第28話

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 比嘉鉄夫が僕の言葉に僅かに反応する。

 僕は再び言う。

「三上麗奈…」

「何だって?」

 男が僕の呟きにも似た言葉に鋭く反応する。

 だが、それは僕が思っていたことではなかった。

 何故なら、男は言ったのだ。

「何だ、一体誰の事を言ってるんだ?」

 この一言で、僕は分かった。

 つまりこの一言は比嘉鉄夫三が三上麗奈という名を知らないという事を証明している。

 それはつまり、奴の言う『彼女』が三上麗奈であるという可能性(今の段階ではそう予想しているだけなので)はあくまでも僕自身の中だけの確定的事実に他ならない。

 だが、今すべきことはそれじゃない。

 僕はアスファルトに砕けて散っている岩粒、そう石の塊を見渡す。

 僅かに電灯が照らす路上に広がる無数の石群。もしこの上を走れば車のタイヤがパンクするかもしれない。事実背後からライトが僕の背を照らして、比嘉鉄夫の全身を照らし出した。

 比嘉鉄夫の額に垂れた髪から覗く魔人の眼。それがにやりと笑う。

 笑いながら股間に手を遣る。

「ああ、マプリカにテメェを追跡している内に俺は栄養財を飲んだせいか、こう睾丸にズキズキんって何かが入って来るんだよ。こいつは精力の回復ってやつだな。俺は短い成りにも休息(インターバル)を取った。お前はどうだ?ええ魔術師よ」

 言うや、叫ぶ。


 ひゃっどぉう!!


 奇声まじりに叫ぶや空間が裂けて、岩石が僕に向かう。


 ちょっと待て!!

 そう言いたく理由を僕はシカトした。


 ――その理由。


 それは僕がこれを避ければ、背後から来る車にぶつかるからだ。

 だが、そんな理由を僕はシカトした。そうしなければ、僕はこの短い至近距離からの惑星落下(メティオ・ストライク)は避けられない!!


 僕は間一髪で首を逸らして、岩石を避けた。避けて転がりながら、鼓膜奥で金属が砕ける音と悲鳴が聞こえた。

 ばらばらに砕ける岩石がアスファルトに転がる音。

 目を向ければライトがはじけ飛んでフロントガラスが砕けた車が見える。それだけじゃない。運転していた人物の弾け飛んだ血潮が見えた。


 マジか!!


 僕は比嘉鉄夫を見る。


 比嘉は口を開けてパクパクしている。それはまるで何事にも感情を持たないマネキンの口のようだ。

 僕は車へと駆けだす。駆けだしながら罵声を上げる。

「あんた!!よくも関係ない人を!よくもっ!!」

 僕はフロントガラスが砕けた車内へ身体を入れて救助しようと、ドアに手を入れた。

「必要ねぇ」

 比嘉鉄夫の鋼のような声が僕の手の甲を貫く。

「何だと?」

「良く見な!」

 冷徹な礫のような声。

 僕は車内を見る。

 見れば岩で砕けた顔の人物が見る見るうちに白くなってゆく。そして粉末状になって消えた。それだけじゃない、乗っていた車さえも、同じように消えたのだ。

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