第42話 戦争のおわらせかた⑩ ネニング平原会戦⑤
―――ネニング平原南翼戦線。
四月一一日夜半に入ると、エルフィンド軍ネニング方面軍の攻勢は、明らかに「息切れ」の形勢を示しつつあった。
とくに戦線最南端のアルトカレ軍などは、攻撃を惹起しては撃退されることを繰り返すという様相を呈し、ついにはその頻度も低下しているように感得された。
オルクセン軍から見れば、エルフィンド軍南翼は俗に言う「攻勢限界点」を迎えたものと思われた。
原因は、エルフィンド軍のあの恐るべき浸透戦術に、後続兵力が乏しかったことにある。
オルクセン軍は冬営対峙戦のころから、ネニング平原東部を南北に縦断する丘陵地帯に陣取っていた。まず、この時点で「要地」である。
そのうえ後退を余儀なくされると、エルフィンド側にそれ以上の浸透を許さぬよう、緊要地形に展開した部隊が多くでた。
総軍司令部が、迅速に総予備兵力を投入したことも大きかった。
戦線に生じた破孔を、駆け付けた予備兵力で塞いでしまった。
混乱や失敗もあったが、もっとも上手く行った例がギムレーの第一八師団第二三旅団の奮戦であろう。
第一八師団はその後、第一師団との連繋にも成功し、同地より南のこれ以上のエルフィンド軍浸透を防いだ。
エルフィンド軍は、自軍の補給体制及び後続兵力の不足、そして必死になって緊要地形を押さえ続けたオルクセン軍の粘り強い抵抗に依って「攻撃の限界点」を迎えた、と言える。
この時点で総軍司令部に懸念されていたのは、ギムレーとフェーデの間、部隊名でいえば第一八師団と第五師団の間隙であったが、同地にはエヴェンマールから進出した後備第五旅団の本隊が、イヴァメネル支隊に敗走させられた隷下先遣隊の収容を急ぎつつ、展開をはじめていた。
同日深夜には、ギムレーの北北西四・五キロの地点で、この後備第五旅団に属する後備擲弾兵第一一連隊の警戒隊と、会戦開始当初の位置から大きく後退していた第五師団第四一連隊の第六中隊及び第五騎兵連隊一個中隊が出会った。
これで不安視されていた「大間隙」が、曲がりなりにも細い線で塞がれたことになる。
この後備第五旅団本隊とその砲兵が、先遣隊の敵討ちとばかりに撤退するイヴァメネル支隊の横腹を終夜撃った。
更に彼女たちの後ろからは、総軍司令部最後の総予備兵力、後備第一三旅団がイヴァメネル支隊の背を追うかたちで迫った。
「噛みついちゃいかん。噛みついちゃいかんぞ」
敵に対して寡兵であったから、エルフィンド騎兵得意の誘引包囲戦法を浴びぬよう、慎重に距離を取って、友軍に合流することを優先した運動であった。
ネニング方面軍アルトカレ軍が、懸命に開けた最後の戦線破孔は、急速に塞がれつつあった。
総軍司令部は、安堵し、胸を撫でおろしていた。
正直なところ彼らには、イヴァメネル支隊がネブラス襲撃を強行していた場合、防ぎきれた自信はなかったのだ。輸卒や補助輸卒、果てはコックや会計将校まで動員した防御陣―――のち「奇跡のネブラス円陣」と呼ばれることになった代物は、彼ら総軍司令部の自覚としても殆どハッタリ、ハリボテ、詐欺のようなものであったからだ。
士気や、グスタフ王を守るという気概の点は高くとも、補助輸卒の国民義勇兵のなかにはフリントロック式や雷管式の小銃しか扱ったことがないというデュートネ戦争世代の退役兵士までいて、彼らはその場で軍現用である槓桿式小銃の扱いを教わった。
急な対処であったから、満足に壕も掘れていなければ、障碍物の敷設も限定的であった。
まともな数の砲兵もいなければ、指揮をとる野戦将校の数もまるで足りていなかった。円陣形成中は会計科の将校までもが、必死になって教本を思い出しながら采配をしている。
総軍司令部が恐れたのは、ネブラスそのものの失陥も然ることながら、仮にそのような事態に陥った場合、軍兵站拠点の喪失により第一軍全ての戦線が崩壊してしまっていたであろう、ということだ。
ネブラスの防禦成功とは、それほどの意味を持っていた。
後年、これら事実を以て「イヴァメネル支隊はあくまで強襲を決行すべきだった」という意見も少なくなかったが、支隊指揮官イヴァメネル中将とその部下たちは、あのファスリン峠の戦いで、大きな犠牲を払いながら遅滞戦闘のための強襲を実施したような者たちである。成算さえあれば、彼女たちはあくまで襲撃を強行したであろう。
曲りなりにも二万もの数に達したネブラスの防禦。
大鷲軍団第二空中団が、他の戦域を半ば放棄してまで全力を以て行った空爆。
