随想録13 再軍備

 ―――星暦八七八年七月八日。月曜。午前八時半過ぎ。

 エルフィンド暫定政府業務連絡事務局長シグリアン・キリウェンは、いつものように本省差し回しの迎えの馬車に乗り込み、ベレリアンド半島占領軍総司令部へと向かった。

 白い突耳に触れる空気も爽やかで、よい初夏の日和になりそうである。

 あの戦争が終わって、早いものでもう一年以上が過ぎた。

 エルフィンド旧首都ティリオンも、ずいぶんと変わったように思う。

 主要な交差点に立っている「ディアネンまで七八キロ」、「中央駅」、「リースニュトルヴ大広場」といった道路標識の類は、全て低地オルク語表記になった。

 食糧を中心とした物資不足も、相当に解消されてきている。一般国民の移動制限も一部解除されて以降というもの、中央駅舎は周辺農地へと闇で買い出しに出る市民で溢れていたが。

 ちかごろでは市民のほうでも慣れたもので、闇屋取締りのエルフィンド警官に出くわすと、近場に居合わせたオーク兵にさっと覚えたての低地オルク語で話しかけて、彼らのひとの良さを利用して荷物まで持たせ、オルクセン軍への捜査権限を持たない警官たちを煙に巻く、などという真似まで覚えている。

「・・・まったく、なんと逞しい」

 シグリアンは、くっくと喉を鳴らした。

 政府官吏としては笑ってはいけないのだろうが、国民の逞しさに頼もしさを覚えるのも確かだ。

 馬車は、間もなく旧ティリオン市庁舎に到着した。

 二つの建築様式を折衷した重厚な石造りで、四階建て。二階の部分には、ファサードを兼ねた長大なバルコニーがある。オルクセン国旗の意匠を用いた巨大な縦幕が三つかかっていた。

 一年前のいまごろ、オーク王が閲兵式を観閲した場所だ。

 ―――ベレリアンド半島占領軍総司令部。略称OKB。

 シグリアンは、鹿爪らしいオルクセン兵の立哨する正面玄関を通り、三階にある特別参謀部へ向かう。

 軍政局次長クレーデル大佐が彼女を迎え、いつもと変わらず頷いてみせた。彼の挨拶は、それだけだ。

「おはようございます、大佐殿」

「うん、おはよう」

 シグリアンは、実のところこのオーク族の大佐が苦手である。

 元弁護士で、あの戦争中は軍で法務関係の仕事をやっていたというが、その性格はまったく権威主義的、傲慢、独裁傾向。

 しかも弱ったことに、実力まで兼ね備えている。強大な権限を持つOKBのなかで、エルフィンドの占領統治を管轄する特別参謀部の、ナンバー二とも呼ぶべき地位にあるのだ。

 己のような連絡使はおろか、大臣クラスでも怒鳴りつけることなど朝飯前。日夜、暫定政府を相手に行政面で辣腕を振るっている。

 毎朝この大佐のところへ出頭して、暫定政府宛の指示文書を持ち帰る仕事が、憂鬱で仕方なかった。

「目を通してくれたまえ」

 今日の書類は、二枚あった。

 ウィンディミア首相宛になっている。署名はアロイジウス・シュヴェーリン元帥名。

 つまり、OKBとしては最も強い命令性を備えた書簡といっていい。

 読み込みにかかるシグリアンのかたちよい鼻梁を、良い香りがくすぐった。

 大佐は、毎朝オフィスで自らガラス風船型サイフォンとアルコールコンロとを使ってコーヒーを淹れるが、勧められたことすらない。グロワール式のサイフォンも素晴らしい品だったが、よほど良い豆を使っているのだろう、室内に満ちる馥郁たる香りまで恨めしい。

 書簡は例に依って低地オルク語であったものの、短い文章であったので読み込むのに時間はかからなかった。

「ベレリアンド半島の社会秩序を維持するため、相当高度な警察力と運用性を備えた七万五〇〇〇名から成るGendarmerie Reservekorpsの創設を認可する。このための必要な措置を講ずること」

