受胎&出産! シャーマンリボーン

誘宵

第1話 「アヘ顔親善大使」をかけた戦い

 小宮満こみやみちるは小学五年生。彼女たちの間で流行っているカードゲームがある。

 放課後の公園は、彼女らの闘技場となっていた。

「ボテちん、さっそく始めようか」

「よし、今回は勝つ。勝って満に変なあだ名をつける!」

 満が対戦を申し込んだのは、ボテちん。本名、中出郁美なかいでいくみ

 ボテちんと呼ばれているのは、彼女が先日の勝負で満に負けたためだ。負けたほうは不名誉なあだ名をつけられるというのが、彼女たちの定番の罰ゲームだ。

「わたしが勝ったら、満は明日一日『アへ顔親善大使』ね」

「それは郁美が勝てたらの話でしょ? わたし、負けないよ」

 お互いのデッキを交換してシャッフル。

 シャーマンリボーンでは40枚のメインデッキの他に、10枚の柱デッキも使用する。

 二つのデッキを良くシャッフルしたのち、まず、柱デッキから一枚を柱ゾーンにセットする。

 シャーマンリボーンは、柱によって使用できるモンスターが変わってくる。この段階で、相手のデッキをある程度読むことが可能だ。


 満     郁美

 赤柱55(コスト5 ライフ5) 白柱37(コスト3 ライフ7)


 満の一枚目の柱はコスト、ライフともに5。対する郁美はコストは3と低いがライフは7と多い。柱のコストは、そのまま場に出せるモンスターの強さに直結する。コストが高いほど強いモンスターを出せるが、ライフが少なくなる。ライフは文字通り柱の耐久値だ。これが0になった柱は破壊される。

「郁美、白のデッキに変えたんだ」

「満の速攻に勝つには、ライフの多い柱が多い白の方がいいかなってね」

「身内メタかっこわるーい」

「そ、それだけ本気ってことなんだから! 第一柱のコストが多い方が先攻だったね」

「それじゃあ、満のターン!」

 メインデッキの上から4枚引いて最初の手札にする。先攻にもドローの権利がある。

「ドロー。それじゃあ、このカードを柱に受胎させる」

 ドローの後に、先攻は受胎フェイズがやってくる。手札のカードを自分の魔人柱の下に重ねる。こうすることで、魔人柱はコストが上がり、ライフが下がる。

「メインフェイズ。私がさっき下に重ねたのは術具カードの『双児の祝詞』。これを使用して、デッキの上から2枚をこの術具を使用した魔人柱の下に重ねる。術具カードは一人の魔人柱に対して一枚しか使用できないし、これでターンエンド」


 満

 赤柱55(コスト7 ライフ3)


「郁美のターン。ドロー。まずは柱を追加」

 後攻から、柱デッキの上から一枚をめくり、柱ゾーンに追加できる。郁美が場に出したのは白柱55(コスト5 ライフ5)だった。続けて、受胎フェイズで郁美は手札のカードをそれぞれの柱の下に重ねて受胎させる。

「メインフェイズ。白柱55に受胎させた『小砂利麻呂』の『早産』を発動。このモンスターは、受胎したターンに出産できる」

 出産は受胎したターンに行うことはできないが、子砂利麻呂のようにモンスターによっては受胎したターンにメインフェイズで出産することができる。さらに、モンスターを出産したとき、ご祝儀としてデッキから1枚ドローできる。

 モンスターは縦向きの「待機状態」でバトルゾーンに出る。

「バトルフェイズ! ……あいにく子砂利麻呂はアタックできないモンスター。だからこれでターンエンドね」


 郁美

 白柱37(コスト4 ライフ6)

 白柱55(コスト5 ライフ5)


 子砂利麻呂(白 コスト3 パワー4000 ダメージ1)


 郁美は白のデッキ、そして『石武士』という特徴をもったモンスターでまとめられているようだった。

「満のターン。ドロー、そして出産フェイズ。私の赤柱55のコストは7だから、コスト6以下のモンスターを出産できる。というわけで、双児の祝詞の効果で下に重ねられたカードのうち、コスト6の『孤高のトカゲビト』を出産させる」

 さらに満は柱、赤柱82を追加。受胎フェイズでそれぞれに受胎させる。

「バトルフェイズよ! 孤高のトカゲビトで白柱37へアタック。トカゲビトの効果で1枚ドロー」

 ターンプレイヤーがダメージを与える相手の柱を指定してアタックを宣言。アタックするモンスターを横向きの「行動状態」にする。

 まずはアタックしたモンスターの効果が処理される。その後、相手または自分のモンスターがアタックしたときに誘発する効果が処理されるが、今回は双方なにもない。

「満のアタックは……子砂利麻呂でブロックもしない。通すわ」

 相手のアタックに対して、防御側のプレイヤーはダメージを受けるかブロックするかを選択できる。ブロックしなかった場合、指定された柱が、そのモンスターに書かれたダメージの数だけデッキの上からカードを下に重ねられ、追加で受胎する。孤高のトカゲビトのダメージは1なので、ダメージを受けた白柱37の下に一枚カードを重ねる。