装甲艦ラーテによる艦砲射撃。
そして大胆にも実施させた、北翼における逆攻勢。
その彼女たちをして「無理だ」と考えさせるだけのものがネブラス円陣の「ハッタリ」にはあったのだと思わねばなるまい。
「オルクセン軍防禦固く、また奇襲の見込みも万が一にもなし」
と、イヴァメネル支隊の軍状報告は記録する。
このように攻勢限界点を迎えたアルトカレ軍に対し、オルクセン軍南翼としては当然のことながら反撃に出たい。
敵が大きく浸透してきた突出部は、形勢が逆転してしまえば敵軍を一網打尽にできる絶好の機会である。
だが―――
オルクセン軍南翼もまた、速やかには反撃に出られない状態にあった。
原因は、はっきりしていた。
将兵の疲労と、兵站補給上の混雑、そして通信の混乱である。
会戦は、四月九日の開始以来、既に三日に及んでいる。
この間、とくに攻勢を受け後退したオルクセン軍諸部隊は不眠不休で防支に努めた。オーク族はその強大な体力と耐久力の代償であるかのように、睡眠を好む。仮にそうでなかったとしても、三日三晩不眠不休の戦闘など、大きく体力を失って当然であった。
アルトカレ軍の攻勢が弱まるにつれ、壕のなかではどうしても睡魔に襲われ泥のように眠り、鼾を立てる兵が続出していた。それで安眠できたならまだ良いが、俄に起こる戦闘にまた揺り起こされ、眠く重たい瞼をこすりつつ、防禦をやる―――
「ただちに追撃しろなど無茶だ。せめて今夜は眠らせろ。そうでなければもう、兵たちは一歩たりとも進めない!」
第一擲弾兵師団長マントイフェル中将などは、第一軍団司令部派遣参謀に対し、そのように叫んでいる。
兵站物資の不足は、第五擲弾兵師団で深刻だった。
彼らは二度にわたって後退し、その過程で師団の補給品交付所を丸ごと失っている。上級部隊の第五軍団では、軍団補給所から必死になって追送をかけ、辛うじて支えてやっている状態だった。
なにしろ第五軍団は、自身の軍団補給所そのものを、軍団に属するもう一つの師団、第二〇擲弾兵師団がひたすら懸命に守っているような戦闘を過ごしている。
そもそも第五軍団は、南のネブラス鉄道線からも中央のエヴェンマール鉄道線からも大きく外れて布陣していた。鉄道本線から軽便鉄道を伸ばして物資を輸送し、兵站を支えていた軍団のひとつにあたる。
第一軍団は、ネブラス鉄道線の南北に展開していたから比較的状況は良かったが、軍としても最南端にあたる第一七山岳猟兵師団はやはり後方機関に大きな損害を受けており、軍団の輜重隊がこれを直接に支えていた。
第一擲弾兵師団が模範的な防支を行ったグリトニルの背後には、第一軍団の軍団補給所があり、ここからネニング平原最大の河川ケルラウヴ川に架かる橋梁を輜重馬車隊の縦列が渡って、彼我両軍の砲声を聞きながら第一七師団への補給をやっているような状態だ。
これらを回復させねばならない―――
このような膨大な後方支援活動は、むろん軍兵站拠点たるネブラスから続いている。
ネブラス円陣のための俄な「最前線」動員を解かれた輸卒や補助輸卒たちと、本来任務を継続していた彼ら第一軍兵站部の同輩たちとが、糧秣を、弾薬を、医薬品を、ひた向きに輸送列車に積み込んで送り出していた。
オルクセン軍といえば、大飯食らいのオーク族が構成主体である以上、補給上の問題といえば糧食の供給ばかりに目が行く。
当然その懸念も存在したし、とくに第五師団はかなり危険な水準に達していたが、ネニング平原会戦において問題になったのは、砲弾の補給だった。
「一国の火砲、全て後装砲を以てするが如き大戦争は、世界戦史上、実に今次戦役を初とす」
と、公刊戦史は記す。
このベレリアンド戦争は、開戦初頭から中盤戦、最終局面を迎えるに至るまでに、オルクセン軍の戦前予想を遥かに上回る砲弾を濫射消費する傾向を見せた。
―――砲一門当たり、一五発も撃てば一度の戦闘は十分に終わるであろう。この戦闘が重なる「会戦」や、数か月分の消費を見越しても、野山砲級で砲一門当たり一四四発の「定数」があれば事足りる。
そのように想定され、いざ戦争に突入してみると、消費量を示すグラフは急上昇した。
まだネニング平原会戦が始まる前、冬営対峙戦をやっていたころ、第一軍兵站総監ヴァレステレーベン少将は過去の戦例を纏め、「来るべき大会戦」においては
これが総軍司令部の裁可を受けると、ネブラスの軍兵站拠点、各軍団の補給所、師団の弾薬縦列、各砲隊の弾薬車に、砲一門当たり平均三六四発を集めた。
