オデン隊長の秘密っ!

 午前の授業を終えてお昼休み。今日は売れないゲーム会社のソフトの基板付けをして手が痛い……。人件費が安く済むからってウチの高校に頼むか……?


 まあそんな文句、今更言っても遅い。今日はそんな自分へのご褒美に、自販機で飲み物でも買いに行こうとして自販機コーナーにやって来た。



「……お、カキナ」



 4台ある中の一番左端にいたのは、缶詰め隊の隊長、オデン隊長だった。



「隊長。お勤めご苦労様です」


「ああ、ご丁寧に。カキナは何を買いに来たんだ?」


「レモンティーです。隊長は……おでん缶?」



隊長の左手には、秋葉原とかで売っているおでん缶が握りしめてあった。こんな所でも売ってるんだ……。



「好物なんだよ。まあ、オデンって名前だし、だいたい分かるだろうけど……そうだ、今日の放課後暇か?」


「放課後……大丈夫ですけど、何をするんですか?」


「来てからのお楽しみだ。放課後に校門で待ち合わせな。午後の授業も頑張れよ」



 僕に手を向けて、校長室の方へと戻って行った。教室はそっちに無いのに……またモモミ校長先生に用があるのかな?






 放課後。いちごとびわには一緒に帰るのを断って、僕は急いで校門の前へと向かった。


 午後はDVDに傷が無いかチェックさせられるお仕事をしていた。もうこんなの社会勉強にもならないよ!


 校門の前へと辿り着くと、おでん缶をクルクル回しながら待っている隊長が待っていた。



「隊長! すみません、遅くなりました……」


「──俺もさっき来たところだから。今日呼んだのはな……カキナも一応缶詰め隊の助っ人だし、缶詰め隊の事を詳しく知ってもらおうと思ってだな」



 確かに、缶詰め隊の事をよく知らないのは事実である。


 オデン隊長、サバキ副隊長、タラバさんを中心に活躍している隊で、それぞれおでん、鯖、カニを武器にして、学園の平和を守り戦っている……普通の人に話したら高確率で「は?」と言われそうな説明だが、これが缶詰め隊なのである。




「こんな学校の入口なんかで話したら、俺らの秘密も隠せなくなりそうだから、俺のお気に入りの店でじっくり話してやる。さ、着いてきな」


「は、はい!」



 隊長のお気に入りの店……まあなんとなーく予想は出来るんだよねぇ……。







「今日は俺の奢りだ。好きな具を食べな」



 やって来たのはおでん屋さん、#七十__ななじゅう__#というお店だ。全品七十円という冬のコンビニもびっくりなお店らしい。


 この人昼にもおでん食べてたよね? おでんはカロリー低いという話は聞いたことあるけど、連チャンおでんはキツくない?



「決まったか?」


「……いや、まだです。隊長のおすすめとかってあるんですか?」


「そうだな。俺は今餅巾着とロール巻きが好きだから、Jセットの昆布出汁でカラシ中盛りだな。カキナは初来店だから、Cセットの店長セレクトメニューなんかおすすめだぞ」


「確かに色んな種類のおでんが楽しめていいかも……僕これにします! にしても隊長は詳しいですね」


「当たり前だろ、常連客だしよ。店長、JセットとCセット頼む」



「あいよっ!」という掛け声が店内に響く。机の年季、いつの時代だが分からないビールのポスターなどが、昔ながらの雰囲気が漂っていていい。メニューも豊富だけど、セットメニューが多いんだよなここ。店の売りである単品全部七十円という特徴を抑えられてないし。