「ターンエンド」


 満

 赤柱55(コスト7 ライフ3)

 赤柱82(コスト9 ライフ1)


 孤高のトカゲビト(赤 コスト6 パワー6000 ダメージ1 行動済)


「郁美のターン。ドローして出産フェイズ。うーん、まだ出産はしないかな」

「出産しないと手札が尽きるよ?」

「わかってるわよ。柱を追加して、受胎フェイズ」

 郁美が追加したのは白柱19だった。そしてそれぞれの柱に受胎させる。

「とはいえ、ライフの多い柱ばかりだと、満も速攻で勝負を仕掛けることも出来ないでしょ?」

「そうだねー。でも、いいの? 私の柱、コスト9だよ?」

 満の場には、コスト9の柱がいる。次のターンの出産フェイズには、コスト8の大型モンスターが出産されるとみていいだろう。しかし、郁美にはそれを止める手段がない状態だった。

「まあ、そうだけど……。でもターンエンド」


 郁美

 白柱37(コスト6 ライフ4)

 白柱55(コスト6 ライフ4)

 白柱19(コスト2 ライフ8)


 子砂利麻呂(白 コスト3 パワー4000 ダメージ1)


「じゃあ、満のターン。ドロー、そして出産フェイズ。赤柱82から、私のエース、『妃龍ケツァルコアトル』を出産!」

「出たわね……!」

 妃龍ケツァルコアトルは満のデッキの看板とも言えるモンスター。満のデッキは、わざとライフの低い柱を採用し、高コスト、高打点のモンスターを素早く出産して勝負をかける。

「さらに、赤柱55から『ドラゴジン・ビーター』を出産するよ。そして柱を追加。受胎フェイズで、赤柱82以外の二人に受胎させる」

 満は赤柱73を追加した。さらに、メインフェイズで赤柱73に受胎した双児の祝詞を使用し、赤柱73にカードを二枚追加する。

「さっき赤柱73に重ねた2枚のうち、『レアリザード』の『早産』を発動。受胎したターンに出産するよ」

 これで、満の場には4体のモンスターが並んだ。

「バトルフェイズ! 開始時に妃龍ケツァルコアトルの効果を発動! 私の場の赤のモンスターのダメージは1アップ! さらに、このモンスターを出産した魔人柱に1ダメージ与えることで、追加でダメージを1アップ!」

「このターンで私の柱を二人破壊するつもりね」

「その通り! まずはドラゴジン・ビーターで白柱55にアタック。このモンスターはもともとダメージが2だから、ダメージは4になってるよ」

「なら、子砂利麻呂でブロックするわ」

 ブロックが宣言されると、バトルしているモンスターのパワーを比べる。ドラゴジン・ビーターはコスト6だが、もともとのダメージが高いためパワーは低コストモンスター並みに設定されている。よって、パワー4000の子砂利麻呂とのバトルでは破壊され、トラッシュへ送られる。

「これで郁美ちゃんの柱を守るモンスターはいなくなったね。レアリザードで白柱55にアタック。ケツァルコアトルの効果でダメージは3だよ!」

「受けるわ」

「続けて、孤高のトカゲビトで白柱55にアタック。1枚ドロー。これも3ダメージを与える!」

「それも受けるしかないわね」

 郁美の白柱55にカードが重ねられ、ライフが0になった。

 ライフが0になったとき、魔人柱は破壊されトラッシュへ送られる、が。

「だけど満、受胎しているカードの中に、『腹破』の効果を持つカードがあれば、この瞬間にコストにかかわらず使用できる!」

 郁美が宣言したのは、赤のカードだった。

「えぇっ!? 郁美ちゃん、白のデッキなのに違う色のカウンターを用意していたの!?」

「そうよ。モンスターは同じ色の柱からしか出産できないけど、『腹破』の効果なら色を問わずに出産できるからね。というわけで、赤のモンスター、万羅竜ディンボーゴを『腹破』で出産!」

 郁美が隠し玉として用意していた万羅竜ディンボーゴは、相手のターンに出産されたとき相手のメスのモンスターの行動を封じる。これにより、満の妃龍ケツァルコアトルはアタックができなくなった。

「うー……。ターンエンド」


 満

 赤柱55(コスト7 ライフ3)

 赤柱82(コスト9 ライフ1)

 赤柱73(コスト8 ライフ2)


 孤高のトカゲビト(赤 コスト6 パワー6000 ダメージ1 行動済)