これで火力により敵軍を圧倒出来るであろうと、彼らは考えていたのだが。
ところが蓋を開けてみると、北翼戦線はエルフィンド軍の大攻勢に火力を以て抗しようとしたためもあって、砲を撃ちに撃った。
第一軍団、砲弾消費量一日一門平均二八発。
第五軍団、同三二発。
会戦が始まって既に三日が経過していたから、砲一門当たり八〇発から一〇〇発近い砲弾を消費していたことになる。
それでいて、会戦は未だ終息の気配すら見せない。
ヴァレステレーベン少将は、真っ青になった。
定数外の砲弾備蓄を図って、なお不足の傾向を見せ始めていたのだ。
「なんという・・・ なんという戦争なのだ・・・」
近代戦の恐ろしさの一つ―――国家規模での消耗戦の、その萌芽のようなものが、確かにベレリアンド戦争にはあった。オルクセン軍の兵站機構は、背筋も凍るほどの勢いでそれを感じていた。
元々、オルクセンの兵站機構は「とにかく飯を送れ。弾薬は定数で事足りるから」という思想をしていた。その兵站思想が、明らかに崩壊しかかっていた―――
この原因もまた、戦前、彼らの考えていた「火力戦」にある。
開戦以降、兵の損耗を抑えようと、とにかく砲を撃とうとして更に拍車がかかった。
アルトリア要塞戦など、相手が旧式の稜堡式要塞であることを奇貨とし、「火力のみ」で決着をつけようとさえした。
「我らの火力は、そこまで発達していない」
戦術上の観点ではあったが、この表面的な火力戦思想「誤った火力戦」が危険だと気づいたのが第四軍団司令部である。そうして導きだされた移動弾幕射撃と近接小銃射撃戦及び白兵戦の複合戦術を実践する過程に入ったばかりであり、つまりこの新しい戦術概念は、未だ
第一軍の他の軍団は、戦前の「火力戦」思想のまま戦っている。
敵と対峙している限り、そしてその敵が崩れない限り、ひらすら砲を撃った。そして両軍とも野戦にまで壕を掘るようになっていたから、その敵はなかなか崩れない―――
招かれた結果は、砲弾の大量濫費消耗である。
だがヴァレステレーベンは、挫けなかった。
彼は優秀な鉄道軍事利用の専門家であったうえに、第一軍北上開始以来の船舶輸送を指揮監督した牡でもある。
その経験から得難い教訓を得ていて、「船舶輸送は、陸上輸送とは比較にならないほど大量の物資を運び得る一方、その手配及び荷役まで含めた運送期間には多くの日数を要する」と断じていた。海上輸送には天候の影響も大きく、遅延もあり得る。
そこであらかじめ余剰の物資を、ファルマリア港にも備蓄するようにしていた。
これが彼にとっての救いになった。
ネブラスからの各軍団への砲弾追送を手配するとともに、ファルマリア港に幾らかあった余剰砲弾―――「定数外まで備蓄した砲弾の、そのまた余剰の砲弾」の輸送を命じたのだ。
このような兵站機構上の努力が続くなか、通信の混乱も深刻であった。
エルフィンド軍は九日の会戦開始以来、浸透戦術に魔術通信妨害を多用したし、一一日夜半に始まった後退援護のため再びこれを活発化させていて、しばしばオルクセン軍の魔術通信体制は混乱した。
また南翼諸部隊は、例えどれほど妨害されようと防禦のために魔術通信探知と魔術探知を試み続けていて、通信隊のコボルト兵たちも精疲力尽していた。
必定、軍の通信は野戦電信に全てを頼らざるを得ない。
各軍団と軍兵站部との間には無数の電信が行き交って、ほぼ混線状態に陥っていた。
そして一一日にオルクセン軍北翼が攻勢を起こしたことは、戦術上は大きな打撃をエルフィンド軍に齎しつつも、通信隊における多忙煩雑を更に増してしまった。
膨大な補給需要に応えるため、第一軍の根本的な策源地であるファルマリア港からは、ネブラスの軍補給所での荷役作業過程をすっ飛ばして、しばしば直接に各軍団補給所や師団補給品交付所へと鉄道が走っている。つまりファルマリア及びネブラス間の通信状態まで混雑していたのだ。
エルフィンド軍が浸透した地域には、野戦電信線の破壊活動も起こっていたから、その復旧も行わなければならない。
この間、大鷲軍団による通信筒の投下が試みられた。また比較的安全だとされた司令部間では、直接に大鷲族が離発着し、総軍司令部との伝令を行っている。
空中偵察、空爆、伝令―――
大鷲軍団の疲労もまた、拡大した。
「会戦勃発以来、後方の多くもまた不眠不休状態に至れり」
とは、オルクセン王国ベレリアンド戦争公刊戦史の素っ気ない一文であるが、この行間には膨大にして広範、凄まじいばかりの数の後方及び通信関係将兵、鉄道関係者などがいたことになる―――
