【短編版】浮気されて始まる、冴えない俺の人生成り上がり譚

水島紗鳥@今どきギャルコミカライズ決定

寝取られて始まる、冴えない俺の人生成り上がり譚

 大学生になれば童貞が捨てられる、そう思っていた時期が俺、綾川春樹あやがわはるきにもありました。

 だが現実は非情で、大学4年生になった今でも俺は童貞のままだ。

 確かに彼女も大学2年生の前期に同じサークルの子と付き合い始めたので、一応できた事にはできた。

 まあ付き合って2ヶ月で同じサークルのチャラそうな先輩と浮気された挙句、全部お前が悪いみたいな事を言われて振られたわけだけどな。

 人生で初めてできた彼女にこっ酷く振られた上にサークルの部長にあることないこと吹き込まれ、サークル内の風紀を乱したという冤罪をでっち上げられ追放されてしまったのだ。

 理不尽な追放に普段は温厚な俺が初めて人前でキレ散らかす事になったが、俺の印象がますます悪くなるだけで撤回される事は無かった。

 それから俺はあいつらのような人間性が最悪なゴミカス供とは違う世界で生きていこうと強く決意し狂ったように勉強を始めた結果、2年生の後期でGPA3.9を達成し成績優秀者として学長から表彰をされる結果を叩き出す。

 元カノやサークルのメンバー達からは不正をしているなどと周りに言いふらされる事になるが、それらは全て無視した。

 その結果だけでは満足する事ができなかった俺は3年生の前期に500点前後だったTOEICの点数を900点まで伸ばした上で短期の海外留学に行き、現地人ともコミュニケーション会話ができるレベルにまで成長する。

 チャラ男にぞっこんな様子の元カノからは二度と留学先から帰ってくるな、そのまま死ねとまで言われたが、全て聞き流した。

 それでもまだ満足出来なかった俺は3年生の後期、大企業のインターンシップに参加しながらジムで日々トレーニングを積み重ね、同世代の中ではかなり鍛え上げた肉体を手に入れる。

 チャラ男からは見せ筋は気持ち悪いなどと馬鹿にされたが、一切相手にしなかった。

 それからしばらく経ったある日、俺の元いたサークルが突然解散したという話を耳にした。

 なんでも違法薬物をメンバーが部室で使用していたところを警察に押さえられ、主要メンバーが全員逮捕されたのだ。

 まあ、サークルのメンバーが違法薬物を使用している事を偶然知った俺が、証拠写真とともに全部警察にタレコミを入れた結果なんだけどね。

 その結果、大手メーカーから内定を得ていたチャラ男も内定取り消しになって逮捕されたらしく、俺は一人で大笑いをしてやった。

 元カノは運良くその場におらず、薬物なども使用した事が無かったため証拠不十分で捕まる事は無かったが、所属しているサークルが起こした不祥事が原因で就職活動に悪影響を与えているらしく、12月現在で内定0のようだ。

