第57話 あたらしき土②

 ディアネン市域の物資欠乏―――なかでも食糧事情の困窮は、逼迫していた。

 ベレリアンド戦争の終結時、ディアネン市域に在住していた市民は約一八万。残存のネニング方面軍は戦傷者を含めて約一九万から二〇万であった。

 彼女たちはネニング平原会戦において後方兵站線を遮断され、ついには包囲下に陥り、都市食糧庫を一部とはいえ破壊されている。

 困窮も当然といえた。

 配給制だった市域の食糧は、戦中から遅配欠配が相次ぎ、三月分がいまごろになって配給所に並ぶという具合である。

 もはや市民たちにパンはなく、芋類や豆類、蕎麦を主食にしていた。

 肉類も牛肉はとっくに底をつき、羊肉や馬肉がこれに続いて、塩漬肉や乾燥肉の類は「上等品」であり、保存食の塩漬け鯨肉、乾燥魚肉が主体になっている。

 一名当たりの量も乏しい。

 オルクセン側としては、この状態を改善するのはあくまでエルフィンド政府側の務めである、と思っている。

 しかしながら―――

 経済や食糧事情の困窮は、オルクセン側としても優先課題である「治安の確保」へ与える影響が大きいことは承知していた。

 市域における状況を把握した占領軍総司令官アロイジウス・シュヴェーリン元帥は、オルクセン国王グスタフ・ファルケンハインに対し、食糧援助の必要性を説く第一報を五月一五日夕刻に送っている。

 その一節からディアネン市域の状況を一口でいえば、

「ディアネン市域の経済は、一〇〇年前の環境に戻っている」

 状態であった。

 食糧を含む物資の不足が諸物価の騰貴を引き起こし、更に敗戦によってエルフィンド通貨ティアーラへの信用が落ち、物々交換すら当たり前になっているという惨状である。

 例えば―――

 当時ディアネン政府の首相秘書官だった者は、降伏調印式の場に要した首相のエルフィンド民族式正装を確保するため市内を駆け回り、ようやく裁縫に応じてくれるテーラーを見つけると、その「代金」として、

「市庁舎にある僅かな政府官房備蓄食糧から、ライ麦粉を手提げ袋にひとつ・・・いや、ふたつだったかな。それに鮭の缶詰をひとつ。これを持っていきまして。這いつくばるように懇願しました」

 という。

 ディアネンの食糧事情の悪さは、物流の滞りによる影響が強い。

 市民に加え軍の集中により局所的に消費量が膨大なものとなっているにも関わらず、周辺からの食糧搬入が絶望的に不足している。

 解決策としては、ともかく需要を満たすだけの食糧を注ぎ込み、同時に動員兵士を復員させ、集中を解消してやるしかないが―――

 しかし、その遂行能力がエルフィンド側に欠けている。

 エルフィンドの物流や管理能力はたいへんお粗末であり、根本的にはベレリアンド半島全体としても物資に欠乏を来していたことを原因とするが、必ずしも彼女たちの能力だけの問題でもなかった。

 まず、半島の南半分はオルクセン軍の直接軍政下だ。アルトカレ平原、ファルマリアなどのオルクセン側既占領地が策源地としてあてにできなかった。

 局地的にみてもネニング平原のほぼ全てがオルクセン側の占領地になっており、周辺鉄道線もまた彼らの管理下に入っていた影響も大きい。

 ベレリアンド半島全ての物流網の悪さも相まって、このときエルフィンド政府に可能であったのは、半島北部から搔き集めた食糧を首都ティリオンにまず集積、その集積物資を細々とディアネンへ運び込む、という方法が実質的に唯一のものであった。

 食糧を供給できなければ、兵の動員を解いてやることも出来ない。いったい、この膨大な兵をどうやって復員させるというのか。

 グスタフは、占領軍総司令部の食糧援助案を了承した。

「ただし、まずはエルフィンド政府に援助要請を出させること」

 彼は「筋」を重んじた。

 既に戦争は終結している。何もかもが、戦後の統治と将来の併合を見据えねばならなかった。

「エルフィンド政府に、事態解決能力がないと自ら認めさせるんだ」

 ディアネンに進出した占領軍総司令部とエルフィンド政府の間には、日々エルフィンド側の官吏が連絡役に往復している。

 これはディアネン政権側が、オルクセン側の要求事項ひとつひとつに対処しながら、占領統治政策に対応していくためのものである。

 なにしろオルクセン側とて、全ての事項について事前検討がやれていたわけではない。

 双方ともに細かな部分で折衝を要した。

 例えばだが―――

 エルフィンド軍は、オルクセン軍の進駐に合わせ武装解除し、動員も解き、復員させることになるが。

 では女王の警護はどうするのか。

 特にこの点に関して言えば、クーランディア元帥が意を砕いた。政府官吏だけに頼らず、何度も交渉役の将校を派遣し、どうか最低限の兵力は残して欲しいと願い出た。

 この交渉の結果は、

「当面の間、マルローリエン騎兵一個中隊、正規軍一個大隊の存続を認める」

 というものになった。

 開戦前、実情はともかく一国家の軍隊としてそれなりの規模を誇ったエルフィンド軍が、僅かこれだけの兵力になるのかと軍関係者を嘆息させたものであったが、ともかくも希望は叶ったわけである。

