街金じょにーさんの日常
じょにーさん
第1話 プロローグ
20年前・・・・・
ある青果市場の仲卸に勤めていた俺は、上司からの無茶な注文に右往左往してた。
一週間前、専務(仲卸社長の実子)から、突然の発表。明日から一週間、鈴鹿に遊びに行ってくるから、あとよろしくね。
はぁぁぁぁ?普段でも朝5時から夜の7時まで働いて、給料も手取り20万いかないのにまだ働けと?働いてほしいならもっと給料だせや!
などと言えるはずも無く、逆らう度胸も方法もなかった俺はわかりましたと言うほかなかった。
通常業務と専務が休んだ為の追加業務、何時に出社すればいいのか考えた結果、タイムカードの関係上0時となった。0時に出社し、まずはたまねぎのネット詰め(スーパーで売ってる3個入りとか4個入りのやつ)、とりあえず一人で500ネット。それが終わると漬物工場に白菜15kg入りの箱を人力で90ケース。普通に車で片道40分かかるトコを往復1時間(積み下ろしも含む)で帰ってこないと次の便に間に合わない。制限速度50k/mのとこを1.5t近く荷台に載ってるトラックで100k/mで爆走する。いつか捕まるか事故るなと考えつつも、心に余裕もなくただひたすらアクセルを踏んでいた。
なんとか帰ってきて、次はスーパー便だ。膨大な量を広い市場の中から探し出し、4tトラック満載で出発。途中でホテルやレストランに卸す荷物も頼まれ、助手席まで一杯。朝のラッシュ時に出発なので、どう考えても帰ってくるまでに4時間くらいかかりそうな距離と量。しかし2時間半で帰ってこなければ、次の便に間に合わない。
俺はイライラしながらも、なんとか30分オーバーで帰ってくることが出来た。帰ってきた途端に携帯電話が鳴る。肉まんを作ってる取引先からかなりヒステリックな口調で、はよたまねぎ持ってこんかい!仕事が止まるやろ!
すぐ行きます!と俺は応じて、たまねぎの在庫を確認しに走った。在庫を確認すると使える車を探したが、ほとんど出払ってるか、積み込みの最中なので軽トラしか空いてない。たまねぎ10kg入りの箱を100ケース、軽トラに積む。結構載るもんだと感心しながらも出発。ちょっとハンドル切るだけでズリズリと横滑りする軽トラを自分でも感心するくらいの安全運転で配達先に向かった。
配達先が見えだした。しかしそこには工場長が駐車場の入り口で仁王立ち。俺は車を停めて飛び降り、真っ先に工場長に遅れてすんませんと頭を下げたが、頭ごなしにすごい剣幕で怒られた。工場止まったらどうすんねん!さっさと降ろせ!
誰が手伝ってくれるわけでもなく、一人でしかも人力で100ケース降ろし、いそいで会社に帰る為、軽トラでこの速度はちょっとアカンやろという速度で走った。帰り着いて一服しようと思いコーヒーを飲んでると、次は仲卸社長からちょっと事務所にこいと呼び出し。行ってみるとなぜ遅れた?と、これまた鬼のような剣幕で怒られる。俺は、
あんたのセガレが遊びにいくから、こんなことになってんやろが!
っと思うだけで口に出せず、すいませんすいませんと謝ることしか出来なかった。さっさとセリで買ったものを冷蔵庫に引っ張っとけと言われ伝票を渡されたんだが、その分厚さに俺は呆れてしまった。と同時にこの人アホだと思ってしまった。必要ないものまで買うってどうなんかね?嫌がらせか罰ゲームの類なんだろうか?