第五軍団司令部通信隊の一隊が、これを象徴するような出来事を経験している。
彼らはこの夜、第五師団司令部との間の野戦電信網の一部、その復旧回復を図っていたのだが、必要器材として携えてきた木箱を開けて仰天した。
「おいおい、なんだこりゃあ・・・」
電信線を架柱に架線するには絶縁体たる陶製の
やむを得ず中身を処分して、麦酒瓶を碍子の代わりにして、架線敷設を続行している。
この夜、彼らの作業は深夜まで及び、やがては野外にあって「泥のように眠った」、という。
麦酒に目の無いオーク族兵たちが、いったいどのようにして「中身を処分」したのかは、想像を逞しくするしかない―――
総軍司令部も眠っていなかった。
彼らもまた、過労疲弊している。
一一日という日は、総軍司令部参謀たちにとっても最大級の負荷がかかった一日であった。
ネブラス円陣の指揮を直接に執り、軍北翼における逆攻勢発起の情勢推移を気にしつつ、更には第三軍に対して「機動命令」の電信を発した日でもある。
「いまにして思えば―――」
ネニング中央駅の司令部施設に戻ったとき、作戦部作戦参謀の一翼を担うクレメンス・ビットブルク少佐は、ぽつりと呟いた。
作戦部長エーリッヒ・グレーベン少将の信頼も厚い、戦術の専門家だ。開戦以来、グレーベンは、この少壮気鋭の参謀と、もうひとりの部下である作戦部副長ライスヴィッツ中佐に全幅の信頼を寄せている。
そのビットブルクが、
「総軍司令部と第一軍司令部は、分けるべきでしたな・・・」
手落ちであった、というのだ。
総軍司令部が、国王大本営の一部であり、かつ第一軍司令部を兼任しているという状態は、確かに失敗であったかもしれない。
第一軍には別司令部を立て、しかるべき大将などを指揮官に任じ、参謀部をあてがい、この一大野戦軍の指揮を委ねていれば、総軍司令部は全般の戦略立案と作戦指導に専念できたことは間違いない。
「いまさら言っても遅いな」
エーリッヒ・グレーベンは、乾いた笑いを立てた。
彼もまた流石に疲労を感じていて、その響きは何処か空虚にも皮肉にも聞こえた。
大地図と兵棋の並べられた大机にどっかりと座り、南翼を眺める。
「敵は息切れ。奴らが阿呆でなければ、防禦への転換を図る。すぐさま追って打撃を与えたいところだが、こちらも肩で息をしている状態―――」
呼ばれるまでもなく、ライスヴィッツ中佐とビットブルク少佐はグレーベンに相対するように座った。
オーク族用の、大きいが簡素な造りの野戦用折りたたみ椅子が軋んだ音を立て、さらに三名の背骨も軋ませた。元々あった駅舎備え付けの椅子の類は当然エルフ族用に拵えられたもので、オーク族には小さきに過ぎ、彼らは野戦用の椅子を運び込んで、用いていた。
この戦争中、他の作戦部の若い参謀たちはともかく、この三名はずっとこんな光景を繰り広げて作戦の素案を立ててきた。
グレーベンがまるで形式に拘らない質の牡であったから、いちばん若いビットブルクまで含めて、まったく姿勢はだらしない。
たいていの場合、グレーベンがオルクセン軍側から眺め、ビットブルク少佐がエルフィンド側に座り、ライスヴィッツ中佐が間に入った。極めて簡易的な、青軍、赤軍、審判役だった。
しきりに葉巻や煙草をふかして室内を煙だらけにし、コーヒーや、ときにはゼーベック総参謀長の差し入れる赤ワインなどを飲んだが、この夜は酒はやらなかった。三名とも、いま酒精の力を借りれば、ぶっ倒れてしまいそうであったのだ。
「・・・動かすなら第一軍団だな。比較的兵站に余裕がある。こいつに第一八師団を増強。第一七師団を旋回軸にして、第一師団、第一八師団で敵を押し戻す」
「意外です。第五軍団と第一軍団で挟み込むかと」
「馬鹿。第五軍団はすぐには動かせねぇよ。へとへとじゃねぇか」
「なるほど。では、
「第四軍団の報告によれは榴弾砲の威力は凄い。第一軍団には、野戦重砲第一三旅団の一二センチ榴弾砲を攻勢にも活用させる」
「まるで攻城戦ですな。うちは下がります」
「何処まで?」
「ヴィーザル北-ヴァーリ-ユーダリルの線までです」
「いたたた、痛いな、おい。ユーダリルは押さえようとするわなぁ、やっぱり」
「ええ。こいつは要です」
「第五軍団と第一八師団の北端でユーダリルを攻囲」
「火力不足じゃありませんか? うちは粘ります」
「大鷲軍団の空爆と、野戦重砲第一四旅団でケツを引っぱたく」
「酷い・・・ 下がるしかありませんね」
「イーダフェルトを押して、エルムト川の線まで進出、と」