 五月一七日、占領軍総司令部ギュンター・ブルーメンタール少将は、エルフィンド業務連絡事務局の連絡使に対し、ディアネン市内の状況について事態打開の意思はあるのか、あるなら我が軍を頼ってはどうかと促した。

 食糧支援を希望するか、という含意である。

 オルクセン総軍司令部は、促すだけでなく「篭絡」も図った。

「諸物資困窮の折、ご苦労も多いことであろうから―――」

 アロイジウス・シュヴェーリン元帥名の挨拶文をつけ、市庁舎へ幾ばくかの食糧を届けたのである。オルクセン軍輜重馬車で、三台分にはなった。

 エルフィンド女王宛になっている。

 内外には発表していない。

 精肉したての牛肉塊。真っ白の小麦粉。新鮮な野菜。ピクルス。鰯の酢漬け。鶏卵。牛乳。

 バター。グロワール・マスタード。ワイン・ヴィネガー。胡桃油。

 キャメロット産ウイスキー。グロワール産赤ワイン。オルクセン産白ワイン―――

 女王エレンミア・アグラレスの近侍部は狂喜乱舞し、さっそく女王の好む献立を組み、戦中以来心労と粗食を重ねてきた女王に滋養をつけてもらおうと、コックたちも腕をふるったほどであった。

 牛肉塊はバターをたっぷり使ったヒレステーキになり、野菜が添えられ、女王の好むオムレツが作られ、具の入ったクリームシチューが仕込まれた。白いパンなど、久方ぶりのことである。

 女王もまた喜んだが、これほどの食事を自らだけが摂ることを忍び難く思い、ウィンディミア首相やクーランディア元帥、ファラサール大将らにも分けるよう命じた。

「まずは食わせろ、モラルはあとだ」

 アロイジウス・シュヴェーリン元帥は、してやったりと片目を瞑ってみせ、オルクセン軍に支援を受けることの効果を示したわけだ。

 ディアネン政府側としては、願ってもないことだ。

 しかしながら―――

 彼女たちには、素直にこれを喜べない事情も存在した。

「出来ることならば・・・ 将来、なるべく高度な自治権を確保できないか」

 という思惑を抱き始めていたのだ。

 ディアネン政権首班ラエリンド・ウィンディミアは、後年、「生き残ることに長けた白狐」と評されることになる。

 元より、彼女は「白狐」としてエルフィンド政界及び軍部では名を馳せていた。

 異称は悪評にも近かったが、軍事を厭う戦前のエルフィンドにあって、小銃やその製造機器、火砲といったキャメロットからの兵器輸入に道筋をつけたのは彼女である。

 ベレリアンド戦争中は、とにもかくにも半島全土からの兵力動員に成功し、アルトリアやネニング平原に集中させたのも、彼女が大臣を務める陸軍省だった。

 これらを実現させるだけの性格と能力をしていて、そしてそのような部分をエルフィンドという国家、白エルフという種族全体にも適用していく力量が確かにあった。

 それほどの者でなければ、政治権力闘争に明け暮れた前体制下を泳ぎ切ることなど出来なかったし、情勢を読んでクーデターを主導することなど出来はしない。

 頭の働きが鋭く、知能にすぐれ、抜け目がなく、慧敏だった。

 一方で、

「憎み切れるような性格ではなかった」

 ともいい、彼女は自らの着眼と将来構想をクーランディア元帥及びファラサール大将に対し率直に開襟している。

「オルクセンは、おそらく我らを潰しません。少なくとも、いまは。私にはその確信が持てました」

 無条件降伏勧告第一〇項は、「戦前において我が国民を虐待せる者、今次戦役において我が俘虜を虐待せる者に対しては、エルフィンド国民の意思において充分なる調査をし、厳重なる処罰を加えること」としている。

