどずつひと固まりになり、順に身体測定を受ける。

 意外なことに検査官たちの物腰は丁寧であり、言葉使いも親切だ。旧エルフィンド軍はおろか、このころの警察官採用試験などよりも余程開放的な空気で、そこがオルクセンらしいやり方だった。少なくとも下着姿になる身体測定においては、係官側は全て同性の白エルフ族で構成されているという、念の入りようである。

 身長、体重、胸囲、視力、聴力、体の柔軟度、四肢の関節検査、そして魔術力の強弱―――

 係官たちがさっと数値や問題の有無を読み取り、用意された定型のカードに記入していく。オルクセンは何でもカードで管理する、などと思った者もいた。

 身体検査が済むと、知能検査があった。

 生年月日、全国で急速に整備されたオルクセン式戸籍に基づく本籍地、募集要項のひとつであった挨拶程度の低地オルク語がやれるか、文字が読めるかといった質問のあと、

「軍隊経験はおありですか? ほう、少尉。最終任地は・・・ネニング?」

「つい近頃、住所を変えておられますね。理由は?」

「故郷の白銀樹から、遠く離れた任地になったとしても構いませんか?」

「教義についてどう思いますか?」

 といった質疑応答がある。

 幾らかひっかけのような内容が潜ませてあり、これは簡易的な思想信条の篩分けだった。 

 オルクセン側としては、過激な教義原理主義者、旧体制の信奉者などを入隊させるわけにはいかない―――

 一キロは何メートルか、面積の出し方といった質問もあった。紙や鉛筆は使ってはいけないことになっていて、さっと答える必要がある。回答の正誤とともに、頭の回転の速さをみる試験だった。

 待機列で並んでいるとき、署長や係官にいきなり背中を叩かれて呼び出しを受け、その場で仮合格の判定を受け取る者もいた。

 体格の良い者、魔術の強い者、そして旧軍経験者などである。

「軍隊経験は? ・・・ある? なお結構だ、君は即日合格だよ」 

 最終的な合否判定は、約二週間から一カ月後に各自の居住地に郵送され、合格者は各州の管区警察学校へと出頭を命じられた。

 応募総数三八万二三〇〇名。このうち合格者は七万九五六八名。実際入隊者が七万四五八〇名である。

 ティリオンの主要各紙が同地管区学校の様子を、

「予備隊員、続々と管区学校に入校す。契約業者らは、靴一万足、ベルト一万五〇〇〇本、毛布一万枚、簡易ベッド一万床を納入」

「宿舎は現在の六棟では間に合わず、施工一週間の予定で更に三棟を増築。浴場も一度に四〇名も入れるものが六ケ所も作られるという豪華さ」

「制服は指定の布地と染料を使い、ティリオンの旧陸軍被服廠とアルトリアの民間裁縫工場の手により大車輪で整えられた」

 などと報じた。

 教育期間は六カ月である。その間に見込みがあるとされた者は選抜され、下士官教養も受けた。

 まだ数も少なかったが、この段階でもう小銃教練もあった。

 これは、第八軍の予備兵器としてベレリアンド各地の占領軍兵器廠に収納されていた八万丁のGew六一及び七四だったが、第八軍の兵器担当者は準備に大変な苦労を味わっている。

 なにしろ、予備保管兵器だ。

 戦時中に使用された、中古品ばかりである。

 検査の結果、八万丁のうち使い物になるものは二万丁しかなく、残り六万丁は修理や本国からの部品取り寄せを要したのだ。

 実はこの他に、旧エルフィンド陸軍が武装解除した際のメイフィールド・マルティニ小銃も約一〇万丁保管されていたのだが、建前上、こちらは使われないことになった。操法も違えば教育方法も異なるからである。しかし実際には、Gew七四の配備が遅れ、ごく一部の教練用に回された例もある―――