「・・・できましたね」
「ああ。時間がない。詳細を詰めさせている間はないから、発信しろ。発起は明日一二日正午。それまで兵は交代で眠らせ、ありったけ食わせろ」
「はい」
「南翼はまずアルトカレ軍を割る。我らを舐めてくれた代償は払ってもらう。両翼包囲に持っていくぞ」
―――この戦争中、参謀部の様子がどのような具合であったかは、ビットブルク少佐の回想が残っている。
「ネニングの駅舎前には、道路を挟んでホテルがありまして。
参謀部はこれを接収して宿舎にしていました。
いえ、そんな高級なものではなかったですよ。オルクセンでいえば、まあ三流の安宿といったところです。蛇口をひねっても湯どころか水が出るかも怪しいような。若い者たちなど、相部屋でしたね。
あの戦争での参謀部は、グレーベン少将以下、みな若かったですから。まず仲が良かったですし、戦前に陛下が定められた会議のやり方のおかげで、例えどれほど議論伯仲白熱し、口に泡して殴り合う寸前まで行っても、夜にはもう皆で酒を飲んでいるという具合で。
あの夜はもう、誰もその宿舎まで戻る気力すらありませんでした。
第一軍団への発信を終えさせたところで、もう日付は変わっていたと思います。
そこに陛下付きの調理部が、ホットワインを持ってきてくれまして。ええ、陛下の御配慮です。
いまでも覚えていますね。温めた赤ワインに、シナモン、クローブ、オレンジ。それに、ごく薄めたエリクシエル剤。
みなで涙を流さんばかりにそれを飲んで、椅子やソファにひっくり返って、あっと言う間に眠りにつきました」
公刊戦史は記録する。
「同夜、総軍司令部もまた直ちに追撃戦を発起するやの気力なし」
第一軍団司令部では―――
一二日午前二時に、攻勢転移の総軍命令を受信した。
これを受けての、第一軍団司令官テオドール・ホルツ大将の反応が極めてオーク族的であった。
「これほどの恥辱があるかぁ!」
額に青筋を立て、顔を真っ赤にしたホルツ大将が「恥辱」と叫んだのは、第一軍団に第一八師団及び後備野戦砲兵第一〇旅団、そして総軍直轄でそれまで防支に協同していた野戦重砲第一三旅団を指揮下に加える、という事項だった。
ホルツ大将は「ロザリンド会戦世代」。
当時は、オルクセンの現軍制でいうところの少尉から中尉の相当で、歩兵隊を率いた。
俗に言う闘将肌であり、戦上手として知られていた。
「本会戦の生起以来、我が第一軍団は後退戦の屈辱を味わった。これを押し戻すにあたって、総軍司令部はまた更に友軍の増強を差し向けるという。貴様らはこれを何と心得るか!」
部隊を増強してもらうということは、のちの感覚でいえば有難いことでしかない。
ところがこれを恥辱と捉えたところに、ロザリンド会戦世代の、オーク族で闘将と呼ばれた者たちとはどのような存在であったかを端的に示している。
その価値観が、如何に時代的にして義侠的であったか。
あるいは言い方を変えれば、大なり小なりそれほどの気概を持っていなければ、このころのオルクセンでは将軍などやれなかった。
また、オルクセンの軍隊がどれほど攻撃重視であったかを示している。
オーク族は、その種族の出自本来からして攻勢を好む。
対して、後退戦闘は苦手だとされてきた。
その後退と防禦戦闘を極めて上手くやれたことに、当事者たちが驚いていたほどである。これぞ長年の練兵の賜物と喜んでいた参謀たちは、震えあがった。
「エルフィンドの奴らどもに牙を立てろ! 猪突に猪突を重ね、八つ裂きにしてやれ! 押して押して押しまくれ!」
一二日正午、ホルツ大将の怒号を具現化したかのように、第一軍団は攻勢転移した。
この日の朝、この会戦開始以来、第一軍団の隷下部隊の補給状況はもっとも良好になった。
久方ぶりに幾らか纏まった睡眠をとれた将兵たちは、パンを、ヴルストを、ピクルスといった食糧を、多めに配給され、貪るように食べ、また熱いコーヒーを啜った。
オルクセンの兵士たちにとって満腹になることは、攻撃精神の発起にもあたる。
南端の第一七山岳猟兵師団を旋回軸にして、北隣の第一師団、そのまた隣の第一八師団が敵を押す。
各師団の砲、それに軍団直轄の野戦重砲兵第一旅団、新たに加えられた後備野戦重砲兵第一〇旅団、そして野戦重砲兵第一三旅団が、猛烈に撃った。
更にこの北側面から、第五軍団の第二一擲弾兵師団と第五擲弾兵師団とが、助攻的に砲を撃つ―――
