第4話

4話


ある所にヒーローになりたい少年がいた。

誰もが目指す子供の頃だけの夢。

少年にとってもそれは同じ。


TVアニメでかっこよく映されたヒーローに感化され、諦めなければいつかなれると信じてやまない普通の少年。

だからこそ少年も、周りと同じようにいつしかヒーローの存在など忘れていく。


いや、あるいはそうじゃなかったのかもしれない。


あの日、冬休みでなく学校があったなら、

あの日、親の忠告を聞いて走るのをやめていれば、


そうであれば少年は、今でもヒーローに憧れていたのかもしれない。

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少女の目は希望に満ちている。

先程までの絶望は今や見る影もない。


なぜなら、


ヒーローが駆けつけてくれたから。

自分と同じくらい小さくて、なのに自分が立ち向かえなかった炎に走っていった。

誰よりも早く駆けつけて、お母さんを助けに来てくれた。


そんな少年をヒーローと呼ばずになんと呼ぼうか。


少女は祈る。

どうかお母さんを助けてくださいと。


少女は思う。

どうか少年も、あの幼いヒーローも、無事に戻って来てくださいと。



女の子に格好つけた少年はというと、少し照れて頭を掻く。

絶対に助ける、そんな決意を元に少年は走った。


ただこの時、少年はあまりに知らなすぎた。


自分の非力さを。

炎の恐怖を。


そして、期待と言う名の最も重い罪を。



近づくにつれて炎は勢いを増した。

肌に感じる熱気は、焦げたような匂いは、

少年に死を身近にさせる。


まずはどうやって入るか。

家の入口は既に燃えていて、通れないので論外。

家の横からはと、走って入れそうな場所を探すも見当たらない。


少年は焦る。このままでは少女の願いを、思いを、踏みにじることになるかもしれない。

母親を助けれないかもしれない。


ヒーローならこんな時どうする?


何度も見てきた。

困難に何度も立ち向かうその姿を。

倒れても立ち上がる、その大きな背中を。


アニメの中のヒーローはかっこよくて、憧れで、何でも解決しちゃう凄い人で、


だから、そんな風になりたいと思った。


「どこに隠れているのかな」


そんな時にふと、場違いな美しい声が、歌が聞こえた。


「甘えん坊の泣き虫さん」


美しい歌声の主は泣いていた。

見た訳では無く、声が震えていたから。


「そんなにわんわん泣いちゃうと」


その歌声を聞いて、心地よくて、ふわふわして、今だけは忘れたいと思った。


「おめめが真っ赤にはれちゃうよ」


この炎も、助けるという思いも、ヒーローになりたいという夢さえも、

何もかも全て。


「お尻は隠しているけれど」


聞く度、胸が熱くなる。

歌声の主が誰なのか知らなくて、聞くのはこれが初めてで、


それなのに。


「可愛いあたまが見えてるよ」


目頭が熱くなる。

訳もなく涙が出る。


「それから…あの子と離れたく、なぃ…」


歌は止まり、聞こえたのは悲痛な叫び。


それは歌声の主の願い。

少女に告げなかった思い。


そんな思いを届けるのが、


僕の憧れの、


ヒーローの役目だ。



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三途の川の番人R うゆ @anatano42

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