紀州ザクロっ!

放課後、いちごもびわも用事が入っていたから、1人で帰ることにした。



「やあ、カキナくん。いちごちゃんとびわちゃんは一緒じゃないのかい?」



前言撤回。後ろからやって来たメロくんと帰ることになった。



「……うん、そうだよ」


「元気ないじゃないか。何があったんだい?」



めんどくさい事に巻き込まれるって察知したからだよ!! ……なんて本人の前では言えるわけない。



「そうだ。今日ボクの家にエイトダークパワーを持ったお友達が遊びに来るんだ。是非カキナくんにも来て欲しいんだけど、いいかい?」


「……やだって言ったら?」


「それはカキナくんの意思だし、別に強制にするつもりはないよ。でも、少し気にはなってるんじゃない?」


「ま、まあそうだけど。ここから近いの?」


「総合スーパーの近くのアパートに住んでいるんだ。それほど遠くはないでしょ?」



──メロくん以外のエイトダークパワーを持っている人に会うのも、ちょっとは興味ある気がする。いちごやびわも居ないし、こんな機会だからこそ、行ってみた方がいいのかもしれない。



「……一応行くけど、もし闇の力を強化するような真似をしたら、速攻で帰るからね」


「ご承知したよ、カキナくん」



本来は左へ曲がる道を、今日は右へと曲がった。







総合スーパーはよく買い物をしに出かけるが、このアパートへ来るのは初めてだ。外装は綺麗だし、結構いい所に住んでんだな......。



「さあ、入って入って」


「お、お邪魔します......」




 中に入ると、リビングでスマホをいじってる、水色の髪に黄色のメッシュを入れた、如何にも陽キャ感が溢れている男性がいた。




「あ、メロっちお帰り~......ってぇ!? 誰だこの可愛い娘は!! メロっち知らない間に彼女作ったの!?」


「だ、誰が彼女だ!? 僕は男だよ!! 制服も男物だし間違える要素なんて......」


「そうだよ。彼は僕のお友達のカキナくん。男の娘だって事気にしてるから、あまり触れないであげてよ」


「そ、それはソーリーだぜカキナ.....」



 ──なんだ、話せばわかるタイプの人じゃん。いじってこないし、信用できるかも......。



「俺は#紀州__きしゅう__#ザクロ。メロの友達さ、よろしくな。......で、何でカキナを連れてきたんだメロっち?」


「カキナくんも僕たちと同じ、ダークパワーを持った人間だからさ。......でも、彼はダークパワーを極めるつもりはないみたいだから、あくまでも普通の友達ってわけなんだ」


「なるほどな。カキナがそのメロっちが前々から言ってたダークパワーの持ち主なんだ。でも勿体ないなぁ~。折角いも天ビームを打てるんだから、もっと極めてもいい気がするんだけどなぁ~」




 と、特別な力だけどさ、あまり僕はこんな力を持つ事なんか望んでないし......。




「だってさ、この家、どうやって入ったと思う?」




......そう言えば、僕とメロくんが来る前にはこの部屋はもう空いていた。鍵は閉まってる筈だし......。




「まさか、ダークパワー!?」


「ザクロくん、あまりカキナくんを困らせないで。ポストに合鍵が入ってるからそれで開けてもらっただけだよ」


「あーあ、何で言っちゃうのさぁ......ま、俺はそんな犯罪的な事にダークパワーを使おうとなんかしないけど」




 やっぱこの人、信用できないかもしれないわ。陽キャって何考えてんのか本当に分からん......。




「きゃああああ!! 誰か助けてぇぇぇ!!」




 突如、外から悲鳴が聞こえた。




「スーパーからだぜ! 何があったか知らないが、カキナもメロも一緒に助けに行くぞ!」


「ぼ、僕も行くの?」


「当たり前じゃんか! 俺のダークパワーの力、見せてやるからさ!」




 結構不安になりながらも、僕は靴を履き、外に出た。




「あ、鍵はちゃんと閉めないとね」




 ※




 全速力でスーパーに向かい、入口を通り抜けると、覆面マスクを被った男がナイフを持って大声を出していた。 ……強盗かな?