会戦開始時のオルクセン側南翼戦線に対して大きく食い込んでいた、エルフィンド軍アルトカレ軍のほぼ全てとネニング軍の約半分とが、その突出部をぐるりと三周囲から滅多撃ちにされる格好になった。
このとき、オルクセン軍の第一軍団と第五軍団とが実施した攻撃法は、ほぼ戦前に定められた教令のままである。
砲撃で敵砲兵と歩兵とを叩いてから、距離二〇〇〇メートルまで密集隊形で迫り、それ以降は散兵線を形成して接近し、距離四〇〇から五〇〇で小銃決戦射撃によって敵が崩れることを狙うという、あれだ。
これが、効いた。
この、オルクセン軍殆どの者が自覚もせぬうちに時代遅れに陥っていたはずの従来通りの攻撃方法が効くほど、もはやエルフィンド軍は疲れ果てていた。
何度も繰り返された、浸透戦術。
あとに続かない兵站。
足りない予備兵力。
緊要地形を押さえたオルクセン軍に対し、幾度も惹起されては失敗した攻撃。
身体的疲労も重なっていたうえに、魔術通信妨害と魔術探知に魔術力を何度も使って、精神上や魔術力上も疲弊していた。
「ああ・・・そんな・・・」
「畜生・・・畜生・・・」
「地獄に落ちろ・・・」
午後一時前、辛うじて砲撃に耐えていた彼女たちの頭上に、大鷲族による空爆が始まり、エルフィンド兵たちは絶望の声を上げた。
最初に崩れたのは、アルトカレ軍でもっとも浸透に成功していた隊―――ギムレー丘陵地の前面にまで進出していた連中だった。
ギムレーからの俯瞰砲撃と、大鷲軍団による空爆とを浴びて、ずるずると後退を始めた。
このころになると、大鷲軍団による空爆戦術には変化が見られた。
敵の前線ではなく、砲兵陣地や、司令部施設、輜重隊、集結地など後方の目標を狙うようになっていたのだ。これは散発的な空爆を敵前線に施すより、遥かに効果的だった。前線は、味方の砲兵が撃つのだから、そちらに任せておけば良い、とした。
この戦法、大鷲軍団に教えたのは、ある意味でエルフィンド軍である。
後方を叩くことがどれほど効果を発揮するか、彼女たちの浸透戦術が大鷲族にヒントを与えたのだ。
また大鷲軍団が最前線を狙うより後方を襲うようになったのには、いまひとつ理由がある。
大鷲軍団は、この前日の一一日、開戦以来初となる戦死者を出していた。
第一軍に属する第二空中団の一羽が、味方を支援するため大胆に高度を下げたところを、前線付近で小銃弾の大量射撃を浴び、墜落した。
しかも
目撃者たち、とくに彼らの属していた編隊の長羽組であるアントン・ドーラ中尉とフロリアン・タウベルト兵長などはたいへん嘆き悲しみ、またこの哀しみはヴェルナー・ラインダース少将以下大鷲軍団全てに共有され、ネブラス郊外の駐屯地における墜落し戦死した組の席には花や生前に好物だったものが飾られた。
彼らの死を悼む一方―――
大鷲軍団は、改めて敵地上空を飛ぶことの危険性と致死性を感得した。
戦場での、殺気だった空気の影響もあったのであろう。
またこのような事態は、残念ながら味方にもあり得ることだ。
だが明らかに継戦能力のない墜落羽と飛行兵が意図的に鏖殺された事実は、エルフィンド軍には他種族俘虜をまともに扱う能力や意思が無いのではないか、あるいは絶無とまでは言わないが、道徳観念や順法意識が低下しやすいのではないかという疑念を抱かせた。
これは以前からあった懸念であり、大鷲族やコボルト族に限った話でもなかった。オーク族兵にも抱かれていたし、アンファウグリア旅団の騎兵作戦に対して第四軍団が前途を案じた原因のひとつでもある。
そこで大鷲軍団は、敵の抵抗が激しいであろう箇所を直接に狙うのではなく、後方の目標を狙うことにしたのだ。
飛行距離が延び、また墜落した場合の生還が期せない点は同様であるようにも思えたが、小銃による集団射撃を浴びるよりは危険性は少ないだろうと判断された。
結果としてこの攻撃法は、効果的であった。
これら支援を受け―――
第一八擲弾兵師団と、後備擲弾兵第一三旅団、同第五旅団とが嵩にかかった前進をして、追撃戦の様相を呈した。
その南隣の第一師団の方面では、アルトカレ軍中央部の防禦上の支撐点になっていたヴァーリという村が、野戦重砲兵第一三旅団に―――つまり一二センチ榴弾砲に猛烈に撃たれた。
この村の前面にエルフィンド軍の砲兵陣地があったからだが、彼女たちは満足に撃ち返せなかった。
既に手持ちの砲弾が尽きかかっていたのだ。
ヴァーリ周辺のエルフィンド軍は、撤退にあたって工兵爆薬縦列から爆薬を持ち込み、鉄道線を五カ所にわたって爆破したが、その破壊規模は小さく、この程度のものはオルクセン軍には何の支障にもならなかった。