 これと先の降伏調印における間接統治方針を合わせ考えるなら、オルクセンは「調査と処罰」をディアネン政権に付託するはずだ。

 おそらく諸外国の視線を考慮して、自ら「処罰」することに二の足を踏んでいるに違いない。白エルフ族に「禊」を期待してもいるのだろう。

 この完結が「敗戦処理の終結」と見なすことができ、それまでの期間、ディアネン政権を存続させるであろう―――

 ウィンディミア首相の読みは、ほぼ正確にオルクセン側、つまりグスタフ王の構想を当てていた。

 この敗戦処理内閣存続期間のうちに、間接統治の利を内においては白エルフ族へ、外においては占領軍総司令部へ示し、将来的な自治権の確保を目指したい、とした。

「なるほど、な」

 クーランディア元帥は理解した。

「すると、まずは我らに利用価値ありと、それだけの能力はあるのだと、オルクセンの連中に売り込まねばならんわけか」

「その通りです」

 しかし、これは言葉では簡単であったが、実施には途方もない困難が予測された。

 ともかくもこのディアネン周辺で起こっている危機を、自力で解決しなければならない。

 少なくとも自助努力は図ったのだと、示さねばならないのだ。

「オルクセンは、兵の復員をも我らの履行事項としています。そのためには食糧の確保を自力でやらねばならず、これを成し遂げませんと・・・」

「利用価値なしと、奴らは直接軍政に乗り出すわけだ」

「然り」

 我が意を得たりと、ウィンディミア首相は頷いた。 

 彼女は、まずは自助努力を以て条約履行に努める旨の返書を業務連絡事務局に用意させ、ティリオンの軍後方兵站総監ギルリエン中将に対し、食糧調達及び追送に対する更なる努力を命じた。

 ついで復員関係の責任者を定めて復員作業を円滑ならしめんとし、アルトカレ軍司令官であったコルトリア中将を任じている―――



 エルフィンドは、いってみれば国を失って初めて、国家というものの生存への感覚を鋭くした。

 種族としての生存、といっても良い。

 将来の自治権を確保できれば、あるいはその更に将来、いつの日にか独立を回復できるかもしれない―――

 この混乱と混沌、困窮のときにそこまでの構想に至れたのは政府中枢の僅かな者たちだけであったが、ともかくも必死にそれを目指すことになった。

 この間、エルフィンド国有鉄道社は真摯に、懸命に、ひたむきに働いた。

 首都ティリオンとディアネンの間に、一日約七列車から八列車を走行させなければディアネン市の食糧問題は解決しない。

 どうにか残っている機関車と貨車、そして鉄道職員たちを搔き集めて対応した。

 両駅の間で荷役を務めるのは、武装を解除した兵たちだ。

「石炭を分けて欲しい」

 と、これはオルクセン側に正式の要請を出した。

 オルクセン側では、占領軍総司令部兵站部が、これに応じた。

 彼らの許可も得て、ネニング平原会戦中にアンファウグリア旅団が襲ったカナヴァやエーレンの兵站拠点の、復旧も図られることになった。

 例え僅かでも焼け残った糧秣があれば利用するためであり、また以降の食糧調達を試みるためである。

 兵の復員も進められることになった。

 つまり「口減らし」である。

 武装解除の完了した隊から順に各地で部隊解散式が行われて、地元ネニング平原や、首都ティリオン方面、ファルマリア、アルトカレの兵たちが続々と離脱していった。

 僅かながら兵たちには、遅配していた給料か、これに代わる食糧の配給券、あるいは現物支給の芋や豆類が用意され、手交された。道中、これを糧とする―――

 動員解除は、国民義勇兵が優先された。

 まだ彼女たちには、還る故郷とともに戦前の職業が残っている可能性があり、手に職のある者も大勢いたからだ。

「問題は、常備軍ですな」

「うむ。なんとか、警察官などに転職できると良いのだがな・・・」

 イレリアン中佐の言葉に、クーランディア元帥は頷いた。

 国内に、膨大な数の失業者が溢れることになる―――

 オルクセン側もこの問題は重視しているとみて、矢継ぎ早に幾らか対策を指令してきた。

 曰く、戦場で荒廃した村落や耕作地の復興。

 道路の復旧、普請。

 そして、不発弾の処理。

 これらの作業に、兵を当てよという。

 とくにネニング平原における不発弾の処理は深刻で、工兵隊の多くが残留することになった。陸軍省総務局のしたに戦後業務部という部署が出来て、不発砲弾が見つかる度に出向いていき、処理をした。

