金は天下を回らず

 お金の問題というのは、一個人の問題から国際経済や世界経済まで、あらゆることに関わってくる。
 金が、銭が、財が、借金が、債務が、言葉や表現は違えど、全て金銭がらみのことだ。
 やや色あせ始めた出来事としては、かつてサブプライムローンショックが起きた。某世界の警察国家においては、現在でも「カードの限度額目いっぱいまで使って、収入はすべて返済に充てる」という人が珍しくないという。
 人の在り方について意見を述べるつもりはないが、たかが個人の銭勘定の不味さや、金遣いの荒さを軽視して放置した、あるいは景気陽動のためと黙認した結果、世界経済を揺るがす大問題に発展したことは、事実だ。
 経済を学ぶもの、経営を学ぶもの、それらを実践するものだけでなく、多くの人が、銭とは何か、債務とは、それが何を引き起こすのか、ごく個人的な出来事が連鎖し、巨大な潮流となり、制御不能になる過程に何があるのかを学ばなければ、危機は繰り返される。研究や反省、対策がなされなければ、国家規模の破綻もいつでもありえる。某隣の大国において、行き過ぎた不動産投資がはじけ大問題になっていることも、まさに銭を軽視した結果であろう。
 巨大な破綻の先にあるのは煮え立った地獄の窯だ。その蓋がひとたび開けば、多くの人が責任の有無、関係の有無に関わらず巻き込まれ、否も応もなく投げ込まれていく。特別な事例などでは決してない。銭を制御できず、操られることになれば、個人も、家族も、企業も、自治体も、国家でさえも、破滅に追い込まれる。
 その重要な示唆の一つ、ケーススタディの一つ、といっては言い過ぎかもしれないが、本作は銭をめぐって人々がどのような思考をし、どのように行動し、そしてどのように破滅していくのかを、赤裸々に血肉を伴って語り、生々しい一人一人の生を、強烈なコントラストとともに描き出している。
 人間とは何か、人生とは何か・・・ということの一面も、鮮やかに映し出したとも言えよう。
 本作は個人的に述べるのであれば、怪作にして奇作、同時にじょにーさんという人が力の限り生きた人生の一面を、荒々しく浮き彫りにした傑作であると、自信をもって言うことができる。