 だが、内容の意味するところが、どうにも良くわからない。

「Gendarmerie Reservekorps」とは、いったい何なのか。また、「認可する」というがこのようなものを作りたいと暫定政府側から申し出たことはないはずだ―――

「ともかくも。君はこれを持ち帰り、直ちに首相に届けたまえ」

 もう用はないと言わんばかりに、クレーデル大佐はドアへ向けて顎をしゃくった。



「Gendarmerieは、憲兵。オルクセン流にいえば“国家憲兵隊”ですな。Reservekorpsは、“予備隊”といったところでしょう」

 書簡を丁寧に読み終えたダリエンド・マルリアン元大将は、告げた。

 夏らしい、青色の外出着姿である。流行りに従って、シルエットは自然体に近い。肩に膨らみがあり、この場へと斜めに被ってきた帽子の鍔は大きかった。

 もう軍には所属しておらず、表向きはウィンディミア首相の私的な顧問を務め、密かに再軍備関連の研究を担っている。

「国家憲兵隊予備隊・・・」

 如何にもオルクセンらしい、堅苦しいばかりの響きの名だと、その言葉を舌先で転がしてみたマルリアンは思う。

 旧外相公邸の執務室内には、ウィンディミア首相、マルリアン、衛士総隊本部長ヴェルナミア、王女衛士隊長イレリアンといった、旧エルフィンド陸軍関係者たちが集まっている。

 彼女たちのグループには正式な名称などなかったが、密かに抱く狙いは明確だった。

 ―――エルフィンド軍の復活。

 ひいては、オルクセン統治下における白エルフ族の生存。

 将来的な高度な自治権の確保。

 そして、あわよくば独立の回復。

 終戦直後は陸軍関係者の往来すら困難だったが、間に立って連絡役を務めたのがホテル経営者アダウィアル・レマーリアンだ。あの怪商は、自らの稼ぎを使って、困窮した旧軍幹部一部の面倒まで見ていた。

 もっとも、あの掴みどころのない女はいわゆる「愛国者」というのとは違うと、マルリアンは見ている。それほど単純な解釈が通じるような、一筋縄でいく者ではない。そうやって占領軍総司令部側にも旧軍人側にも食い込み、商いの手を広げていた。

 いまでは経営するホテルを三軒にまで増やしており、更には占領軍から輜重馬車を八〇台も一気に払い下げて貰って運送業に乗り出し、また馬車修理と部品販売の代理店契約をオルクセンのヴェーガ社と結んで、占領軍発注業務にまで手をつけている。

 おそろしく金を稼ぐことに長けた、逞しい奴だ。

 占領軍総司令部特別参謀部筋に食い込んで、情報の収集役まで果たしてくれているから、ますます頼らざるを得ないが―――

「“相当高度な”とは、どのくらいを指すのでしょうかな・・・?」

 ヴェルナミアが首を傾げた。

 彼女はディアネン包囲戦の解囲行動で負った傷もすっかり癒え、衛士総隊―――かつてのマルローリエン騎兵、常備軍一個大隊を纏めたうえで改称した組織の長を務めている。

「“警察力”と続くのが気になるところですが―――」

 いまではヴェルナミアのしたで衛士隊を率いる、元ネニング方面軍参謀イレリアンが言った。

「現状、警察官はサーベル装備。暴動、騒乱発生時を想定した緊急出動用に、拳銃です。総員数は一二万五〇〇〇名。ここへ一挙に七万五〇〇〇も増やせというのですから、小銃程度は装備しろと言ってきていると解せるのではありませんか?」

「うん―――」

 マルリアンは頷きつつ、むしろ装備面よりこれほどの数が纏まっていることが大きい、と思っている。

 エルフィンド警察一二万というが、各州に分かれたものだ。ティリオン警察、アルトカレ警察、エルドイン警察といった具合である。地方自治体の組織といえた。

 戦前のエルフィンド警察はそうではなかった。警察権は国家が握り、内務大臣が所管、各州警察本部長、警察署長という流れが出来上がった強権的なものであった。

 ところがオルクセン側がこの強権的な組織を解体して、オルクセン式に各州知事管轄へと作り変えたのだ。彼らに言わせるなら、ダークエルフ族虐殺を招いたエルフィンド内務省は「魔窟」であり、権限を相当に減じさせるよう特別参謀部が指導したのである。

