第3話

3話


三途の川さんが今言ったことを僕なりにまとめると、

僕はこのままだと確実に死ぬけど、

あなたは僕を生かす方法を知っていると。

つまりはそういう事ですか?


「はい、そういう事です。

どうすればいいのか、知りたいみたいですね。その方法は、


あなたには三途の川の番人になってもらいます。」


ふむふむ、やっぱりそんな感じですよね…?

ん?ば、ばん、にん…

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流れてきた血を見て、友達の血を見て、

何より先に頭に浮かんだのは、いや、何も頭には浮かばなかった。


こんな状況になってもまだ、自分は何も出来ないのか、違う。こんな状況だからこそ、

何も出来ないんだ。


ああ、またか。


どうしようもなく思い出してしまう。

あの日のことを。


寒い冬、辺りは雪で包まれている。

そんな中、町の片隅にある小さな建物は炎に呑まれていた。


少年だった僕は、旅行のさなか、興味津々でその建物へ向かった。

親が引き止めようと叫んで、だけど僕は無視して走った。


「うええええええん!」


近づいていくと、泣いている女の子の声が聞こえた。

近づいて、どうしたの?そう聞くと、


「あのね、おかあさ、んがね、おうちのなか、にいるの!あつくて、いたく、てねにげな、さいっていわれた、から

あと、からね、くるって…だけどこないの!


おかあさんをたすけて!」


涙ながらにそう言う。

少女の言葉は切れ切れで、聞こえずらい。

拙くて、意味が伝わらない。


弱々しくて、自分を守る事すらままならない少女の願いは。


ここに来るまでに出来た傷を治すことか?


違う。


火傷で爛れた肌を治すことか?


違う。


傷だらけで、火傷していて、泣き喚く少女の願いは。


少女は幼いながらに理解していた。


このまま母親が帰って来ないことの意味を。

自分がここまで逃げてこれたことの意味を。


母親を助けて欲しい。

そう言った。


切れ切れで、聞こえずらくて、拙くて、意味が伝わらなくて、


それでも、


思いを乗せたその言葉は。

母親を思うその気持ちは、


もはや1ミリも余すことなく伝わった。

ならば勿論やる事も決まっている。


「お兄ちゃんに任せとけ!」


親指を立ててニッと笑顔をつくり、精一杯の優しい声を掛ける。


少女が安心出来るように。


それはさながら、ヒーローが登場するシーンのような力強さで。

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