「……で、おでんに気を取られていて忘れてましたけど、どんな話をしてくれるんですか?」


「そうだな、まずは、俺らがこうして活動しているワケでも話そう……」



お冷を一杯飲み、大きな息を吐いた。



「──あれは、三年前の事だったかな……」





高校三年の夏だった。地面はジリジリ熱気が……。





「ちょっと待ってください!! 回想入る前に!! 三年前に高校生って……隊長って現高校三年生じゃないんですか!?」


「ああ、俺は今年で二十一だ。言ってなかったか?」


「初耳ですよ! ……でも、どうして流れ星高校に? ……失礼かもしれませんけど、留年、とか?」


「ちげーよ。その話を今からするっての……」





 高校三年の夏だった。地面はジリジリし、日陰に居たくなるほどの暑さだった。


 ぶっきらぼうな態度しか出来ない俺に、どこも進路先も就職先も見つからなかった。そうなると、必然的に俺は不良にしかなれなかったんだ。


 毎日毎日喧嘩をする日々。そんな自分を見つめ直そうと、工場裏で考えていた。


 そんな時、たまたま麦わら帽子を被ったモモミ校長が俺の前を通りかかった。



「あれーオデンくん? こんなところでなにしてるの?」


「モモミ校長……こんな俺にも話しかけてくれるんすか?」


「あたりまえでしょー? みんな大事なせーとなんだから! それに、なにか悩んでるんでしょ。 わたしが相談に乗ってあげる!」


「校長……実はな……」



 俺は、今悩んでいる事を全部、モモミ校長に話した。



「そっかー……オデンくんも大変なんだねぇ」


「俺、ずっと喧嘩をしているだけの人生は嫌なんです。でも、何の才能もないしから、就職先も無くて……」


「それだったら、何か才能が見つかるまで、#ウチ__・__#で働いてもいーよ!」


「は、働いてもいいんすか!? でもさ、俺、学校の何の役に立たないかもしれないんすけど……」


「それはやってみなくちゃ分からないでしょー? 才能がまだ開花してないだけけもしれないし! 」


「……俺、やってみます。モモミ校長のお役に立ってみせます!!」



──という事があって、俺はこの高校で働く事になった。結局、未だに才能は見つかってないけどよ……。




 翌年、同級生が進学、就職していく中、俺は学校に残った。……奴もな。


 モモミ校長の下で働き始めた当日、事件が起こった。絵の具製造工場が謎の爆発により大破してしまった。


 何事かと思い、靴も履かずに飛び出してしまった。工場の前に着くと、爆発した工場を背景に、グラサンを掛けた男が立っていた。


 犯人はそう、イチヂクだ。奴も俺と同じく学校に残り、学校の風紀を乱しているのだ。



「イチヂク!! てめぇ何やってるんだよ!! 爆発なんて度が過ぎるだろうが!!」


「これも生徒の未来の為だ。こんな製造業ばかりしていては、高校に行く意味が無い。そんな悩みの解決策考えた結果、一番手っ取り早いのは、#爆破__・__#だと気づいたんだ。そして……ご覧の通りだ」


「この野郎……!! うぉらああああ!!」


「まって!!」



 体が勝手に拳を振り上げた瞬間、急いで駆け付けてきたモモミ校長の声のお陰でハッとし、手が宙で止まった。



「今はイチヂクくんの事より、爆破した工場の火を消す事を優先しなきゃでしょ! ──しつじー!! 消防隊員はまだー!?」


「モモミ様! あと5分で消防隊員が到着するそうです! それまでの間、この消防車を使って火が強まるのを防ぎます!」




 モモミ校長の後に継いで直ぐに来た教頭が、学校にある消防車に乗って現場まで駆けつけてくれた。そういう現実的に非常識な物があるのも、ウチの高校のいい所だ。



「──これ以上、火が強くならないといいな……アッハッハッハ!!」



 高笑いをしながら、どこかへ遠ざかっていく。幾らワルだとは言え、あまりにも非道な行為に、俺は怒りが込み上げてきた。



「……クソがぁぁ!! イチジグゥゥゥゥゥゥ!!!」



 空に向かって叫んだ声も、炎でかき消されてしまった。






 火は無事消化し、生徒達も全員何の怪我もなく済んだ。......だが、これは事の序の口だろう。またイチヂクの野郎が工場を爆破し、平穏を脅かす真似をするかもしれない。


 校長室の椅子で考えていた時、疲れた顔をしたモモミ校長が入って来た。



「オデンくん、今日一日おつかれー......なんて空気じゃないよねぇ。うーん、また工場を壊されたら、授業もできなくなっちゃうもん。何とか阻止しなくちゃいけないんだけど......あ、そーだ!!」



 何か閃いたかと思うと、校長は楽しそうにホワイトボードに字を書き始めた。



「──初任務、組織を結成せよ......?」


「そう! イチジクくんは仲間をすぐにあつめて、どんどん力を付けちゃうと思うの。だからこっちも、いつでもまた対抗できるように仲間をあつめて、組織を作りあげてほしーの!」


「──でもそうしたら俺はまた暴力を振るって、前と変わらねぇっすよ......」


「何も暴力で解決してなんていってないでしょ? だから、人を傷つけない程度のもので戦うの!」



 人を傷つけない程度の物......か。……んな事言っても、そんな武器なんかあんのかよ......あれ、もしかして、「おでん」とか行けるんじゃ……?



 熱々に煮だったおでんを食べさせてやれば、直接的なダメージ派与えない……!!



「校長! 俺……おでんを片手に戦います!!」


「お、おでん……? なんか良く分からないけど、うん! おでんで戦って!」



この日から、俺は拳じゃなく、#おでん__・__#を武器にして戦うことになった。





「──そして、サバキやタラバも入って、今こうやって缶詰め隊が活動しているんだよ。2人が入ってきた後の話もしたいけど……もういい時間だし、また今度だな」


「は、はぁ……貴重な話で面白かったんですけど、隊長その餅巾着何個目です?」


「……ふがぁ?」



 話す事に夢中になっていて、餅巾着を食べた個数すら意識してなかったらしい。お腹ヤバそう。



「……あー食った食った。そろそろ会計でも済ますか……あれ、持ち金こんな少なかったっけな……」


「足りないなら出しましょうか?」


「いいや、奢るって言った相手に払わせる訳には行かねぇだろ。──マジで足りねぇかもしれねぇ……」



 強がって頑なにお金を払わせようとしない隊長。そんな時、ガラガラと店の扉が開いた。そこには、見覚えのある顔が揃っていた。そう、サバキ副隊長にタラバさんだ。



「あれ、隊長もここにいたんすか。ここのおでん、美味いっすからねぇ」


「それに、カキナじゃないか。隊長に奢ってもらうなんて滅多にない事だ。感謝しなよ」


「いや、それが……」



 俺が経緯を話そうとしたその瞬時、隊長は地面に座り、頭を床に付けた。



「……すみません。少しお金を貸していただけないでしょう……本当にすみません……」



 僕は生まれて初めて、高校三年生に二十二歳の男性が、土下座をしてまでお金を貸してもらおうとする姿を目撃してしまった。



 二人は唖然とした顔で隊長を見る。多分2人共「……え?」と思ってることだろう。



「た、隊長がピンチの時は必ず助ける、それが副隊長サバキっすから!」


「そ、そうさ! どんな時も助け合いってもんがあるからさ! 喜んで出しますよ!」


「二人共……本当にありがとう……」



 三人は肩を抱き合わせた。僕はこんな形で肩を抱き合わせる三人を観たくはなかった。



──でも、本当にいいチームだよね、缶詰め隊って。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

だから僕は男の娘じゃないっ! 飛永英斗 @Tobinagaeito

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