 レアリザード(赤 コスト2 パワー2000 ダメージ1 行動済)

 妃龍ケツァルコアトル(赤 コスト8 パワー9000 ダメージ2)


 柱デッキは10枚。そのうち3枚がトラッシュへ送られたとき、攻撃側はダイレクトアタックの宣言が可能になり、それを受けると敗北になる。

「郁美のターン。ドロー。出産フェイズで、『玉砂利浪人』を出産するわ」

「コスト5、攻撃できないモンスターを増やして……。ブロッカーにするつもりね」

 白のモンスターは攻撃できないデメリットを持つ代わりに、コストに対してパワーが高めに設定されていた。

 アタッカーに乏しい色ではあるが、カウンターで出産することを前提に他の色を組み込むことで、そのモンスターにアタッカーを担わせることが出来る。郁美のデッキは、白をベースに攻撃的な赤をタッチで追加したデッキだった。

 郁美はさらに白柱46を追加し、三つの柱それぞれに受胎させた。

「カードが仕込まれている柱より、効果でダメージを受けた柱の方がねらい目ね。バトルフェイズ、万羅竜ディンボーゴで赤柱82にアタックするわ!」

「うう、ブロックしたいけど……」

「そう、ディンボーゴはメスのモンスターとのバトルでパワーが追加される。ケツァルコアトルではディンボーゴに勝てない」

「なら、郁美ちゃんのアタックを受けるしかないか」

 ディンボーゴによる2点のダメージを追加され、満の赤柱82は破壊された。

「これでターンエンド。ターンの終わりに、ディンボーゴのコスト以下の柱がない場合、自分は柱全てにダメージを与えるかディンボーゴを破壊する。ここはディンボーゴを維持するわね」

 高コストのモンスターを早出しする戦略にはリスクもある。だが、白はライフの数値が高い柱が多いため、デメリットも苦にならないのだった。


 郁美

 白柱37(コスト7 ライフ3)

 白柱19(コスト4 ライフ6)

 白柱46(コスト6 ライフ4)


 子砂利麻呂(白 コスト3 パワー4000 ダメージ1)

 玉砂利浪人(白 コスト5 パワー6000 ダメージ1)

 万羅竜ディンボーゴ(赤 コスト7 パワー8000 ダメージ2 行動済)


 ケツァルコアトルを出産した柱がいなくなったため、満はケツァルコアトルの追加でダメージを増やす効果を使用できなくなった。それでも、赤のモンスター全体の打点を上げられる効果は、強力なことに変わりはない。

 ただ、郁美のデッキの特性がわかった以上、安易に攻めると『腹破』によるカウンターが飛んでくる。

「……だとしても、ここで攻めないのは私らしくないっ! 満のターン。ドロー、そして出産フェイズ! 処女竜ドラゴ・ヴァルゴを出産!」

「オスのモンスターの行動を制限するモンスター!?」

「そう、ドラゴ・ヴァルゴの効果で、郁美ちゃんのオスの魔物はこの子のアタックしかブロックできない! さらに、ドラゴジン・ビーターを出産するよ」

 この調子で、満は柱を追加した。

「追加した柱は……うっ、ここで赤柱82か」

 ライフの低い柱だった。

「さっきまで調子よさそうだったけど、もう終わり?」

「そんなわけないでしょ! むしろハンデだし! でも、高コストの柱ってことは、こういうことができるよね……」

 受胎フェイズで満はそれぞれの柱に受胎させた。そしてメインフェイズ。

「赤柱82に受胎させた術技を使用。『戦姫の声援』! バトルゾーンのメスのモンスター1体につき、このターン自分のモンスターのダメージを上昇させる。私の場にはケツァルコアトルとドラゴ・ヴァルゴの二体のメスモンスターがいるから、ダメージを2アップ!」

 バトルフェイズに入り、ケツァルコアトルの効果で満のモンスターのダメージはさらにアップした。どのモンスターも、郁美の柱を破壊するには十分なダメージを持っている。

「このターンで郁美ちゃんの柱を2体破壊できれば私の勝ち! 『アへ顔親善大使』ってあだ名は郁美ちゃんに名乗ってもらおうかな!」

「満、もう勝ったつもりでいるの? 私の戦略はもうわかっているでしょう?」

「わかってるけど、ここまで整った私の軍団の前では無力でしょ? それじゃあいくよ、ドラゴジン・ビーターで白柱46にアタック!」

「ダメージは5点ね……受けるわ」

「これで郁美ちゃんの白柱46を破壊!」

「でも、私の柱から『腹破』を使用! 御影太夫を出産!」

「うっ、メスのモンスター。でも、1体出産したくらいじゃ……」

「御影太夫は、自分の場のオスモンスターを回復させて、その場に出たときの効果を発揮させるわ。ディンボーゴを回復させ、ディンボーゴの効果で満のメスのモンスターの動きを封じる!」

