13話 悪天候は波乱の予感
翌朝、俺はいつもより少し早い時間に起きると、早々に学校へと行く準備を済ませた。
「おはようございます。お兄様」
「あぁ、おはよう」
リビングに降りてきた俺に、詩織が笑顔を向けながらそう言った。
まだ起きたばかりだろうに、黒の長い髪が既にまとまっていた。
そして、俺はあの事にについて聞いた。
「今日もか?」
「はい」
その返事を聞くと、俺は朝食の準備は詩織に任せて、ある所へと向かった。
それは勿論詩織の部屋だ。
「おい、起きろ」
俺はいまだ起きてこないやつに向かってそう言った。
「んん…あと一時間だけ……」
「遅刻するわ」
寝言ではなく確信犯である結衣の言葉に、適格に突っ込んだ。
「お・き・ろ」
「……」
俺の言葉をついに無視し始める結衣。
そうなのだ。結衣は、外ではお姉さんぶっている、頼れる感じの美少女だが、実際は寝起きも悪く、できないことが多いポンコツなのだ。
例えば昨日料理を詩織と俺の二人でしたのも、結衣が料理をすると大惨事になるからだ。
とまぁ、このように天は二物を与えずと言うのは、少なからず間違ってはいないのだ。
「で、起きないなら置いて行くからな」
「イヤだ~~」
俺が見捨てようとすると、俺の服の裾を引っ張ってそんな甘えた声で呼び止める。
まぁなんとも可愛らしいのだが、それは初めの頃だけだった。
中学の時は、こじらせていた時期でもこんな風に甘えられたので、俺のこと好きなんじゃね?なんて思っていたが、今では違う。
こいつは誰にでもこんな感じなのだ。実際修学旅行の時にも朝こんな感じだったので女子が騒いでいたのを覚えている。
「離せ、俺も遅刻するだろ」
「え~いいじゃん。別に一回ぐらい~」
「はぁ…」
永遠と寝ぼけている結衣に、俺は溜息をついた。
そして、いつも通りアレを行うことにした。
「そう言えば、この前聞いた話なんだけど、3丁目の公園のトイレで、夜中になると……」
「はい!起きました!だからやめてください!」
俺が話始めると、急に立ち上がった結衣が、涙目になりながらプルプル震えてそう言った。
俺はそれを見るとすぐに話すのをやめてあげた。
「よし。じゃぁ飯にしようか」
「うん」
そうして、俺は結衣を連れてリビングへと降りた。
そう、結衣の苦手なものは朝もそうだが、何よりも『怖い話』なのだ。
だから、意識が少しでもあるときに怖い話を始めると、結衣はすぐに覚醒し、耳をふさいだり大声を出したりしてとにかく聞こえないようにするのだ。
まぁでも、そうして結衣を連れていくことに成功した俺は、支度を終え先に朝食をとっていた詩織と食卓を囲んだ。
「それでは行ってきます。お兄様」
先に食べていたので、俺たちよりも早く食べ終えた詩織は、鞄を手に持ち丁寧にお辞儀をした。
「おう。あ、そうだ。今日は雨らしいから傘を持って行けよ」
「分かりました。ありがとうございます、お兄様」
俺の言葉を聞き、もう一度丁寧にお辞儀をした詩織は、傘を持って家を出た。
「俺たちもそろそろ行くか」
「そうだね。でも、私は傘を家に取りに帰るから際に行ってて」
「ん、了解」
そうして、俺たちはバラバラに家を出た。
「やっぱり雨が降って来たな」
放課後になり、昇降口を出たところで俺はそう呟いた。
「天気予報も当たるときもあるのね」
「いや、半分以上は当たってるだろ」
「言われてみればそうね」
傘をさし、二人で並んで帰りながら夢がそう言った。
「結局、人は目立つことしか覚えていないからな。雨が降ると言って降らなかったときや、降らないと言って振った時とかな。だから、晴れると言って晴れたときなんかは特に気にならないんだよ」
「それは確かにそうね」
「だろ?」
俺は粛々とそう話した。
「てか、千尋って勉強的じゃなくて、普通に頭いいわよね」
「そうか?」
「うん。結構そう思う」
夢はそう言うが、俺はいまいちピンとこなかった。
だって、本当に賢いやつに言われると、馬鹿にされてるような感じだからだ。
「あ、そうだ。悪いけど明日も朝はいいか?」
「え、まぁいいけど…。そもそもの目的の校内に広めるってのは達成できたから」
「悪いな。後二日ぐらいだと思うから」
「別に本当に付き合ってるわけじゃないんだから。前にも行ったけど、千尋のプライベートは好きにして」
