第24話

(24)


 「いやぁ、お見事。狙いは正確で中々だったよ」

 僕は比嘉鉄夫に向かって言った。

 いや、正確には。

「僕のドッペルベンガーだけどね。比嘉さんが撃ち抜いたのはね。さっきここに誘い込んだ時、自身に魔術をかけておいたのさ、『ドッペルゲンガー』が発動するように」

「なんだと!!」

 比嘉鉄夫の目線が定まらない。恐らくそれはもう一つの魔術が効果を発動したんだろう。

 その魔術とは、僕はドッペルベンガー、つまり僕のもう一つの魔法体のシャツを指差す。

「ほら、比嘉さん、見える?もう見えないか?魔術が効いてね。このシャツ黒いでしょう。これこの部分に魔術をかけたんだよ。なんて発動したか、教えるよ。『一寸先は闇』って書いたんだ。きっと僕が倒れたら僕の体に触れるだろうからね。ここに触れたら発動するようにしておいたんだ。まさにまんまとかかったと言う感じだけどね」


 うおぉおおお!!


 比嘉鉄夫が叫ぶ。叫ぶが空間は裂けなかった。

「見えなくちゃ惑星落下(メティオ・ストライク)は発現しない。何故ならストレスという存在は発散する為に『当たり散らしたい対象』が見えなきゃどしようもないからさ。つまりストレスは中に籠ったままだ、それってストレス解消、惑星落下(メティオ・ストライク)はできないだろう」

 言ってから僕は静かに彼の背後に回った。

 彼は僕とドッペルゲンガーに挟まれている。もう視界が完全に見えないらしい。ふらつく様になっている。

 正しく『一寸先は闇』、

 思うに魔術の効果として視界と感覚が閉ざされているのだろう。

 僕は言う。

「最初は悶絶させるほどノックダウンさせて捕まえるしかないというのが、僕のシンプルな答えだったんだけど、突然、この場所に来て閃いたんだ。まぁ魔術の効果が実際どうかは分からないけど、『一寸先は闇』の状態にしてしまえば、『魔香石(ラビリンストーン)』の指輪を奪うのは簡単じゃないかとね」

 僕は鼻を掻く。

「それに状況に合わせて判断を変えるというのも社会に出ればとても大事な事じゃない。それがまた自分の仕事への成功へと導くのだから」

 僕は高らかに笑った。もう比嘉鉄夫は鉄の檻に捉えられた有害獣のようだ。やつから『魔香石(ラビリンストーン)』の指輪を奪うのはもうあまりにも容易い。

 僕は比嘉鉄夫の藻掻く手を強く掴んだ。


 ――お縄だ、比嘉さん。

 僕はお前を

 これから太陽の下で吊るしてやる。


 一呼吸してから指輪を取り出そうとした。

 しかし、僕は気付いた。

 握った指に指輪が無いことに!!


 ――これは、一体!!


 そう心が波打った時だった。


「状況に合わせて判断を変えるなんては社会にポッと出が生意気にいうじゃねぇか!!」

 

 僕はその声に驚愕したと言っていい。

 それだけじゃない。声に振り返ると同時に 空間が裂けて、黄金色の輝きが見えた。

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