その時点でもうお昼過ぎにはなってたが、俺は1人でトボトボと荷物を引っ張っている。しかし同僚は昼ごはんを食べて昼寝をしてる始末。誰も手伝ってくれんのかねと途方に暮れてた。なんとか荷物を引っ張って終わると、今度はホーレン草やら小松菜などを袋に入れる作業。注文の量が出来るとメシ食う時間もなく、スーパー第2便を配達。この出発時点ですでに19時半。そこから帰ってくるとまた肉まん作ってる取引先に玉ねぎを配達。シーズン中は24時間体制で作ってるから、夜も持っていかないといけない。積んで卸して帰ってくると23時近く。すでに同僚の姿はなく、事務所も閉められてた俺は自分で事務所を開け、タイムカードを押し帰路についた。しかし帰って寝ると起きる自信は無く、風呂だけ入ってすぐ出社。30分くらい会社のデスクで寝て、そこからまたこの悪夢のような一日が始まるのである。
俺がそんな生活を一週間ほど続けて限界が近づいた時、やっと専務が帰ってきた。0時出勤の23時退社という地獄の日々も終わり、人並みの生活が送れると思いホッとした。しかし、その期待はものの見事に打ち砕かれた。
この一週間というもの、同僚は誰も手伝ってくれなくて、みんな定時の16時に帰っていってた。専務が帰ってきたことにより、手が空いたと考えた同僚は様々な用事を言ってくるようになった。それでも自分の仕事の合間に言いつけられた用事を済ましていると、さらに仕事減ったんやからコレもやっといてと同僚から更に仕事を押し付けられる始末。
プチッ
俺の頭の中でなにかが切れた・・・・
俺は事務所に行き、仲卸社長に辞めますと申し出た。事務所内にいた社員、取引先一同、目がテンになった。社長と専務が素敵なハモリで、何故辞めたいんだ?と聞いてきた。そこで俺はこの一週間であったこと、今日あったこと、事務員の一人と営業課長がW不倫をしてること、経理の事務員が横領してたこと、0時から出て仕事してるのに、給料に反映されるのが5時からってこと、こんな会社で働けるか!っと洗いざらいの不満を社員や取引先の前で全部ブチまけた。
スッキリしたトコで、では失礼します。退職願は後日郵送しますので。そう伝えて俺は会社を出た。後先考えずに行動してしまったことを反省しつつも、まだ若いからなんとかなるべとヘンな自信もあり、なんとなくさわやかな気分で退社した。
自宅に帰りつき、明日からどうするかなぁと思案を巡らしてはみたものの、考えがまとまらず、この一週間で疲れ切った身体を休めようと思ったんだが、とりあえず貯金も少々あるからパチンコへ行った。
それから一ヶ月、俺は自堕落な生活を続けた。パチンコして、家帰ってゲームして、食べたい時に食べたい物を食べて、寝たい時に寝て。パチンコでは生活費くらいは勝ててたので、金銭的な問題はなかったが・・・。
ある日、このままでは社会に取り残されるかもしれないという恐怖感に襲われ、俺は就職情報誌を読み漁った。読み漁ってるうちに、ふと疑問が沸いてきた。
俺、何がやりたいんだっけ?
じっと考えていくうちに一つの答えにたどり着いた。まだ10代の時、飲み屋に勤めていた時のことだ。飲み屋の同僚と鍋をつつきながら、レンタルしてきたビデオを見ていた。大阪ミナミを舞台に闇金を営むってやつ。法の外にいながらも法を駆使して切り取りをしていく姿に、俺はグイグイ引き込まれていった。自身も短絡的だなぁと思ってしまったが、この辺はいくつになってもかわらんなと思ってしまう。
早速金融業にターゲットを絞り、探してはみるもののなかなか条件に見合うとこは見つからなかった。一冊、また一冊と見ていくが、そもそもそんな求職があるかさえ疑問になっていた。が、6冊目にやっと自分の条件に合った一件が見つかった。
「ヤマダファイナンス」
うっし!ここに電話してみようと意気込んで携帯を取り出しかけてみた。ありがとうございます。ヤマダファイナンスでございます。ちょっと艶のある女性の声にちょっと緊張してしまった。就職情報誌を見て電話したのですがと伝えると、担当に代わりますので、少々お待ちくださいと保留音が流れ出した。すぐに担当者らしき人が出て、面接の方ですか?それでは履歴書を持って、明日の14時にいらしてください。
