第13話

(13)


 白地のTシャツに茶色のチノパンにサンダル。少し剥げた頭髪が風に吹かれている。

 どこにでもいる中年と言えた。

 警鐘が今や警報の様に鼓膜奥ではっきりとなっている。


 カン…

 カン…

 カンン


 いや、今はそんな音はどうでもいい。

 僕ははっきりと認識して、スマホを握りしめた。

 違う、

 スマホじゃない。

 ルーン石板と言った方が良いだろう。

 ビッグバンで宇宙が生まれ、そして地球の核に集まった宇宙の鉱石、それは神の言葉を選び、この世界に発言できる唯一無二の鉱石。そして僕が握りしめている存在はルーン鉱石が散りばめられたスマホ。確かに現代のスマホはそんな鉱石が散りばめられ、どこにでもある。

 だが、誰もがスマホを使って『魔術』を発言できる訳じゃない。

 出来るのは魔術書自身が自らの意思で選んだ人間(レスター)と松本曰く、


 それは内面に『神秘力(マナ)』を持っていないとだめなんですぅ、こだま君。


 ……まぁ、緊張感が現場と程遠いトーンだけど、


 ――つまり、

 それらを併せ持つ魔術師のみなんだ。


 僕は男を見つめる。

 これからどうやってこいつを捕まえる、

 いや、

 そうだな

 お縄にしようかと。


 しかし僕は既に作戦を考えておいた。作戦は至極単純。そしてそれに使う神の言葉(ルーン)も選んである。

 僕の手が自然とスマホの画面に触れて、文字を描く。これは作戦を思い浮かんだ時に試しに書いてみたから間違いなく偉大なる神の言葉(ルーン)。


 じゃぁ、作戦とは?

 まぁ、見ててよ。


 僅かに魔力を帯びた僕の手は緑とも黄金色ともいえない蛍光色を帯びている。つまりこの言葉は僕の所有する魔術書『十三の書』に記載されている神の言葉(ルーン)。

 そして魔術は相手に触れた瞬間、発動する。

 僕は魔術が発現されるよう相手に触れんばかりの側まで行き、ルーン文字を書いた手で相手に触れようとした。

 それは相手の肉体に中で魔術を発動させるために。


 僕が書いた言葉とは?

 それは


 ――春眠、暁を覚えず


 つまりこいつを深く眠らせて捕まえ、松本に連絡する。


 それが僕の考えた至極簡単な捕獲方法作戦。

 

 シンプル

 イズ

 ザ・ベスト

 

 相手に触れそうな手前で僕は男の名を呼んだ。男がそれに反応して揺れ、僕は相手に触れた。

 いや

 正確には触れようと手を伸ばした寸前だった。


「――眠れねぇだろうが、魔術師さんよぉ」


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