一方、エルフィンド軍北翼は、全線に渡って崩れたわけではない。
たいへん頑強な抵抗を示した隊もいた。
代表的であったのは、ネブラスへの浸透から消耗しつつも撤退に成功し、ユーダリルのやや南東方向に再集結していたイヴァメネル支隊であろう。
彼女たちは味方の撤退を援護するため、砲兵陣地を築き、また何度もこれを陣地転換して敵からの捕捉を防ぎつつ、擾乱射撃を実施した。
また、とあるアルトカレ軍の一隊は、わずか三〇〇名ほどの歩兵隊ではあったが、イヴァメネル支隊から下馬した竜騎兵一個中隊の増援も貰って、ギムレーとユーダリルを直線で結んだ中間点ほどに存在した窪地に陣取り、防禦を組んだ。
これが東北東から迫った後備第一三旅団を相手に、頑強な抗戦をしている。
彼女たちは懸命に小銃を撃ち、七ポンド山砲を撃った。
後備第一三旅団がようやく死角を掴んで前進を始めたところ、今度はその窪地の近くにあった僅か三軒の農家に潜んでいたエルフィンド兵が屋根に登って狙撃を始め、伏兵となるという始末であった。
後備第一三旅団は、この農家から僅か四〇〇メートルという地点に七五ミリ野山砲の一個隊を持ち込んで、極至近距離から農家ごと平射で吹き飛ばしてしまうという荒業に出て奪取し、今度はこの農地から敵主力の陣取る窪地を俯瞰攻撃して、ようやくに彼女たちを後退させた―――
このオルクセン軍南翼による逆攻勢は、ある悲劇を浮き彫りにしてもいる。
翌一三日になって第一師団がヴァーリの村を再奪取した際、村民の態度に妙なところがあった。
最初は、オルクセン軍への畏怖に依るものか、あるいは再度のエルフィンド軍による解放を期待しているのかと思われたが、どうやらそのように単純な感情ではない様子であった。
理由はしばらくして判明した。
村民の数が、
戦禍に巻き込まれたのか、疎開、逃亡したのかと思われたが、これも違っていた。
会戦開始前、オルクセン軍がこの村を占領していた際、本心からにしろ営利的感情からにしろオルクセン軍に比較的協力的だった住民たちばかりが何処にもいなかった。
やがて尋問により、エルフィンド軍が攻勢をかけ「解放」されたとなった際、他の村民たちに密告され、エルフィンド軍に引き渡され、何らかの「処理」が施されていたことがわかった。
後方に連れ去られたか、処刑されたか。
いずれにしろ明るい未来ではなかったであろう。
他の村民から直接に襲われ、暴行を受けた者、虐待されていた者、あるいは凄惨極まることに郊外に埋められていた者までいた。
またとある村落では、オルクセン軍将兵の傷者や遺体を粗略に扱いながら、その事実を取り繕うため慌てて丁寧に埋葬し直していたことなどが発覚した。
オルクセン側が侵略軍としての性質を持っている以上、またネニング平原会戦の経過上、このような陰惨な悲劇は、エルフィンド軍の浸透地域かつオルクセン軍の再奪取地域のあちこちに大なり小なり発生していた。
戦禍に巻き込まれる一般民衆は、機を見るに敏とならなければ生きていけないという、切実な、致し方のない部分もある。
だがそのような村落を、オルクセン軍も白眼視し、二度と全幅の信用を寄せることなどなかった。「挙動怪しき村落」として分類し、ふだん以上の哨兵、村落内外の衛兵を置き、監視の対象とした。
これらの結果巻き起こったエルフィンド住民間の感情的対立は、また戦後における扱いの差は、ずっと後年まで尾を引いた―――
一三日になると、オルクセン軍による戦線を押し戻す運動の成功は明白になりつつあった。
オルクセン軍南翼は、会戦開始時の原位置であるヴィーザル、ヴァーリ、ユーダリルの線に復しつつ、更にはアルトカレ軍の策源地であるイーダフェルトを狙い、アルトカレ軍及びネニング軍をケルラウヴ川支流エルムト川へと押しやる形勢である。
一時はこの会戦をオルクセン軍不利とまで見る者もいた観戦武官団は、驚嘆するとともに畏怖し、何処か信じられないような感情を味わっていた。
このネニング平原会戦は、もはやその始まりから
しかも、未だ終結の気配はない―――
近代戦史上、対要塞戦のような持久戦はともかく、これほどの規模の野戦会戦は
そうでなければ、糧秣や弾薬といった物資はともかく、兵たちの体力が尽きる。
だがエルフィンド軍が、何よりもオルクセン軍が、この会戦を終わらせるつもりがまるで無いことが感得できた。
彼ら魔種族の持つ強靭な体力、耐久性がそれを成しているらしかった。