 例えオルクセン軍の砲弾であったとしても、後年のものより、まだまだずっと未発達な信管が用いられていた時代である。

 危険な任務であったが、相当高額な手当も出されることになった。

 このようにディアネン政権は、懸命に敗戦処理への対処に努めた。

 五月一八日、占領軍総司令部から出た指令第四号には、必死の抵抗をした。

 これは、「ベレリアンド半島経済における安定処理」と題されたもので、

「ベレリアンド半島中部から北部については、エルフィンド通貨の信用低下によって貨幣経済が崩壊しかかっているから、オルクセン軍軍票を以てこれに変えよ」

 という通告であった。

 オルクセン通貨一ラングに対し外国為替相場はキャメロット通貨一〇分の一クィド。即ちエルフィンド通貨二ティアーラで通用させる・・・

 ディアネン政権は、震撼した。

 つまり「軍票を正貨として使え」というのだ。

 国家が国家としての態を成すとき、そこには幾つかの要件がある。

 様々な視点があるものの、法及び外交が独立しているか、軍事において独立しているか、そして独自の貨幣経済を持っているかというのは一つの基準となろう。

 既に外交権を失い、軍隊は解体され、政治だけが辛うじて立っているのが、現在のディアネン政権だ。そこへ独自の通貨まで失ってしまっては、それはもう直接軍政に乗り出されたのと同義である、と彼女たちは捉えた。

 業務連絡事務局官吏が飛び回って情報を収集したところ、既にオルクセンは占領軍将兵給料用として九一六七万ラングの軍票を本国から移送済みであり、一部将兵に支払ってもいるという。

「たいへんなことになる・・・」

 財務官吏たちは、真っ青になった。

 しかもこれを流通させられてしまえば、ディアネン政権管轄下では通貨流通量が一気に増大し、悪性のインフレに陥る可能性が高い―――

 ウィンディミア首相自らが財務官吏を伴って占領軍総司令部に赴き、ブルーメンタール参謀長に面談を求め、通告の撤回を求めた。

 彼女たちは、対案を持参していた。

 エルフィンド国有銀行に占領軍総司令部の決済口座を設け、必要な資金を政府から振り込むから、今後の占領軍将兵給与はこの口座との決済にして欲しい、というものであった。

 軍票はあくまで軍票、代用通貨に留め、正規の通貨として運用するのは止めて欲しい、という要望である。

「結構だ」

 ブルーメンタール参謀長は、意外にもあっさりと了承し、ウィンディミア首相らを安堵させた。

 これはずっと後年になって表に出ることだが。

 遥か以前からエルフィンドの占領統治・併合政策を検討してきたオルクセン側は、軍票を正規通貨として運用させた場合のリスクなど、承知済みであった。

 彼らはその欠点を実に良く把握していたからこそ、既占領地では軍票をあくまで代用通貨として運用し、物価騰貴を防ぐ手段としてきたのだ。

 では、なぜディアネン政権に対してこのような要求を突き付けたのか。

 ―――尻を叩いたのである。

「こうでもしませんと、ディアネン政権の経済安定政策は立ち上がりませんからな」

「うむ」

 彼らは、ディアネン政権が間接統治を失う可能性を恐れ、また必死になってこれを維持しようとすることも、とっくに予測済みだった。

 しばしば直接軍政に乗り出す構えを見せて、これを実に有効に「脅し」にしたのである。

「陛下は―――」

 帰っていくウィンディミア首相の馬車を窓辺に見ながら、アロイジウス・シュヴェーリン元帥は呟いた。

「ディアネン政権を生かさぬよう、殺さぬようにせよ。そう仰せだ。奴ら自身がそれに気づいていたとしても―――儂には、あの総理はとっくに気づいているように思えるが。しかしそれでもなお、必死にならざるを得ない。それを利用せよ、と」

 この日。

 国王グスタフ・ファルケンハインは、戦時大本営設置条例に基づきベレリアンド戦争を指導した国王大本営の解散を宣言した。

 そして、本国からの新たな派遣者を含め、占領軍総司令部特別参謀部の第一陣、二九七名のオルクセン官吏、軍属、軍将校をシュヴェーリン元帥のもとに合流させた。

 オルクセン本国にはなお、二〇〇〇名近い各省官吏たちが、エルフィンドの国情や日常会話程度の基礎教育を終え、軍属となり、待機状態にある―――



「これは酷い・・・」

 五月二一日、アンファウグリア旅団第二騎兵連隊を中心とする約三〇〇〇の支隊は、エルフィンド首都ティリオン近郊に進駐した。

 既に第二九師団の進出済み地域であったが、占領軍総司令部令に基づきアンファウグリアは一隊を割いた格好である。

 彼女たちが警備を任されたのは、ティリオン近郊にあった政治犯収容施設だった。

 古い石造りの城塞を流用したもので、戦前、戦中と、エルフィンド秘密警察が逮捕者を送り込み続けた場所だ。

 解放時、約一八〇〇名の収容者がいた。

「我々が到着したときには、終戦時の混乱により既に監視兵たちは逃亡したあとでした。そのうち多くの者は、エレントリ館騒擾事件に合流したものと思われます」

 第二九師団野戦軍医部長が、支隊長アルディス・ファロスリエン中佐に説明した。

 眼前には、言葉を失う光景が広がっていた。

 粗末で、不衛生な囚服を着せられた受刑者たち。

 みな痩せこけており、瞳は虚ろで、無表情である。

 既に餓死者の埋葬も始まっていた。

「ここに収容されていた者たちは、我らの感覚でいえば、いわゆる犯罪者ではありませんでした。教義に逆らったとされる者、急進的な政治や行政の改革を唱えたとされる者、あるいはまったくの冤罪で讒訴された者―――」