 それに対して俺は外資系企業や総合商社、都市銀行、マスコミなどのそうそうたる大企業から内定を獲得していて、色々と迷ったが総合商社に入社する事を決めていた。

 未だに童貞な事には少しコンプレックスを感じているが、最近はかなりモテるようにもなってきたし、卒業するのは時間の問題だろう。

 そんな中、仲良くなった内定者の女の子とSNSでやりとりしていると、元カノからメッセージが来ている事に気付いた。


「あれ、あの糞女からメッセージが来てるじゃん……ブロックされてた気がするんだけど」


 そう、納得いかなかった俺がメッセージで問い詰めると一方的にブロックされていたのだ。

 最初は無視してやろうとも思っていたが、どんな内容か興味本位で覗いてみる事にした。


「えっと、話したい事があるので来週の土曜日会いませんか?」


 俺はメッセージに書かれていた内容を口に出して読んでみたのだが、この短い文面からだと何も伝わってこなかったため、会うかべきかどうか迷う。

 しかし、元カノが今の俺に対して今更何を語る事があるのか非常に気になったため、会う事にした。

 いいよ、どこで話す?――俺がそう返信するとすぐに既読となり、メッセージが返ってきた。


「好きな場所を指定してくれて大丈夫です?……俺に決めろって事か」


 どこを指定するかを迷い始めるが、とあることを思いつく。


「そうだ、超高級レストランに呼び出してやるか。経済力の差を見せつけてやろう!」


 2年生の後期から成績優秀者として表彰されている関係で学費は全額免除となっており、貯金はかなり増えていた。

 更に、これから総合商社で働く事を考えると日本人トップクラスの年収が期待できる。

 超高級レストランで2人分の代金を支払うことなど痛くも痒くも無かった。

 この場所でゆっくり食事でもしながら話しましょう、料金は全部俺が払います――そう返信するとすぐに了解が返ってくる。

 会うのが楽しみだ、そう思いながら俺はレストランに予約の電話を入れた。

 それからあっという間に1週間が経過し、約束の日となる。

 レストランはホテルの最上階にあるため俺がエレベーターでそこへ向かうと既に元カノは到着していたようだ。

 そして俺の姿を見るや否や話しかけてきた。


「ひ、久しぶりだね、春樹。元気だった?」


「ああ、望月もちづきさん。俺はこの通り元気だよ」


 俺の元カノである望月冴子もちづきさえこは服の上からでもわかるレベルに鍛えられた俺の肉体を見て、どうやら驚いているようだ。

 俺をこっ酷く振った時は綾川君と呼んでいたくせに、今更春樹と呼ぶ理由は何なのだろうか。


「こんな所で話すのはあれだし、入ろうか」


 そんな事を思いつつも、俺は望月と店の中へ入る。

 このレストランのコース料理が最低1人6万円と知った望月は震え上がっていたが、気にしない。

 席に座ると10万円のコース料理を注文し、本題に入る。


「それで、俺と話したい事って何?」


「まずは四菱よつびし商事の内定おめでとう。まさか春樹が内の大学初めての内定者だとは思わなかったよ……」


 四菱商事は総合商社のトップであり、就活生から最も人気のある企業の一つだ。

 内の大学からの内定者は今まで存在せず、俺が初めてだったと言う事で周囲を大きく驚かせた。

 そのため学内広報誌などでも俺へのインタビューが大々的に取り上げられ、一躍学内の有名人となっていたのだ。

 その際に捕まらなかった元サークルの連中からは調子に乗るな等の罵詈雑言を浴びせられたが、お前の内定先はどこだと尋ねると全員が黙り込んでしまった。

 全員がサークルの悪評により無い内定である事は想像に難くない。


「ありがとう、話しはそれだけ?」


 今のが本題では無い事は分かっていたが、あえてそう尋ねた。


「……えっとね、春樹。私とやり直さない?あなたと別れた事をずっと後悔していたの」


 予想はしていたが、やはりろくでも無い内容だった。

 俺は今すぐ帰りたくなる気持ちでいっぱいになってくるが、望月は話を続ける。


「そもそも本当は別れたくもなかったんだよ、それもこれも全部あいつに騙されたせいで!」


 あいつとは恐らくチャラ男の事に違いない。

 俺に見せつけるようにイチャイチャしていた癖に、一体何を騙されていたというのだろうか。

 二度と留学先から帰ってくるな、そのまま死ねと言われた事を俺は忘れていないぞ。


「きっと催眠術か何かをかけられていたの、だから春樹に酷い事を言ったのは私の意思じゃないのよ。お願い信じて!」


 目の前の女が何をほざいているのか理解するのもアホらしくなり、俺は卒論の進捗についてを考え始める。

 その間も一人で何かを話していたようだが、全く聞いていなかったため内容は分からない。


「……それで結婚後なんだけど、私は専業主婦になろうと思うの。ご飯を作ってあなたの帰りを待つわ!」


 なるほど、どうやら望月の頭の中では復縁するのは既に決定事項らしく、結婚後の事も考えているようだ。

 これ以上話を続けても仕方がないと思った俺は望月の最も聞きたく無いであろう言葉を吐く。


「残念だけど俺彼女いるよ」


「……えっ?」


 それまで一人で楽しそうに話していた望月はその言葉を聞いた瞬間、表情が凍りつく。

 そう、俺は内定式で知り合った女の子と仲良くなり付き合い始めていたのだ。


「だから悪いけど君と復縁する事はあり得ないんだよね」


「聞き間違いかしら?春樹が私以外を好きになる事は無いわよね!?」


 望月は取り乱し始めるが俺は気にせず言葉をかける。


「もう君には1mmたりとも愛は残ってないから、じゃあさよなら。お金は払っておくから好きなだけ食べてから帰りなよ」


 俺が背を向けて歩き出すと望月は発狂したように大声をあげ、フォークを逆手に握り襲いかかってきた。

 だが俺の鍛え上げた筋肉の前では全てが無意味な事であり、一瞬で返り討ちにする。

 それから望月は周りの従業員から取り押さえられ、警察に連行されていく。

 連行されていく途中も何かを喚いていたようだが、俺は無視しておいた。

 その際に警察官には示談をする気は一切無いと忘れずに伝えておく。

 これで望月は前科持ちとなり就職活動はますます厳しくなるだろうが、彼女の自業自得なのだから仕方のない事だろう。

 ようやく警察から解放された俺は彼女にメッセージを送る。

 内容はクリスマスのデートについてだ。

 あんなろくでも無い女の事は忘れて最愛の彼女とのデートを楽しもう、俺の楽しい人生はこれからなのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【短編版】浮気されて始まる、冴えない俺の人生成り上がり譚 水島紗鳥@今どきギャルコミカライズ決定 @Ash3104

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