俺はそう言われてハッとなった。
そうだ。俺たちは別に本当の恋人ではない。あくまで夢に使われているだけの関係。別に俺から望んでなった関係ではないのだ。
どうしてそんな関係で、気を遣っていたのだろうか。
やっぱり、あのノートのせいなのだろうか。
「それじゃ、また明日ね」
俺がそんなことを考えているうちに、気が付けば駅まで来ていた。
「お、おう。また明日」
俺はそう返して、自分の家へと向かった。
ただ、何だろうか。
この少しズキズキする胸の痛みは。
「ただいま…」
「お帰り~千尋」
「お帰りなさいませ、お兄様」
俺が帰ってくると、既に詩織と結衣は帰っていた。
「早いな、詩織」
「はい。本日は部活動がお休みでしたので」
「なるほどな」
詩織は部活動にかなり真剣に取り組んでいるのだが、部活動自体は別にブラックなわけではなく、週に二回、平日と休日にオフがあるらしい。
ちなみに部活は剣道部だ。
「お兄様。ちょうど今夕食の準備ができたところなんです。席に着いていただけますか?」
「悪いな、一人で作ってもらって」
「いえ、暇を持て余しておりましたので。結衣さんもよろしいでしょうか?」
「ありがとう、詩織ちゃん」
「じゃ、食べるか」
そうして、今日もまた3人そろっていただきますをして食べた。
言わずもがな美味だった。
その後、風呂に入ってその他色々こなさなくてはいけないことをした後、俺たちは就寝することにした。
「それではお兄様、また明日。お休みなさいませ」
「千尋お休み~」
「あぁ、おやすみ」
そうして俺は自室のベッドへとダイブした。
「しかし、雨止まないな…」
俺は窓に打ち付ける雨の音に反応してそんな言葉を放った。
そして、そのまま眠りへと
━ゴソッ、ゴソゴソッ
「ん?」
夜中、何かの物音でふと目が覚めた俺は、眠い目をこすりながら辺りを見回した。
しかし、誰かがいる気配もなく、気のせいだったのかと思い、もう一度眠りにつこうとしたその時だった。
━ゴロゴロ…
「ヒッ!!」
「え?」
雷が鳴り、それと同時に俺の真横から悲鳴が聞こえた。
俺は恐る恐るそちらの方向へと顔を向ける。
すると、それは結衣だった。
━ゴロゴロ!
「キャッ!」
「ん?」
声を掛けようとすると、結衣がもう一度鳴った雷に驚いて俺にしがみついてくる。
そのおかげで、俺に腕に結衣の大きな胸が押し付けられる。
柔らかい感触がダイレクトに伝わってくるのだが、今はこの状況に戸惑い過ぎてあまり気にできなかった。
「何でいるんだよ、結衣」
「だ、だって~。雷怖いんだもん…」
「だもんって……」
俺は溜息をつきつつ、結衣をはがした。
「雷怖いからって、何で俺のベッドにもぐりこんでんだよ」
「昔の癖で…」
「あぁー」
そう言われて、俺の脳裏に昔の情景が浮かぶ。
小学生の時、今日と同じように泊まりに来ていた結衣が、雷に怯えて俺と一緒に寝た日の情景が。
「ったく、今は詩織がいるだろ」
「そうだね。言われてみれば確かに」
「はぁ…」
俺はまた溜息をついた。
「ほら、サッサと帰りな」
━ゴロゴロゴロ!
「ヤッ!」
俺がそう言った瞬間に雷が鳴り、また結衣がしがみついてくる。
今度は俺が起き上がっていたため、腰辺りに二つの柔らかな感触がはっきりと分かった。
「お、おい。ヤじゃねぇよ」
俺は慌ててそう言いながら結衣をはがす。
「お願い、千尋。ここで寝させて…」
結衣は、今にも泣きそうな目で懇願してくる。
「いや、でも……」
俺はさすがに、高校生にもなって男女が一緒に寝るのは良くないと思い、断りを入れた。
しかし、結衣はしつこくお願いしてくる。
「ね、お願い。このままだと私寝れないの。お願い、千尋…」
「ん……えい!もうどうなっても知らないからな!」
「ありがとう、ちひ……」
「寝るのはえ~」
俺が了承すると、結衣は一瞬で寝てしまった。
俺はそんな結衣を横目に、この状況に疑問を持ちつつ、もう考えるのをやめて寝ることにした。
俺の弱みを握っている偽の恋人は学年一の美少女なのだが、付き合いだしてから何故か周りの女友達が積極的になってきたんだが!? 天川希望 @Hazukin
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