「・・・・・・」

 アルディスも、このような施設の存在の噂は、戦前、耳にしたことがあった。

 だが、これほどのものとは――― 

 受刑者たちが一列に並び、オルクセン軍による給食を受ける光景も目にした。

 ミルク粥を中心にしたもので、エルフ族基準でも、あまり豊富な量とはいえない。

「補給状況に支障でも? 我らも幾らか糧食を携えております、ご提供できますが?」

「それが・・・ 極度の栄養失調に襲われた者に一挙に食事を与えると、むしろ良くないのです。最悪の場合、死に至る懸念が。我らとしてもエルフ族に関する医学知識は手探りではありますが、念には念を入れて、ということで」

「なるほど・・・」

 そしてアルディスは、とある一角に案内された。

 発見された、ダークエルフ族たちの収容区画。

 救出されたのは、約一六〇名。

 みな、あの民族浄化時に連れ去られた者たちだった。小規模とはいえ氏族長や、副氏族長クラスばかりだ。

 既にオルクセン側によって入浴、着替え、健康診断の手配を終えている。

 簡易な天幕舎と寝台とが用意されて、皆そこへ移されていた。監房を利用して暫定的に留まっている白エルフ族収容者たちよりは良い環境だった。第二九師団の配慮に依る。

 アンファウグリア旅団が警護役とされたのも、白エルフ族を含め相手は女性ばかりなので、そのほうが良いだろうという占領軍総司令部の判断だ。

 戦後のこの進駐時期―――

 たいへん不幸なことだが、オルクセン軍には幾らか風紀の紊乱、軍規の違反が見られた。

 古来、戦争が終わり、気の抜けた軍隊が求めるのは娯楽である。具体的には「酒と女」だ。進駐地域のエルフィンド住民に対する掠奪や暴行が、もっとも多いころで日に約三件摘発されていた。

 勝者の奢り。

 あるいはベレリアンド戦争においては、しばしばエルフィンド側に俘虜の扱いについて褒められたものではない行為が起こったから、それを経験し、あるいは見聞した兵たちが、感情的報復として白エルフ族を粗略に扱ったケースも多い。

 舎営の村落に対し、兵一名辺り一日に二本、酒を要求した例。

 食糧を徴発して代価を支払わなかった例。

 そして、暴行―――

 ディアネン市域だけに目を向けても、はやくもシュヴェーリン元帥が進出したのと同じ五月一五日午後には、市内の雑貨商にオーク兵二名が押し入り、白エルフ族を凌辱に及んだ事件が摘発されている。

 翌一六日には、旧第四軍団の占領地であるトゥンデボルンの村で暴行が一件。第五軍団第五師団の担当区で未遂が二件。もっとも凄惨であったのは第一七師団の天幕宿舎で起こったケースで、三名の白エルフ族が拉致され、二七名のオーク族兵に暴行を受け、いずれも失輝死した事件が起きていた。

 このような事件の数々は、オルクセン側のみならずエルフィンド内務省警察局にも記録されているが、エルフィンド官憲にはオルクセン軍を取り締まることは出来ない。

 むしろ占領軍総司令部命令第二号で、「オルクセン軍に敵対する者、占領政策を妨害する者は軍律裁判にかける」と布告されていたので、歯噛みして遠巻きにするしかない事案が続発した。