 対して、この国家憲兵隊予備隊とやらは、書簡の附属文を読む限りティリオンに司令部を置いて、そこから全国の隊を統括するつもりらしい。やり方としては軍隊に近い。

「いずれにせよ、この書簡だけではどうも要領を得ませんな。どの程度の装備を持たせるのか、はっきりさせないことには“必要な措置を講ずる”も何もあったものじゃない。彼らと、細部の打ち合わせを要しますな、総理」

 占領軍総司令部内でも熟しきった内容になっていないのではないか、とマルリアンは見た。あまりにも指示の中身が乏しい。

 再軍備を望む己たちにとって、渡りに船であることは事実だ。

 だが、詳細を詰める必要がある。

 一方で、あまりがっついた反応を返せば、余計な邪心でもあるのかと取られ兼ねないのも確かだ。

 マルリアンら「再軍備グループ」の数は、士官学校同期や戦歴の重なりといった同志的結合を使って、いまや全国に散らばり約五〇名というところまで来ていたが、未だ大っぴらに活動できる存在ではなかった。

 ちかごろでは、オルクセンはどうも早期の撤兵をやりたがっているということも分かっていたし、そのためには治安維持の代替策が必要であることは明らかである。

 マルリアンらの活動に対するOKB参謀部筋の黙認さえあるのだが、触れれば簡単に割れてしまう卵のように繊細で危なっかしい活動だ。

 一般市民にとって、戦前からの軍事への忌避感情と相まって、敗戦を招いた軍に対する感情は複雑でもある―――

「・・・予算だな」

 それまで黙していたウィンディミア首相が、告げた。

「これほどの数を集めるのだ。装備面を含む詳細を煮詰めなければ予算措置が図れないと、質問状の体裁を整える。有体に言えば、だ。復興で手一杯の、吹けば飛ぶような暫定政府としては、オルクセン側で金や装備の面倒を見てくれるのかと、球を投げ返す。どうだ?」

「結構ですな」

 マルリアンは笑みを浮かべた。

 ―――戦前はあまり近寄りたい相手ではなかったが。なるほど、白狐の綽名は伊達ではないな。



 再軍備グループの評するところの「怪商」―――

 アダウィアル・レマーリアンは、ベレリアンド半島東部沿岸の都市ネブラスに滞在していた。

 戦争中、オルクセンのグスタフ王が総軍司令部を置いていた場所だ。レマーリアンにとって、この街は興味深かった。

 なるほど、戦前にエルフィンド国鉄が操車場を設け、オルクセン軍もあの戦争で軍規模の兵站拠点を据えただけのことはある、と。

 南のファルマリア。北のエヴェンマール、タスレン。西のイーダフェルト、ディアネン。

 どこへ向かうにも交通の便が良い。

 半島中央山脈の支脈も近ければ、川も抱え、海に面していて港もある。

 レマーリアンは、このネブラスに三軒目のホテルを買っていた。破産寸前であったところを、彼女の評判を聞きつけた経営主に泣きつかれたのである。既にアルトリアにも大規模なものを一軒購入し、そちらもまた見事に経営を立て直し、黒字に変えたあとであった。

「買わせて頂きましょう」

 レマーリアンは、二つ返事で応じた。

「ただ―――」

 と、彼女は条件をつけている。

 言い値で買わせてもらう。その代わり、貴方が所有すると聞く大規模農場も一緒に売ってくれ。それが条件だ・・・

 レマーリアンは、希望を叶えた。

 即金決済という売主の要望も叶えてやる必要はあったものの、ホテルは海沿いの大きなものだったし、農場も含めて考えれば破格の安値で手に入れることが出来た。

「会長、農場など一体どうして・・・」

「ふふ。まあ見ていろ」

 訝しむ自社幹部らを前に、レマーリアンは、この農場で育てさせた小麦粉、ライ麦粉、季節の野菜、乳製品などを、ネブラスのみならず経営する全てのホテルに運ばせる手配を整えた。輸送コストはかかったが、そこは運送業の免許も取得していれば、占領軍に顔も効く。幾らでも、やり様はあった。