「おらぁ!! ここにいる全員頭を伏せろ!! 俺の言う事聞かないと、この切れ味抜群のアメリカ産でお値段なんと1980円のナイフでトマトみたいにしてやるぞ!!」




 ご丁寧に説明してくれて。そしてピンと来るような来ないような例え。多分アホだわ。




「ああん? そこにいるガキんちょと可愛い娘!! 俺の言う事を聞かねぇか!!」


「嫌だね。言う事を聞いてもらうのはこっちのほうだぜ? ──カキナ、ここからは瞬き禁止だぞ」




 ザクロくんの突然の低い声に、思わず唾をのむ。不思議と何だかカッコよく見えてきた。




「さあ、闇空間を作っちゃうぜ! ダーク・フラッシュ!!」




 その矛盾している言葉を発すると同時に、カシャ、という音と共に、視界は闇に包まれた。闇が徐々に消えると、スマホを持ったザクロくんが目に映った。



「ぐ…… な、なんだこれは?」


「ダーク・フラッシュは、俺のスマホを使って、シャッターが切られると同時に闇空間を作る特別な力。僕が任意した人以外は入室お断りなのさ」




 確かにここに居るのは、僕とメロくん、そして覆面男とザクロくん。タイムセールに押しかけてきた主婦はどこにも見かけない。




「これなら、人を気にせず思う存分に動けるからねぇ」


「な、何が起こってんだか知らねぇが、お前から調理してやる!!」



 クロくん目掛けて突進してきた覆面男。だがザクロくんはその場から動こうともしない。



「うおぉぉぉらあぁぁぁ!!!!」


「危ない!!」



 覆面男はとうとうザクロくんの目の前まで来て、ナイフを振りかざした。思わず目を閉じる。




 恐る恐る目を開けると、何とナイフは空中に突き刺さっている。こ、これは……。



「今、この#闇空間__ダーク・スペース__#の#主人__マスター__#はザクロくん。だから、彼の思う通りに何でも出来ちゃうのさ」



 だ、だからメロくんはさっきから一言も喋らずに見守っていたんだ……。



「な、ななななんで空中にナイフが突き刺さってるんだ……?」


「闇壁。闇の力で俺にしか見えない壁を作ったわけ。じゃあ、この1980円のナイフは危ないから、闇に吸収させて貰うね~」



 空中にあったナイフは、瞬きする間もなく消えた。


覆面男は力におののいて、立ち上がる事すら出来ないようである。



「──どう、カキナ? ダークパワーを極めれば、こんな事も出来るんだぜ? ちゃんとした使い方をすれば、ちょっとした人助けだって出来るのさ。これだけ見ても、極めようと思わないか?」


「……うん、僕はもうダークパワーを極めないって誓ったから……関わりたくないからさ」


「でもよ!!」


「ザクロくん、そこまでにしてよ。嫌なら嫌で良いじゃない。大切なのは、カキナくんの意思に従う事だよ」



 メロくんは僕を庇ってくれた。いつもよりも真剣な表情で。



「……分かったよ。メロっちがそう言うなら仕方ないよな。って、そんな事言ってる場合じゃなかったわ。覆面男にはお仕置をしなきゃ、な?」


「あわわわ……命だけは……」


「命を奪う真似はしないから安心しなって。もしかしたら、死に近い痛みかもしれないけどね? じゃあ、行くよ?」



 ザクロくんは目を閉じ、手のひらを相手に向けた。そして、大きく開眼。



「悪い大人には痛いお仕置だぜ!! くらいなっ!! いも天ビィィィィィィムッッッッ!!!」



……折角いい所まで行ってたのに。いも天ビームで台無しになっちゃったよもう……。



「ぐわあぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」



 覆面男は我々の目でも見えない何か(いも天ビーム)に打たれ、遠くへと吹き飛ばされていった。



「……あー疲れた。悪い人はやっつけたし、帰ろ帰ろ」


「ふ、覆面男はどうなったの?」


「現実世界に戻してやったよ、倒れた状態でな。じゃあ、戻るぜ。……闇よ、我が体に還れ!!」



 闇はザクロくんの体に集まっていき、元の世界に帰ってくる事が出来た。スマホから展開してその闇は自分の身に戻ってくるのか……。


 主婦たちはいきなり倒れている覆面男に対して、騒然としている。そんなのを知らんぷりして、僕達は店を後にした。



「警察とか呼ばないの?」


「あっちで何とかするっしょ。 ダークパワーの存在を広めない為にも、さっさと帰った方がいいじゃん? それと……俺は諦めてないからな、カキナ」


「……そう」



……僕はどうしたらいいんだろう。今回ギャグ小説だっとこと完全に忘れて暴走しちゃったけど、このままだと僕の都合が悪いし……。


闇の力……まだまだ知らない事ばかりだ。

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