第728話:君に捧ぐ愛の唄
誰かが来るかもしれないという緊張感の中。
よりそい合いながら重ねる唇、絡め合う舌。
リトリィの熱く情熱的な舌に弄ばれながら。
愛している、と何度ささやいたことだろう。
しなやかな舌と吐息の官能に溺れるが如く。
いまこのひとときが永遠になればいいのに。
君の瞳に、そんなことを考える自分が映る。
にっこり微笑みつつ君は
「あなた……ふふ、こちらもお元気ですね?」
捧げ物を得たように目を細める君に、俺は。
ぐっと、はやる気を抑えて腕に力を込める。
愛しいひとと二人きりの時を楽しむために。
のけぞるように熱い吐息を耳元に漏らす君。
唄いあえぐような蠱惑的なそれに誘われて。
「いらして、あなた……わたしのなかに……」
♥・─────・♥・─────・♥
リンク先…【閑話29:温泉の効能】
※性的な描写あり。楽しめるという方のみ、お進みください。
※以前いただいたファンアートへのリンクもつけました。
※読まなくても支障はありません。
https://kakuyomu.jp/works/16817139556498712352/episodes/16817330662984028532
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「ふふ、こんなところで、あなたったら……」
「君が求めてきたんだろう? ……応える俺も俺だけど」
冷えてしまった体を再び湯に沈め、俺たちは、朧月を眺めていた。月の角度からして、かれこれ一時間ほど過ごしてしまっただろうか。
「……わたし、この仔が産まれたら、あなたはいっぱいの愛をうけてうまれてきたんですよって、おしえてさしあげますね」
「……いっぱいの愛って、リトリィ、それは……」
「ふふ、あなたがお腹にいるときから、早く出ておいでって、あなたのおへやのとびらをたたき続けたんですよって」
勘弁してください。それは愛し合っている時の戯れ言として聞き流しておくべき案件です。待ちきれなくて扉をこじ開けて愛を注ぎ込んでくださったんですよって教えてあげますなんて、そんな夢見るようなうっとりした目で言わないでください、というかお願いですからそれを子供に言おうと思わないで。
「……てか、俺の反応を楽しんでるだろ、リトリィ」
「ふふ、いつもあなたをからかっているフェルミさんの気持ちが、すこし、わかってしまいました」
「分からなくていい、頼むから君はいつもの君でいてくれ」
懇願すると、彼女はいたずらっぽく微笑みながら、ぺろりと俺の頬を舐め上げる。
「ふふ、どうしましょうか」
くそう、フェルミめ。あんなに俺を慕ってくれていた純粋なリトリィを、こんなふうに染めてしまうなんて。
「あなた、いたずらなわたしは、おきらいですか?」
「……そんなわけ、あるものか」
わずかに視線をそらす彼女を、俺は再び抱きしめる。どんな彼女だって、俺の大切な大切な妻なんだから。
「あ……
リトリィが、うれしそうに俺の顔を舐める。
「あ、いや、えっと……」
「うれしいです、あなた!」
飛びついてくるリトリィに押し倒されるように湯の中に転倒した俺と、湯に沈みながらお構いなしに情熱的に唇を重ねてくるリトリィ。出産を間近に控え、さらに豊かになった弾む胸が、俺を押しつぶす。
その時だった。
ドアが開く音がして、「おお、寒い!」と野太い声が聞こえてきた。
そのときのリトリィの、泣きそうなくらいに歪んだ残念そうな顔といったら!
「あなた、お部屋に戻りましょう。すぐに続きをいたしましょう!」
俺を引きずり起こすようにして湯の中から引っ張り上げたリトリィは、すぐさま女風呂のほうに戻っていった。いや、すでに一度、致しましたよね⁉
そんなリトリィと俺とを見比べながら、あっけに取られているおっさん。
……本当にパワフルだよ、俺の嫁さんは。
でも君が望むなら、いくらだって身も心も捧げますともさ!
結局、妙にテンションが上がっているリトリィに喰われるように、その晩は搾り取られました。いや、違った。テンションが上がっているのは、リトリィだけじゃなかった。マイセルもフェルミも一緒だった。
「ふふ、ご主人。ここの温泉の効能のひとつ、知ってるっスか?」
「……打ち身とか、ねんざとか?」
「子宝ですよ、ムラタさん!」
「だんなさま、さきほど召し上がっていただきましたおやつ、なんだか、おわかりですよね?」
「……
三人がかりで搾られ続けました。
……温泉の効能って、すごい。
てか、このままじゃ本当に俺、腎虚で昇天まっしぐら間違いなし。だめだこれは、早くなんとかしないと。
……毎回言ってる気がする。
こう言っちゃなんだが、干からびて石のように硬いパンと豆のスープという、昨夜と全く変わり映えしない、本当に不味い朝食を済ませた俺たちは、あらためてリトリィの作ってくれる飯の美味さを実感し、早くも懐かしみ始める。
温泉はとても素晴らしいのだが、飯がとにかく不味い。本当は数日泊まって行こうかと思っていたのだが、全会一致で帰ろう、という話になった。
ところが、昨夜から降り積もった雪のせいで、牛車が動かないのだという。ガッデム!
あまりにも不味いあの飯をまた食わねばならないと思うとぞっとする、とため息をついたら、リトリィが「おまかせください、だんなさま」と、にっこりと微笑んだ。
「お昼はがまんいただきますけれど、お夕飯はきっと、おいしいっていってくださるものを召し上がっていただきますから」
なんのことはない、彼女が作ると言い出したのだ。
「それはうれしいけれど……そんなこと、できるのか?」
「はい! おまかせください」
ぶんぶんとしっぽを振るリトリィに、俺は愛おしさと、そして妙な安心感を覚えたのだった。
「カネは払う! どうか我々も一緒に……!」
「ふふ、どうぞ召し上がれ。お夕飯のぶんも、とおもっていっぱいつくりましたから、ごしんぱいなく」
リトリィの言葉に、一緒に宿泊していた男性たちが、涙を流さんばかりの勢いでむさぼっていく。
リトリィが作ってくれた昼食は、本当に同じ材料で作ったのかと衝撃を受けるものだった。あの味気ない豆のスープは、丁寧に裏ごしされた豆のポタージュとなっていた。若干香ばしいのは、一度炒った豆をアクセントに使ったかららしい。
さらに、あの石のように硬くなっていたパンは小さく砕かれ、クルトンのようになってポタージュに入っていた。
そして、我が家では見慣れた「煮豆」。調味料の関係か、やや物足りない味ではあったものの、それでも甘みと旨味がぎゅっと詰まった味になっている。口の中でほろほろと潰せる柔らかさ。あの味気ない豆のスープで食わされるより、はるかに美味しい。あのスープがいかに食材に対する冒涜だったかよーく分かる。
でもって、プラスアルファとして、からりと火を通した
食材、全部、豆!
けれどこの違い!
同じものを食わされているはずなのに、なんなのだろうこの違い。
「お夕飯は、パンを焼きますから。期待していてくださいね?」
「我々もぜひご
俺たちが歓声を上げるより先に、ものすごい勢いで外野勢が叫んできたのだから、よっぽどこの宿の飯に耐えかねていたようだ。
それよりも、おい、従業員。
なんであんたらまで一緒になって食ってんだよ! しかも本当に涙を流してまで。
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