 入隊し、教育を受け始めると、その様子に仰天した白エルフ族たちもいた。

「これは・・・軍隊じゃないか・・・」

 警察の一種だと思い込んでいたのだ。

 内外の混乱を避けるため、オルクセン側もエルフィンド暫定政府も、その点を曖昧にしつづけたまま創設に及んだから、誤解した者がいたのも無理はない。

 しかしながら。

 教練の具合はどう見ても歩兵のそれで、教官役にはオルクセン軍の顧問がやってくる。数はずっと少なかったが騎兵まで創ると聞かされる、そうこうしているうちに五七ミリ砲やグラックストン機関砲といった重火器が到着する、という具合である。

「もう二度と軍隊はごめんだと。戦争でこりごりでしたからね。一週間ほど、ただ飯を食わせてもらってから除隊しました。特に何もお咎めは無しでしたね。来る者拒まず、去る者追わずといった調子です」

「食事がとにかく豪華で。オルクセンの兵隊基準を、白エルフ族向けに量だけ変えたものだそうですが。窮民食堂の、乾燥野菜や飼料用カブラルタバガだけのスープで暮らしていた身としては、後ろ髪を引かれました」

 そんな光景も珍しいことではなかった―――



 占領軍総司令部軍政局次長として権勢を誇ったヨハン・クレーデル大佐が、本国への召喚を受けたのはこのころになる。

 離任の直前まで、彼の周囲は騒がしかった。

 エルフィンドの報道筋で、

「大佐は、レマーリアン事件で収賄側にいた」

 という風聞がしきりだったからである。

 もはやアダウィアル・レマーリアンが、占領軍総司令部の要路にも贈賄攻勢を図っていたことは公然の秘密になっていて、その中心だと見なされていたのだ。

 そもそも―――

 占領政策上、決して大っぴらに報道に乗りはしなかったが、占領軍総司令部は必ずしも「清廉潔白」な組織などではないということは、事情通の間では公然たる事実であると見なされていた。

 例えば、経済安定局のシュタインバッハ少佐。彼は極めて評判のよい牡ではあったが、その本来の赴任理由は「エルフィンド財界の整理整頓」である。「ヴィッセル社の番頭」でもあった。エルフィク製鉄のモーリア製鉄所がヴィッセル社に買収されるにあたって、自社に利益誘導を図ったのではないか、とされていた。

 オルクセン将校全体についても同様である。

 物資の横流しや利益誘導で憲兵隊に摘発される者は、大々的にではないものの後を絶たない。

 またそのような犯罪行為に手を染めていなくとも、オルクセン将校は「金にものを言わせて大手を振っている」と見なす者は少なくなかった。

 白エルフ族がまだまだ配給制のなかにあり、闇での買い出しや、窮民対策として暫定政府食糧庁の手に依り設置された民衆食堂、集団給食などの世話になっている者も珍しくない世情だ。

 そのような中、ティリオンの繁華街はオルクセン軍で賑わい、高級レストランや酒場、カフェ、歌劇場などのクロークルームは連日連夜オルクセン将校の軍帽で埋まり、また白エルフ族を囲う者も頻々として見られた状態である。