 占領軍総司令部では事態を憂慮し、ただちに第六軍司令官ラング大将、第八軍司令官シュトラハヴィッツ大将を呼び、綱紀粛正と厳正な取締りの布告、実施を求めた。

「エルフィンドにとっては屈辱、我らにとっては恥である」

 各地で野戦憲兵隊に加え臨時野戦憲兵隊が増設され、軍規違反者を摘発し、また占領軍総司令部は公娼施設の前進開設を準備させた。「性の防波堤」とするためである。

 ティリオン政治犯収容所にアンファウグリア旅団一部が前進したのも、この措置の一部である面が大きかった。

 二九師団野戦医療部は、収容者に対して決して粗略な態度に出ず、むしろ白エルフ族を含めて献身的な治療にあたっていたが、そこはオーク族兵たちの手に依るものだ。

 着替え、入浴の手配など、当事者たちにさえ困惑する場面は多く、彼らは赤星十字社の医師団、看護師派遣を求めた。

「皆さん・・・ もう心配はいりません。以降は私たちが出来る限りのことをさせて頂きます」

 アルディスは挨拶した。

 収容者の代表が礼を述べた。

「ありがとうございます。しかし、その・・・」

 民族浄化以来、周囲から隔離されていた彼女たちは困惑していた。

「はい?」

「どうか、教えて下さい。どうして・・・どうして、貴方たちは、の軍服を・・・?」

「・・・・・・」

 戦後、ダークエルフ族生存者の救出として「美談」とされ、またエルフィンドの併合を正当化させるために大いに喧伝されたこの収容所の解放は―――

 しかし、戦後のダークエルフ族に深刻な亀裂を齎した。

 収容者の多くは、その後、旧ダークエルフ族領域の一部を回復されて故郷へ復帰している。

 一方、アンファウグリア旅団の所属者たち、あのダークエルフ族脱出行に参加した者たちの多くは、ヴァルダーベルクへの残留を選んだ。

 ヴァルダーベルク派と呼ばれる者たちと、本国派と呼ばれる者たちは、どちらも「戦前ダークエルフ族の正統な後継者」を称した。

 この亀裂は、長い間修復しなかった。



 懸命になって直接統治への流れに抗う、エルフィンド関係者の努力を水泡に帰す大事故が起きたのは、五月二三日のことである。

 ディアネンとティリオンの間を行き交う鉄道線上に、ニーニリという駅があった。

 戦時中には、カナヴァのエルフィンド軍後方兵站拠点を襲った直後のアンファウグリア旅団が一時占領し、策源地とした村である。

 二三日午後二時、このニーニリ駅の東側―――つまりディアネン側で、上り復員列車一六両編成と下り物資輸送列車一八両編成とが正面衝突した。

 物資輸送列車側で一名、復員列車側で二名の乗員が死亡し、更には六両までが転覆した復員列車で多数の元エルフィンド兵が死傷した。

 殆どが、元エルドイン軍の国民義勇兵たちだった。

 過酷な戦場を生き延び、戦中戦後の食糧危機にも耐え忍び、ようやく郷里に戻ろうとしていた復員兵たちが絶望の淵に放り込まれたのである。

 現場は凄惨を極め、救助にはオルクセン軍も駆け付けたほどだった。

 その後の調査で、原因は、エルフィンド国有鉄道が従来とってきた運行管理の手法にあるとされた。駅長同士が電信をやりとりし、あるいは魔術通信に秀でた彼女たちはこれを用い、上下線の管理を行ってきた。このやりとりを、どちらかの駅長が見過ごしたのだ、と―――

