第2話:雉の思惑

 雉の集落を鬼が襲う。

 勇猛果敢な雉の雄は、例え相手が強大な鬼であろうと、全く恐れる事なく戦う。

 鬼に比べればとても小さく力も弱い雉だが、空を飛べるという機動力を生かして、鬼を翻弄している。


 だが基本頭を使う事が苦手な雉の雄達は、周囲に気を配る事なく戦ってしまった。

 特に若衆頭の勇三郎は、一心不乱に戦った。

 憧れの雌、麗子に強さを誇示して求婚を受けてもらうべく脇目も振らずに戦った。

 だがその身勝手な戦い方は、鬼を傷つけると同時に、村を破壊する結果になった。


 決定的だったのは、勇三郎が鬼の目を爪で攻撃した時に、鬼が産卵のための屋敷に倒れ込み破壊してしまった事だった。

 大切な卵を破壊された雉の雌達は勇三郎を増悪したが、鳥頭の勇三郎は何も気がつかなかった。


「麗子さん、どうか僕と結婚してください」


「嫌よ、絶対に嫌よ。

貴男のような甲斐性無と結婚する気はないわ」


「そんな馬鹿な!

僕は鬼が村を襲った時に一番に戦いました。

麗子さんを護るために命懸けで戦いました。

この村一番の勇敢な戦士だと称えられています。

それなのに、甲斐性無だと言われて振られる理由が分かりません」


「そうね、確かに一番に鬼に突っ込んで行ったわね。

でもそれは単なる蛮勇で、雄の独り善がりよ。

雌の願っている強さではないわ」


「麗子さんの望まれる雄の強さは何なのですか。

僕は麗子さんに望まれる雄になってみせます。

ですから、どうか、理想を教えてください」


「安全に卵を産めてこどもを育てられる事よ。

 勇三郎は鬼に突っ込んで行くだけで、村の事を何も考えていなかったわ。

 雄と鬼たち温かっている間に、多くの卵が潰されてしまったのよ!

 私達雌の気持ちも考えなさい!

 卵や雛を護れない雄など不要よ」


「分かりました、何としても卵と雛を護る方法を考えますから、どうか僕と結婚してください」


「寝言は寝てから言いなさい。

先に卵と雛を護ってから求婚しなさい!」


 憧れの雌、麗子に厳しく叱責された勇三郎は、必死で卵と雛を護る方法を考えるのだが、鳥頭では何の方法も思い浮かべる事ができなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

小説教室の課題 掌編小説 克全 @dokatu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