わかりましたと応じて俺は電話を切った。こんなアッサリ面接って決まるもんなのかなぁと疑問はあったが、それはそれ。次の考え事は面接に何を着ていこうかという問題。やはりここはスーツだなぁ。ビシっと決めていかなきゃね。
そんなに何着も持ってないからすぐに決まった。濃紺のスーツなら間違いないだろう。履歴書も下書きをベースに清書した。いろいろ不安はあった。怖いお兄さんトコじゃないだろうか?キツい仕事じゃないだろか?集金業務って何をやるんだろう?場合によっては殴ったり蹴ったりするんだろうか?そんな不安をよそに時間だけは過ぎていく。うつらうつらとしてるうちにその日は眠ってしまった。
ハっと起きてみれば朝10時。あぶねぇ。まずはシャワー浴びて、ヒゲ剃って、テレビをみながら時間が来るのを待つ。時間が近づくにつれ、ドキドキしてきた。スーツ着ての面接なんかしたことないもんなぁ。そして13時になり、頭をセットして家を出た。少し早いような気もするが、遅刻は厳禁だ。社会人としてそれくらいはわかってるつもりだ。
現地に着くには着いたのだが、ここで問題発生。面接してもらう会社の名前をド忘れしてしまった。周りを見渡すと金融業らしき看板が2件。「ヤマダファイナンス」と「○○クレジット」。どっちだっけ?たしかファイナンスって名前にあったから、たぶんこっちだなとめでたく「ヤマダファイナンス」に面接に伺うことになった。
一度両手で自分のホッペタをペチっとはたき、気合を入れる。気合も入ったし、いざ出陣!気合も入れてドアを開けると、事務員らしき女性が一人、従業員らしき男性が一人。第一印象は・・・
怖ぇ・・・
この一言に尽きた。イケメンだが怖ぇぇぇ。すげぇ貫禄だ。恐怖すら覚える顔である。これはやってしまったかと思ったが、目が合った瞬間、身体が固まった。あーいうのを蛇に睨まれた蛙というのだな。身を持って知りました。従業員らしき男性に奥に入ってと言われ、素直に奥に入っていくとそこに応接セットがあり、社長らしき人が座ってた。こっちも怖ぇ。そこ座ってといわれ、面接スタート。元来小心者の俺はこれはヤバいと思いつつ、社長らしき人の質問にビクビクしながら答えた。履歴書見せてと促され渡すと、それを見ながら今まで消費者金融で借りたことはある?と聞かれた。ありませんと応じたが、あまり信用してるような顔はしてなかったな。次に免許証出してと言われて渡した。傍らにあったコンピューターらしき物に俺の免許証を見ながら、何かを打ち込んでる。たぶん名前と生年月日を打ち込んでるのだなと推測し、結果が出るのをしばし待つ。カタカタと音を立てながらスーパーのレシートみたいなやつがそのコンピューターから吐き出される。結果を見ながら何か考えてる様子。3分くらい経っただろうか。恐ろしく長い沈黙の3分間だった。唐突に、面接終わります。採用の場合は金曜日の16時から17時までに電話します。電話が無かったら不採用と思ってください。そう言われて俺は、よろしくお願いしますと頭を下げて会社を出ようとすると、またまた従業員らしき男性と目が合い固まってしまう。何度見ても怖ぇ・・・
なにはともあれ無事面接を終えた俺は喉が異様に乾き、帰り道にあった自販機でコーラを一気飲み。家路につきながら、いろんなことを考えてしまった。会社の印象は怖ぇしかなかったが。いろいろ考えてもしかたないから、結果を待つことにしよう。採用でも不採用でいいじゃないか。とまぁまぁ楽観的になっていた。
そして運命の金曜日。電話の前で正座をして連絡を待つ。こんなに電話の前で待ったのは、高校入試の時以来だわ。17時まであと残り5分というとこまできた。こりゃダメだなっと思ってた時に電話が鳴る。とってみると男性の声で、採用だから月曜日の9時前に出社してね。相手には見えないのに、何度も頭を下げながらありがとうございますっと言ってる自分が少々滑稽に思えた。
月曜日から新しい会社だ。ヤバい会社だったらどうしよう。しかし折角入った会社だから、ベストを尽くそう。そんなことを考えながら週末を過ごした。そして月曜日を迎え、新しい日常が始まる。
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