 起重機車がやってきて、現場の復旧には丸一日を要した。

 当然、この間、ディアネン市への食糧供給は停滞することになる。

 占領軍総司令部では、第八軍の備蓄食糧の放出を行い、危機の再来を食い止めるとともに、同時にディアネン政権に対して占領軍総司令部命令第七号を手交した。

「エルフィンド全土の鉄道を、占領軍管轄下に置く」

 というものだった。

 占領軍総司令部参謀部には兵站部があり、ここに鉄道輸送司令部が設けられている。

 前者の代表は前第一軍兵站部長ヴァレステレーベン少将であり、後者は前第三軍兵站部長グレーナー大佐が就任していた。

 このグレーナー大佐の管轄下に、エルフィンド国鉄全てを置いてしまおうというのだ。

 しかもこの通告は、エルフィンド国有鉄道社にも直接手交されていた。

 ディアネン政権は愕然とした。

「どうか命令は政府を通じて行っていただきたい。そうして頂ければ、我らは必ず占領軍総司令部のご要望にお応えする。また本命令については、猶予を頂けないものか」

 業務連絡事務局の連絡使は、衝撃と眩暈、ぐにゃりと足元が溶解するような絶望を味わいつつ、それでも必死に抵抗した。

 鉄道網は、言わば大動脈だ。これを握られてしまえば、エルフィンドという体は支配されたも同然である。

「残念だが―――」

 ブルーメンタール参謀長は首を横に振った。

「今後の我が軍の進駐、またこの補給にはエルフィンド国鉄を使うことになるが、このように危険な鉄道には信頼を置けない」

「・・・・・・」

「オルクセン式ダイヤグラム、信号機、そして閉塞方式と通票の使用。これらを実施してもらわなければ、とても使えない」

「それでは、国有鉄道社にその教育を・・・」

「教育はむろん実施する。だが、それは我らの手によって行う。もう時間が無いのだ」

 ディアネン政権は二日間に渡って抵抗したが、最終的には占領軍総司令部のこの措置を押しとどめることは出来なかった。

 オルクセンは同時に、鉄道車両の整備もオルクセン式に徹底して行うことをエルフィンド国鉄に求めた。

 効果が目に見えて発揮されるようになるには若干の時間を要したが、物流網を改善するだけでもディアネン市の食糧危機、そして復員の進捗は劇的に改善した。

 ディアネン政権とエルフィンド国鉄の能力不足を、内外に知らしめる結果となったわけである。

 またこのころには、ティリオン政治犯収容所の実態が報道に乗り、全土に知れ渡るようになった。

 エルフィンド旧政治体制の闇を象徴するものとして捉えられ、戦前における他種族迫害と合わせ、旧体制と国民の分断が進んだ。

 両事件の報道に役割を果たしたのは、オルクセン軍の従軍記者たちだけではない。

 占領軍総司令部は、その占領軍総司令部命令第二号で、

「旧体制下における戦前戦中の如き検閲体制を取り除き、報道の自由を保障する」

 と謳っており、エルフィンド内の新聞各社も両事件をセンセーショナルに報じた。

 言わば、戦後におけるオルクセン統治を進めるひとつの結果となったわけだが―――

 そのきっかけのひとつとなった「ニーニリ鉄道事件」には、幾つかの不審点が残った。

 ニーニリの駅長は、確かに連絡電信を発した、控え記録もある、間違いがないといい、調査の結果、隣接駅間との電信線が切断されていたことがわかった。

 また現地の鉄道軌道には、犬釘が抜かれた跡があり、軌道も一六メートルに渡って動かされていたことが分かり、周辺からは投棄された工具が見つかった。

 例え正面衝突していなかったとしても、下り復員列車は転覆していたのではないか、という疑惑が出てきたのだ。

 鉄道を管轄下に置いたオルクセン軍は、大々的に野戦憲兵隊を使って調査に乗り出し、近隣村落から目撃談を収集した。

 曰く、「挙動不審な三名のエルフィンド復員兵が、事故の直前、周辺を徘徊していた」というのである。

「占領統治に反抗する者たちが、鉄道線及び電信線の破壊工作を試みたのではないか」

 この疑惑が生じ、徹底的な捜査が行われたが。

 復員兵など無数にディアネン市域に溢れていたころである。

 鉄道線のみならず、街道での自力移動によって復員していく者たちも多い。

 ついに「犯人」は見つからず、真相は不明なまま迷宮入りとなり、やがてエルフィンド敗戦直後に無数に起きた大小の混乱のひとつとして、誰からも忘れ去られる結果となる。


 

 五月二七日、オルクセン国王グスタフ・ファルケンハインは、それまでいたイーダフェルトからディアネンへと移駐した。

 すでに国王大本営は解散し、国軍参謀本部総長の肩書に戻ったカール・ヘルムート・ゼーベック上級大将、次長兼作戦局長エーリッヒ・グレーベン少将、兵要地誌局長カール・ローテンベルガー少将、巨狼アドヴィン、それに副官部を伴っている

 ディアネン中央駅舎及び駅前には、警護役となったアンファウグリア旅団本隊、後備第一旅団第一連隊のうち一個大隊、第五師団第二一連隊将兵の一個大隊がずらりと立哨した。

 参加部隊はグスタフ自らがとくに希望して指名したもので、ネニング平原会戦とディアネン包囲戦で苦労を重ねた隊から選ばれていたことが分かる。無形の恩賞であった。

 警護指揮官は、アンファウグリア旅団長ディネルース・アンダリエル少将が務めた。

 この前日までに、ディアネン中心部では入念な清掃が実施されている。

 駅舎、駅前には多量のオルクセン国旗が飾られ、国王仮宿舎となったディアネン商工会議所まで続いた。商工会議所では、占領軍総司令部将校監督のもと、白エルフ族の作業員が雇用され、家具の金具ひとつ、テーブルクロス一枚、ベッドメイキングに到るまで徹底的に国王の仮宿舎に相応しい体裁が整えられた。