「でも、私の場には4ダメージを与えられる孤高のトカゲビトとレアリザードがいる! オスのディンボーゴはドラゴ・ヴァルゴの効果を受けていてブロッカーに出来ないから、私の勝ちだよ!」

「それはどうかしら」

「……なっ!?」

「御影太夫は、自分のオスモンスターを行動済みにすることで回復するわ。つまり、満のアタックを全て止めることができる! このターンでとどめを指すのは不可能よ」

「くぅ……っ。ターンエンド」


 満

 赤柱55(コスト7 ライフ3)

 赤柱82(コスト8 ライフ2)

 赤柱73(コスト8 ライフ2)


 孤高のトカゲビト(赤 コスト6 パワー6000 ダメージ1)

 レアリザード(赤 コスト2 パワー2000 ダメージ1)

 妃龍ケツァルコアトル(赤 コスト8 パワー9000 ダメージ2)

 処女竜ドラゴ・ヴァルゴ(赤 コスト7 パワー5000 ダメージ1)

 ドラゴジン・ビーター(赤 コスト6 パワー3000 ダメージ2 行動済)


 満のターンをしのいだ郁美だったが、満の場はブロックに回せるモンスターが多い。だが、郁美の切り札はすでに仕込まれていた。

「郁美のターン、ドロー。出産フェイズ。満、私の新しい切り札を見せてあげるわ」

「な、なにを産むつもり……?」

「私のバトルゾーンにある『石武士』2体を柱に戻し、柱のライフが0にならなかったとき、このモンスターは出産できる! 花崗将グラン内藤!」

 郁美が出産したのは、コスト8の大型モンスターだった。

「さらに、出産されたときに効果を発動。自分の出産していない柱から、『石武士』を持つモンスターを全て出産する!」

 郁美の白柱19に重ねられている3枚のうち、全てが『石武士』だった。子砂利麻呂、玉砂利浪人、そして足軽石英が出産される。

「だけど郁美ちゃん、いくらアタックできないモンスターを並べたところで……」

「アタック出来るわよ? グラン内藤の効果で、私の『石武士』たちはアタックできない効果を失うからね」

「そ、それでも、このターンに私の柱は破壊しきれないよ!?」

「グラン内藤のテキストを読んでも、そう思える?」

 テキストを確認して、満は悟った。

「柱を追加。受胎フェイズで受胎させて、メインフェイズ、何もせずにこのままバトルフェイズに入るわ! グラン内藤で赤柱82へ攻撃。攻撃したときの効果で、相手のパワー5000以下のモンスターを全て相手の柱一人に戻す!」

 この効果により、満のレアリザード、処女竜ドラゴ・ヴァルゴ、ドラゴジン・ビーターが赤柱55の下に重ねられた。ライフは0となり、破壊されてしまう。

「でも、『腹破』だったら、私のデッキにも入ってるし! 術技カード『業火の祝詞』! 相手のパワー5000以下のモンスター1体を破壊する!」

 子砂利麻呂を破壊し、満はグラン内藤の攻撃をケツァルコアトルでブロックした。パワーは互角のため、双方が破壊される。

「グラン内藤がいなくなったから、郁美ちゃんのモンスターはまた攻撃できなくなったよでしょ?」

「そうね。でも、御影太夫は攻撃出来るわ。そして、御影太夫が攻撃したとき、オスモンスターの足軽石英を行動済にすることで回復!」

「ああっ、そうか回復効果……っ! 孤高のトカゲビトでブロック!」

「パワーはこちらの方が上ね」

 満のトカゲビトも破壊され、ブロッカーがいなくなる。

「続けてディンボーゴで赤柱82へアタック!」

「うう、受けるしかない……!」

 ディンボーゴのダメージ、2点を与えられて満の三人目の柱が破壊される。

「でも! 腹破で術技カード、『爆炎の祝詞』を使用! これで、玉砂利浪人を破壊!」

「だけど打点は足りているわ! 御影太夫でダイレクトアタック!」

「ううっ、通すしかないぃっ!」


「……というわけで、満。私の勝利ね」

「郁美ちゃんさー、完全に私のデッキをメタってきたでしょ?」

「さあ、なんのことやら」

 敗北した満は、納得のいかない表情を浮かべていた。

「ま、とにかく罰ゲームは決定ね。アへ顔親善大使!」

「くぅっ! 次は負けない!」

「いつでも相手になってやるわ、アへ顔親善大使!」

「ああっ、もうそのあだ名で呼ばせないんだから! もう一戦!」

「いいけど、罰ゲームの取り消しはナシよ? アへ顔親善大使?」

「んもーっ!」

 満、もといアへ顔親善大使と郁美は、その日もバトルに明け暮れていた。

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