第21話
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僕はブレーキをかけて後輪をスライドさせてクロスバイクを停めた。奴の視界から消えないように、慎重に冷静に捕まらないようにここまでやって来た。
それがどこか。
――そうここは、阪急中津駅
僕はむき出しの橋脚にクロスバイクを投げ出す。
それから一目散に走り出す。
一体どこに?
僕の足は昼間でも暗い闇を漂わせる隙間へと入り込む。
スカイビルへ向かう途中、僕は見たんだ。このまるで地悔過ラビリンスのような高架下を。
それは一瞬のすれ違いだったけど、それでも十分自分の記憶を呼び覚まし、相手との決戦の場所として瞬時に選び出したんだ。
しかしながら僕は高架下に潜るこむ様に滑り込んだが、肌がぞっとする。
昼間とはいえ、差し込む明かりが少ない。見渡せばそれは高架が長いという建築的理由でもあるのだが、何よりも商業施設としての開発が全くされていないことも原因だろう。
車が此処を走ろうとすれば、ライトを点灯しなければ肉眼での走行は難しいかもしれない。
それ程の闇が広がる。
(本当の地下迷宮(ラビリンス)のようだ)
思おうと僕はくすりと笑った。
それは何故か?
思い出したんだ、以前ミノタウロスと戦ったことを。
そう、まるでここは魔獣ミノタウロスの棲むクレタ島の迷宮さながらだろう。
ならばこそだ。
魔人との決戦の場所に此処ほどふさわしい場所はないじゃないか。
奴もいずれここに来るだろう。
投げ出されたクロスバイクを見て。
僕は僅かに光を発すると暗闇へと走り出す。
奴の視界から姿を消す為に。
僕が暗闇へ走り出すと、やがて荒い息遣いが聞こえて来た。
そしてそいつが奴だと分かった時、僕は完全に暗闇の中にベールを包んで同化した。
そう、魔人を待つために。
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