 占領軍総司令官アロイジウス・シュヴェーリン元帥が王を迎え、「清掃」がどれほど行き届いたものであるかを、商工会議所へと向かう馬車内で報告した。

「御命令通り、女王及びディアネン政権は首都ティリオンに移動させました。彼女たちが拘束していた前政権関係者も同様です」

「うん、よくやってくれた」

「前政権関係者の収容には、まずはティリオン政治犯収容所跡を使うことにしました」

「何か、とてもややこしい発音の施設だったな」

「ええ。地元の地名だそうですが。我らにはどうにも妙な発音でしたので、仮呼称を用意しました」

「ふむ?」

鴨の巣エンテンネストです」

「・・・ふふ。結構だ」

 商工会議所に着くと、グスタフは自ら何名かの将官の昇進を授けた。

 第六軍司令官ラング大将、第八軍司令官シュトラハヴィッツ大将、後備第一旅団長ツヴェティケン少将、占領軍総司令部参謀長ブルーメンタール少将・・・

 彼らは、それぞれ一階級ずつ昇進した。

 戦中の功労を労い、戦後の新たな役目に相応しいものとするためである。

 ツヴェティケン少将は後備第一旅団の解散に伴い、終戦直前に急死したマントイフェル中将の後を継いで、第一師団長へ就任した。

 それからグスタフは、シュヴェーリン、ゼーベックらと昼食を供にした。

「グレーベンの奴も昇進させたがったんだが・・・ まぁ、もう少し戦後処理を進めてからやる。流石に義兄と同時とはいくまい」

「ありがたき幸せ・・・」  

 義父にあたるシュヴェーリンが頭を下げ、それでも嬉しそうに魁偉な容貌を綻ばせた。

 彼らは、そこで今後の方針について話し合った。

 シュヴェーリンは、歴史を幾らか学んだ牡である。

 古今、戦争そのものは上手く勝利しながら、占領統治に回ったあとで失敗する英雄たちのなんと多かったことか。

 その撤を踏まないためにも、グスタフとの頻繁な打ち合わせを欲していた。

 グスタフは、いましばらくはエルフィンドに留まるつもりだ、安心してくれと応えた。

 まだやりたいことが何点か残っており、そのためにも、と。

「とくに農業関係だな。前以て調べさせてはいるんだが、この国の農政と土壌は酷い。根本的な改革を要する。しばらくはシュヴェーリンの部下になって働かせてもらうよ」

「ご冗談を、我が王」

 実にオーク族の牡たちらしく、分厚いヒレステーキに舌鼓を打ちながら、冗句に笑い合った。

 シュヴェーリンは、しかし陛下の御帰還が先になるならばと、国土の防衛について懸念を示した。

 対グロワール情勢だ。

 これについてはゼーベックが頷き、本土西部国境に第七軍司令部を設け、上級大将に昇進させた前第一軍団司令官ホルツを指揮官に据えたと告げた。

「表向きは、復員作業を利用した鉄道機動の司令部演習だが―――」

 実際には、対グロワールの備え、というわけである。

 手抜かりがないことにシュヴェーリンは安堵し、エルフィンドの戦後方針について話は戻った。

「・・・すると、エルフィンドは最終的には州単位に解体する、と?」

「うん。アルトカレ、ファルマリア、ネニング、アシリアンド、エルドイン。各州に、我が国と同じ地方自治体制を敷く。ベレリアンド半島全体としては扱わない。旧ドワーフ領とダークエルフ居住領域については、うちのメルトメア州に編入する」

「・・・直接軍政による分割統治ですか」

「うん。よく見た」

 白エルフ族は個別意識が高く、纏まるのは氏族単位だ。

 これが寄り集まっている地方自治を、徹底的に利用する。

 そうしてオルクセン式の、地方自治制度を導入させる。

「戸籍の作成。低地オルク語の公用語化とこれに伴う教育及び再教育制度。公平な税制。戦前、戦中における悪事の喧伝。この辺りだな。叛乱しようなどという気を起こす前に、彼女たちを離間させる」

 現在、低く扱われている氏族の者たちから優秀な者を選んで登用することも有効だとした。

 例えば、北部の白エルフ氏族―――

「それと、白エルフ族を使ってこいつを作る。ただし一年か、二年か。その程度は先になるだろうが。少なくとも戦犯処理が終わってからのことだ」

 シュヴェーリンはグスタフの差し出したメモを開き、片眉を上げた。

「・・・内務省国家憲兵隊予備隊。こいつはまさか・・・?」

「ああ―――」

 グスタフは口元を歪ませた。

「統治には白エルフたちを使う。白エルフの不満の矛先は、彼女たち自身に引き受けてもらう。特別参謀部に送った連中の試算によれば、実働に六万、後方兵站に一万五〇〇〇。合計七万五〇〇〇。こいつを半島全土、各州に配する」

「すると、占領総軍の最終撤退はその創設に合わせて、ということになりますな」

「うん」

 それといま一つ、白エルフ族の階級社会を破壊する方法を思いついている、ともグスタフは告げた。

 これについては私自身の希望でもあり、将来のオルクセン自体の在り様にも関わり、私を王に選んでくれたお前たちの了承が必要である、と。

「なんです?」

「うん―――」

 グスタフは、部屋の隅に控えていた国王副官部長ダンヴィッツ中佐に頷いた。

 彼は扉を開けた。

 そこには、ひとりの少将が控えていた。

「本人とは、何度も話し合った。私の提案を了承してくれている。信じられない、本気なのかと罵られたが。もしお前たちが了承してくれるなら―――」

 その少将―――ディネルース・アンダリエルは入室し、敬礼した。

「彼女を、私の妻に迎えたいのだ」



(続)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る