 何よりも、食材の調達コストを大幅に下げることを可能にした。

 闇屋が勃興しているほどなのだ、エルフィンドの食糧価格はまだまだ高騰している。

 そこで自社保有農場を持ち、一括して大量調達することで、何と市場価格の五分の一というところまで食材費を抑えることに成功したのだ。これは、自社ホテルの利益率を、あっという間に大幅に向上させた。

 まるで錬金術のようだ。

「ホテルというものは、だ。誰しもが勘違いをやるが、泊めることで採算をとるのではない。食堂で客に飯を食わせる。ここだ。ここで採算を取る。ひとは誰しもが飯を食う。これからは食い物の時代だ。オルクセン軍を相手に商売をやるなら、尚更のことだ」

 彼女はこの考えに基づいて、ネニング港の漁民とも契約を結んだ。

 新鮮な魚介類を大量に仕入れ、自社ホテルに運ばせたのである。

 ネニングのホテルについては、将来の観光資源になることも見越していた。

 オルクセン国民の、国王尊崇の念は高い。

 レマーリアンですら知っている「ネニングの不退転」の場になった同地を、一目見てやろうという休暇将兵はいまでも多かった。きっと将来は、本国からも観光客がやってくるに違いない。そんなとき、風光明媚で、清潔清涼で、食事の美味いホテルがあれば黙っていても客は入る―――

 このようなレマーリアンの経営手腕が、旧エルフィンドの財界筋に流れ始めると、白エルフ族たちは彼女の資金源を不思議がった。

 戦争末期にかなり怪しい真似で荒稼ぎをしたという噂はあったが、その後の運転資金の回り方も相当に羽振りが良い。いったい、どうやっているのだ―――

 例えば、だが。

 レマーリアンは、知己を得た零細企業経営者などが困窮していると、ぽんっと大金を貸し出すので有名になっていた。

 五万ラング借りたいというものには、一〇万を貸す。一〇万借りたい者には、二〇万包んで寄越す。証文も取らなければ、返済期限もつけない―――

「貸した金は返ってくると思うな。思えなければ、最初から貸そうなどと思うな。相手が困っているなら、倍包んでやれ」

 むろん、資金繰りにも「秘訣」があった。

 レマーリアンの主要取引相手は、占領軍である。

 オルクセン軍には、臨時軍事会計という予算の付け方があった。

 国軍参謀本部が決済をし、兵器や物品の調達、軍事関連施設の建設及び修繕などに使っている。その総額たるや、年間軍事予算の実に四割近かった。

 これほどの規模の特別会計を、現場の個別案件でいえば佐官クラスの決済で支出できてしまう。決済価格の四分の三まで。

 レマーリアンは、占領軍総司令部を相手に商売をすることで、この特別会計から荒稼ぎしていたのだ。しかも休暇将校用ホテルの請負だけでなく、物品輸送や車両修理のような、継続的かつ日常的な契約へと徐々にシフトさせていた。

「商売に大事なのは、日銭だ。ホテル商売など、まさしくそうだ。そうして日銭の入ってくる手段を増やせ。一度回り始めた金は、誰から稼ごうが何に使ってもいいのだ」

 彼女は、そのためにも実によく自社の収支を把握している。

 ティリオンの一角に構えた自社が八時四五分に始業するところを、八時には出社して、まず何よりも帳簿へ目を通す。これは、何処の傘下事業を視察に赴いても同様だった。

「自らの財布の中身も把握できない奴に、ろくな事業はやれん」

 そんなレマーリアンには、後ろ盾もつくようになっている。

 ハートウィグ銀行がそれで、メインバンクを担当するとともに、この銀行がレマーリアンにとって「財布」の一部としての役割を果たしてくれていた。

 それは、極めて特殊な金融取引だ。

 エルフィンド住民はもちろんのこと、企業には未だオルクセン通貨への両替に上限額がある。資金繰りに困った顧客から、ハートウィグ銀行は手数料を差っ引いてこの「枠」を買い付ける。

