第18話
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「なんだって思ったさ。こいつは。だが俺は感じた。こいつはきっと俺の石になりたいって思いが、きっと具体化してこの世界に現れたんじゃないないかって。そして…」
男が中腰のまま指を指しだす。
「この指輪がきっと…俺に力を与えてくれている。俺はそう感じた。どうしてそう感じたか?お前なら分かるはずだ。魔術師として生きているお前なら、なんとなく自分の中に感じる力…そう『神秘力(マナ)』を持つお前なら、『魔力』の存在を知るっているお前なら、この俺の言う事が!!」
――俺の言う事
分かる。
それは何となくだがね。
言うなり男は叫んだ。
ひいやぁぁ!!
その声で周辺を歩く人が振り返る。
瞬間、閃光が閃いた。
――危ない!!
僕は反転する。
すると数秒前までいた自分の地面に何かがめり込む。その速さは瞬間的だ。まるでピストルの様な速さ。
「畜生!!外したか!!」
男が喚く。片足のもげたサンダルをおもいっきり蹴りで外に飛ばす。
片足だけサンダルを履いた気狂いの中年姿。それだけでも異常だ。
「…彼女はなぁ」
男の睨みつける視界の中に僕は言る。サンダルはもう見えていないだろう。
「この俺にこの力の秘密を教えてくれただけじゃなく。これからこの力を使って生きていける方法も教えてくれた。彼女は堕ちてゆく俺に手を差し伸べてくれた」
ああ、てめぇの股間を触りながらだろ?
僕はぺっと唾を吐く。
「唾を吐くな!!人様の話の最中に。それでもおめぇ社会人か!!」
男の顔が逆鱗にゆがむ。怒気の為、禿げた頭から湯気が湧いてるように見える。
うっせぇ!!と、僕は言いつつ周囲を見る。
僅かだが人が増えている。梅田北ヤードにながれてゆく人数が増え始めているのだ。
僕は静かに顎に手をやる。このままだと通行人がこいつの惑星落下(メティオ・ストライク)で怪我人が出ないとも思わない。
それは避けたい。
となれば、クロスバイクで一時こいつをここから引き剥がすほうがいいか。
まぁ逃走だな。
「おい!」
男がにじり寄る。
「てめえぇ今度は余所見か!!社会人として人の話をてんで無視しやがる。なってねぇな」
歯の無い口が大きく開いた。
醜い。
僕は思わず言った。
「彼女は僕に言ったぜ」
「何?」
「キスならナマズとするより、僕が良いとね」
ひゃっひゃっひゃっ!!
僕の心の中で悪魔がほくそ笑む。
それを聞いて男が背を伸ばして頭の髪を一斉にぐしゃぐしゃに掻き殴る。もう、感情が溢れんばかりになっている事だろう。
男の動きがピタリと止まった。止まると今度はゆっくりと指を突き出す。その指先に指輪が輝く。
「もう絶対(ぜってぇ)てめえを逃がさねぇ。彼女はなぁ、俺に言ったんだ。『世の中にはどうしようもない『悪』が居るんだ、そう本当の悪魔がね。だからそいつをあなたの力でこっそり始末するの。そう、それがあなたに与えられた新しい仕事。つまり祓魔師(エクソシスト)として』
祓魔師(エクソシスト)?
はぁ、
僕は或る言葉を思い浮かべてスマホに文字を描いた。
そして思ったね。
それはお前の事じゃない。
僕の言葉だ。
お前に憑りついた悪霊を僕が払ってやるよ。
スマホが緑の光沢を放って消える。それはその言葉が神の言葉(ルーン)だという証明。僕は自分の躰に触れる。触れて自分の肉体の内に魔術を発動させる。
そう、
まずはお前の前から消えてやるさ。
『逃げるが勝ち』とはこの事だろう。
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