閑話 オルクセン・ジョーク
<前回までのあらすじ>
魔種族統一国家オルクセンを率いるオーク族の王グスタフ・ファルケンハインは、疲れからか不幸にも、黒色のエルフを拾ってしまう。
祖国への復讐を誓うダークエルフの女ディネルース・アンダリエルに対し、グスタフが言い渡したその支援の条件とは・・・
#だいたいあってる
<シュヴェーリン・ジョーク>
オーク王グスタフ・ファルケンハインがその位に就いたころ、オークたちは本当に野蛮だった。比喩表現などではなく、本当に。
文化水準や識字率は低く、腕力と粗野な笑いが満ちた社会。
テーブルマナーなど思いもよらぬことだった。
ある酒宴の際、グスタフ王が配下たちを眺めてみると、どいつもこいつも素手でパンや肉を鷲掴み、ポロポロと零している始末。
こんなことでは国家百年の計は成りませんぞと、たまりかねたグスタフは一番近くにいた側近に叫んだものだった。
「シュヴェーリン、ナイフを使うんだ!」
シュヴェーリン将軍はすかさず立ち上がり、強く頼もしく頷いた。
「はい、我が王! それで、いったい何処のどいつを殺るのでありますか!?」
<ドワーフの親子>
ヴィッセル社。
いまや重工業のみならず、化学、家庭用電気製品なども手掛ける総合メーカーとなっているこの巨大企業の社長ヴェスト・レギンは、父であるヴァーリ・レギンのいる「掘っ建て小屋」に急いでいた。
彼らに立ち止まっている間はない。
道洋の島国の連中が作る質のよい製品が、しかも安価に星欧に入ってくるようになっていたからだ。
何か、事態を覆すための画期的な新製品を思いついたと父から連絡を受けたのは、つい先刻のことである。
ヴェストは小屋のドアを叩いた。
「父さん、父さん!」
「・・・いないよ」
扉の向こうから小さく低い声が返ってきた。
「あれ?」
居ないのか。
「冗談だよ、さあ入れ」
「父ちゃんだ、やっぱり父ちゃんだ」
父は凄い。
いつも楽しませてくれる。
「さあ、こいつを見ろ」
父ヴァーリは、あの作業着に防火エプロンという姿で腕を広げ、誇らし気に作業机上の品を示した。
―――こいつはいったい何だろう・・・
ヴェストは首を傾げた。
テレビに見えるけど・・・
それにしては、大きい。
ブラウン管ではなく、その後部が。
ガスコンロに、ガス管までついている。
いったい、どうして・・・
「こいつはな、全オルクセン家庭の主婦を助けてくれることになる人類の夢。全自動パン焼き釜付きテレビじゃ」
「全自動パン焼き釜付きテレビ」
ヴェストは鸚鵡返しに呟き、凄い、やっぱり父ちゃんは凄い!と感嘆していた。
これなら、我がヴィッセル社は安泰だ!
<グスタフの野望>
ベレリアンド戦争が終結したのち、グスタフ・ファルケンハインはしかし、未だ壮大な野望を抱いていた。
それはずっと心に秘め続けていたものの、長らく顧みる暇のなかった計画だった。
そのためには、参謀本部から優秀な参謀を選りすぐって、かの道洋の島国に送らねばならない。
かの国からの申し出は、渡りに船である。
好機だ。
大好機だ。
そして、ついにその計画を発動させる日がやってきたのだ。
「―――米が食いたい」
グスタフは、真剣な眼差しでひとりごちた。
長米種ではない、短米種の米が欲しい。
銀シャリ食いたい。
ふっくら炊き立て、あつあつのゴハンが食べたい。
なんだ、ライスプティングやミルク粥って。ふざけてんのか!
グスタフには、水田の作り方はとんと分からぬ。
だが、そのためにこの農事試験場があるのだ。
技官たちがいるのだ。
必ずや、かの国から種籾を持ち帰らせるのだ!
「ヤパーナがよぉぉぉ、パンだけで満足できるわけなかろうがぁぁ、えぇぇぇぇ? 銀シャリ、銀シャリ、銀シャリ! チャーハン、チャーハン、偉大なるチャーハン! ラーメンや餃子だって食いたいんだ、馬鹿野郎!」
(続かない)
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