オルクセン国王大本営勅任外交顧問官サー・マーティン・ジョージ・アストンは、そのような観戦武官団の見解に加えて、オルクセンがこの戦争に潜ませている、鋼の如き継戦意思があると思っている。
アストンはその日の朝、母国キャメロット首都ログレスで発行されている、世界的にも権威ある報道紙デイリー・ユニバーサル・レジスターを眺めていた。
世界でもっとも古い、日刊報道紙だ。
ただしアストンの手元にあるのは四日ほど前のもので、船便で届けられ、それ以降の最新号はまだ入手できていない。グスタフ王の配慮でまとめて彼の手元に送られてきており、そろそろ新しいものが届くはずだが―――
ともかく、もう何度も読んだその「最新号」を、一三日の朝も眺めていた。
ロヴァルナ帝国の誇る世界的文豪ヤースナヤ・ポリャーナが寄稿した、「ベレリアンド戦争論」が掲載されている。
「―――片や星欧においてもっとも古く清らかとされた国、片や今や人間族諸国を凌ぐまでに文明も文化も発達した国ではないか。
双方、もう十分に殴り合ったではないか。
過去の経緯もあるだろう。
しかし、もはや互いに手を取り、融和し、平和へと踏み出すときではないか―――」
甘い、とアストンは見る。
いかにも星欧における宗教的価値観に基づいた、理想的平和を希求する内容であるとも。
この弱肉強食の世界で、そのような理想は尊きものと感じつつも、人間族諸国家でさえ信じまい。
また、その理想とやらを、平和的希求とやらを、オルクセンに捨てさせたのは誰か。
エルフィンドですらない。
―――我ら人間族ではないか。
彼らはある意味、世界でもっとも機会主義的で現実主義的な国家になってしまった。
その根幹には、国家としての生存戦略があるのみ。
そのためには、エルフィンドの存在を許さない。
自らに敵する魔種族国家の存在など認めない。
この戦争は、いままでの星欧諸国家間における戦争のように、賠償金や一部領土の割譲などでは終わらない。
エルフィンドを滅ぼし、併合するまで続くだろう。
オルクセンは地下資源を欲し、出生率が低いゆえに増えにくい国民数を求め、魔種族としての統一国家を望んでいる。
こんにちの星欧列商国にとって、国民人口はそれそのものが国力であり、戦争抑止力だ。
オルクセンの現在の国民数三五〇〇万。
エルフィンドは八〇〇万。
両者が合わさってしまえば、西星欧に対抗できる国家などもはや存在しなくなる。
長命長寿、出生率の低さゆえに、その多くは現役労働者数でもある。人間族換算なら、倍にして数えてもいいほどだ。
オルクセンには、その立場こそが必要なのだ。
オルクセンは決して諦めない。
そこには正義も悪も、理想も夢見もない。あるのは「現実」のみだ。
仮に、戦後エルフィンド住民の一部が反抗したとしても無駄でしかない。
オルクセンの穏健な占領地政策に、誰しもが忘れているが。
彼らには隠し玉がある。
―――どうにもならなくなったら、抵抗氏族の白銀樹など全て切り倒してしまえばいいのだ。
樹を切る。
そんなものを咎める国際慣習法は何処にもない。
そしてそれをやられてしまえば、白エルフのなかの気の弱い者など、失輝死してしまうだろう。
グスタフ王は、我が友グスタフは決してそのような真似を進んではやらない。そのような御方ではない。
だが、非情の手段を用いるしかない、他に手立てがないとなれば、躊躇わずに実行される王だ。このベレリアンド戦争そのものがそうなのだ。
エルフィンドは、決してオルクセンを敵に回すべきではなかった。
またこの会戦を自ら吹っ掛けるべきではなかった。
一度彼らの横っ面を張り倒したら。
殴り返し、相手の足腰が立たなくなるまで、あるいはそのような結果が得られたと判断するまで、必ず継戦するだろう。
対話による平和?
―――そんなものは、相手が対話に応じる気のあるうちにしか通用しない!
同一三日午後。もはや夕刻となり、夜も迫っていたころ。
ネブラス郊外の大鷲軍団第二空中団駐屯地に、一羽の大鷲が降り立った。
半ば力尽きるようでさえあった。
その大鷲は羽に銃創を負っており、また搭乗のコボルト飛行兵ともども疲労困憊していて、周囲を騒然とさせた。
決死の覚悟で長距離を飛んできた様子は、誰の眼にも明らかであった。
報告を受けたヴェルナー・ラインダース少将は、驚きの声を上げた。
「第一空中団が? いったい、どうしてここへ・・・?」
(続)
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