第6話 二度目のアドリアーノ

 そして私は十七歳の時に戻っていた。先日行われた茶会で、気に入った令嬢を最終五人にまで絞った。

 リストは既に提出してしまっているが、その中から私の婚約者を選ぶのは父である国王で、選ばれるのがシルヴィアだと私は知っている。


 茶会の時に会ったシルヴィアは前回と同じ感じ。彼女には前回の記憶は無いと確信していた。だとしたら、婚約を断られる理由は無い。

 何の不安も心配も無く、ただ父から婚約者決定の報告を待っていた。父からシルヴィア以外の女性の名前を言われて驚いた。


「シルヴィアでは、無いのですか…?」

「何だ、シルヴィア嬢が気に入っていたのか。彼女には断られたし、婚約者も既にいる。事前に言ってくれていたならまだしも、今さら遅い。さっさと諦めろ」


「そんな…。そうだ、婚約者は誰なのですか?」

「それを知ってどうする? 王家と言えど、人の婚約に横やりを入れるような真似はすべきではないし、出来ないぞ」


 私は絶望した。折角やり直しの機会を貰えたのに、これではやり直しどころではない。

 婚約者決定を無かった事にして欲しいと父に頼んだが無理だった。婚約は既に正式に結ばれていた。


 私は、ならばとシルヴィアが誰と婚約し、婚約者と上手くいっているのかを調べようとしたが、父に邪魔されて出来なかった。

 まだまだ子どもの私には使える人員、権力には限りがあった。


 数年後、パーティーでようやくシルヴィアに再会できた。シルヴィアの横にいるのは側近だったティベリオだった。

 二人は仲睦まじく寄り添い、私が見た事もない様な穏やかな顔をしたシルヴィアを見た。

 私は、あの臣下が告げた様に何らかの形でシルヴィアを苦しめていたのだと知った。それからやっと、自分の婚約者に向き合う気になった。


 元々計画は前回と同じ様に進んでいて、来年には彼女と結婚する。彼女もシルヴィアほどではないが、おおらかで穏やかな女性。違う幸せもあるのかもしれないと思い込む事にした。

 但し、シルヴィアに関する情報収集はするつもりだ。ティベリオに何かあった時は理由をつけて妃に迎えたい。


 そんな事を思っていた事もあった。二度目の人生なので、仕事へのストレスは以前ほどは感じなかった。それでも何か刺激が足りず、やはり私は妃を娶った。

 第一妃カトリーナは息子を二人、娘を二人産んだ後、自分は妃としての義務をきちんと果たしているので、後宮は自分の管轄ではない。こちらで管理する様にと言って来た。


 それは第一妃として正しい言い分であると臣下が認め、私が後宮を自ら管理する事になった。

 但し、全てを管理人に任せていたが、管理人が辞職をする事が多くなった。

 それに伴い段々と管理人の能力が落ちていったのか、度々呼び出される様になった。


 嫉妬を煽る様な事もしていないし、前回過激な行動に出た妃は娶らなかった。それにも関わらず後宮は荒れに荒れた。


 一度全員を臣下に降嫁させたが、そうなると私のストレス発散のはけ口がなくなる。

 仕事はきちんとこなしてくれてはいるが、カトリーナとの仲はすっかり冷めきっている。


 それでようやく自分がストレスを発散していた分、シルヴィアにストレスをかけていた事に気が付いた。シルヴィアとの仲も冷めきっていたのだと。後悔しても、もう遅い。


 私は折角与えられたやり直しの機会を無駄にしてしまった。そして私はまた、寂しい老後を送る事になったが、以前ほど自由に生きていなかったせいか、前回と比べると随分短い人生になった。


 次があればとはもう思わない。私はきっと国王としての立場や仕事にストレスを溜め、そのはけ口が無ければ耐えられないだろう。

 もし、次があるのなら。次は国王ではなく普通の立場で生まれてみたいとは思った。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ループした人々 相澤 @aizawa9

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る