 クレーデル大佐も例外ではなかった。むしろそのような不埒者の巨魁である、と風説しきりだ。

 曰く。エイルフマレ大通り街区で、占領軍向け高級バーを営む白エルフ族がおり、これが大佐の愛人であるらしい。

 また曰く。この白エルフ族がレマーリアンの関係者であり、大佐への贈与の一環であった。

 加えて曰く。大佐は見返りとして、レマーリアンに便宜を図った。彼女の会社が急速に発展した影には、大佐の庇護があった―――

 当初、クレーデル大佐はこのような風説風聞に対し、抵抗する構えを見せた。

 特別参謀部でエルフィンド警察の指導を行っていた治安維持局に対し、調査を指示。

 また、ティリオン警視庁の刑事部長を呼び出し、このような噂の数々の出所はいったい何処であるのか、捜査するよう命令を下した。

 しかし―――

 八月に入ったころ。

 大佐は、占領軍野戦憲兵隊司令部から密かな呼び出しを受けた。

 占領軍将校の綱紀粛正を監督する部署であり、ベレリアンド半島に展開する全野戦憲兵の統括部門にして、軍法会議の元締めである。

 そして、「国軍参謀本部に占領軍総司令部政策の連絡に赴く」という公務を帯びてオルクセン本国へと出張し、二度とベレリアンド半島には戻って来なかった。

 ちょうど、国家憲兵隊予備隊創設の主導権が、参謀部系統の特設委員会のもとに確立されたころだ。

 以降、軍政局スタッフの幾名かが、次々と本国へ出張公務を仰せつかり、そのまま離任するというケースが連続した。

 大佐自身は、この年の一二月になって軍そのものへも辞表を提出し、軍属から完全な民間身分となり、元々の出身であった首都ヴィルトシュヴァインの法律事務所へ戻っている―――

 外れた連中は全て、旧エルフィンドのありとあらゆる部分を「破壊」し、作り替えてしまおうとしていた、それまでの占領政策の主流派、所謂「空想家たち」であった。

 ひとつの結果として。クレーデル大佐の失脚ののち、占領軍総司令部の占領政策は大きく転換する。

 ―――「破壊」ではなく、利用できる部分は利用した「再生」。

 大佐がボウラーハットにラウンジスーツという姿となり、占領軍総司令部から出張へと旅立つ日、正面玄関前でちょっとした騒ぎがあったことが記録されている。

 一台の箱型馬車が乗りつけ、

「私はいったいどうなるんです!」

 美麗な白エルフ族が喚いた、というのだ。

 非公式、未確認の同記録によれば、大佐は、

「何をやっているんだ! ここには来るなと言っただろう!」

 と、怒鳴り返したという―――



 九月一五日。

 エルフィンド全土の国家憲兵隊予備隊第一期募集者から、これはと見込まれた約二〇〇名の将校候補者たちが、特別軍用列車の一編成を使ってファルマリア港に到着した。

 ファルマリア港の、元ファルマリア海兵隊基地を利用して設けられたばかりの予備隊幹部学校に入校するためである。

 到着した彼女たちの前には、先客がいた。

 約四〇〇名の、元エルフィンド陸軍将校たちだ。

 前者が佐官から尉官級の候補者たちであるのに対し、後者はもう一段上の、将官及び佐官級候補者になった。

 ただし、この約四週間の集中教育は、どちらも全く同じ内容を受けている。

 オルクセン軍顧問団約五〇名がやってきて、オルクセン式近代軍制のイロハのイを学んだのである。残る本格教育は、予備隊のかたち造りを継続しながら、ということになった。

 幹部教育期間の最終日、彼女たちは、同地を訪問した元エルフィンド陸軍将官の特別講話を受けた。

「諸君は、これから予備隊の中核となる。ご苦労なことだ。誰からも歓迎されず、非難と誹謗ばかりを浴びるかもしれない。苦労ばかりの歩みにもなるかもしれない。それでいて、華々しい活躍の機会などはないかもしれない。だが諸君らの出番が訪れぬことこそが、銃後社会が平穏無事であるということなのだ。だからどうか、立派に胸を張り、任務に耐えてもらいたい―――」

 講話を実施したのは、ダリエンド・マルリアン元大将だ。

 彼女の傍らには、総司令部参謀部兵要地誌局長アウグスト・シュティーバー大佐が同行していた。

 この三日後―――

 怪商アダウィアル・レマーリアンは、第八軍軍律審判所で有罪の結審を受けている。

 懲役二年八カ月。ティリオン刑務所に収監。

 ただし。いったいどのような口添えがあったのか、刑務所内では、重い労役に就けられることなどもなく、軽清掃係となり、またしばしば健康診断目的で外泊も許されていた、という。

 その後、約一年弱で保釈、出所。

 元通り、自らの商売に復帰した。

 占領軍の発注業務もそのまま継続したうえ、予備隊関連にも食い込んでいる。

 彼女が出入りする総司令部の部署は、それまでの特別参謀部より、参謀部が増えた―――



(続)

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