 両替枠を引き受けるのは、レマーリアンだ。彼女はこれを使って、割当枠以上の金額をオルクセン通貨に替えていた。

 ベレリアンド半島において、オルクセン通貨は強い。公式交換比以上で通用することも、未だ珍しいことではない。

 彼女は、何か商取引をやるとき、鞄一杯にオルクセン紙幣や本位貨幣を詰めて、買い叩いた。この方法はネニングのホテルと農場を買う際にも発揮されたし、漁師たちと契約するときも同様だった。運送業の事業免許欲しさに、ティリオン方面随一の交通業者を乗っ取る際には、部下たちに金を持たせ、株を買い集めさせている。

 ―――どえらいひとだ。

 ネニングに同行していた、彼女の腹心は思う。

 この幹部もまた、戦時中はネニング方面軍後方兵站司令部の参謀だった。レマーリアンの「ひとたらし」にあい、終戦時のどさくさに紛れた荒稼ぎの片棒を担がされたうえで、抱きかかえられたのである。

 レマーリアンの、他者に金を貸す際の「倍包んでやれ」という言葉には、続きがあることをこの幹部は知っている。

「借りた金を返せようが、そうでなかろうが。それで相手は、もう一生私に頭が上がらなくなる。貸したと思うのではなく、相手そのものを買ったのだと思えば、これほど安上がりな商売はない」

 ―――まあ、このひとの場合、そうやって抱きかかえた者を絶対に見捨てないから、皆ついていくのだが。

 ネニングでの滞在予定の最終日近く、レマーリアンのもとに電報が届いた。

 他者からは内容の良く分からない、短かな私信を装ってある。

「・・・うーん―――」

 レマーリアンは一読し、唸った。

 幹部は、発信者の名に覚えがあった。戦前戦中の繋がりを利用して、あれこれ仲介役に走ったことのある「再軍備グループ」のひとりだ。

「軍人さんたちは、単純だな。もう浮足立っていやがる。占領軍総司令部。あれは、そう単純な組織ではないのだが、な・・・」

 ティリオンに戻る、とレマーリアンは決めた。



 占領軍総司令部からの回答は、七月一二日になって戻ってきた。

 業務連絡事務局長シグリアンが赴き、手交を受けている。


「一.この新たな組織は、既に存在する警察組織とは全く別個のものである。

 二.ベレリアンド半島占領軍総司令部の直轄組織とする。

 三.従ってこの組織は、暫定政府のあらゆる官庁、法令、地方自治体の制約を受けない。

 四.その設置は、オルクセン内務省関連法令に基づく。

 五.国家憲兵隊予備隊の任務は、非常事態が発生した際、ベレリアンド半島内の治安維持にあたるものである。また、外国からの侵略に備える。

 六.必要な装備、予算はオルクセン側が提供する。創設に要する費用のみならず、給与給養等、継続的予算についても同様である。

 七.教育のための顧問団を派遣する。

 八.この組織の設置にあたり、旧エルフィンド陸軍の佐官級以上の者を採用してはならない」


 元外相公邸の首相執務室に集まった旧軍人たちは、茫然とした。

 提供されたコーヒーにも口をつけず、虚しく湯気を立てるだけとなった。

 ―――いったい、これはなんだ!

「警察とは別個」のもの、ましてや「外国からの侵略に備える」とある以上、この組織が「高度な警察力」はおろか、言ってみれば「軍隊の卵」であることは、はっきりとした。予算や装備もオルクセン持ちであるという。

 その点は喜ばしい。

 結構なことだ。

 ところが国家憲兵隊予備隊は、「占領軍総司令部の直轄組織」であり、「旧エルフィンド陸軍の佐官級以上のものを採用してはならない」とは・・・

 ―――やられた!

 マルリアンは臍を噛む。

 つまり新たに出来上がる組織とは、エルフィンド暫定政府のものではない。オルクセンの、出先機関そのものという形式である。

「これはエルフィンド軍の復活などではない。軍隊の卵は卵でも―――」

 彼女は、国家憲兵隊予備隊の性格を的確に表す、評価をした。

「白エルフ族を使った、オルクセン軍の卵だ・・・」


(続)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る