注文の多いお客さん
井上みなと
第1話 注文の多いお客さん
不良ものの人気アニメ。
それにこんな注意書きがついた。
「この物語はフィクションです。実在する人物や団体とは関係ありません。本作品の設定にあるような未成年の喫煙、暴走行為、暴力等は法律で禁じられています」
時代と言うべきか。
“不良もの”でも、このような注意書きがつくようになった。
だが、これに注文を付ける人が出た。
「喫煙や暴走行為が法律で禁じられていると表示するのに、毎回、殺人が起こるドラマにその注意書きがないのはおかしいのではないか」
つまり他の作品にもつけろというのである。
そのため、刑事ものやサスペンスにはこのような注意書きがつくようになった。
「この物語はフィクションです。実在する人物や団体とは関係ありません。本作品で起きるような殺人や暴行などの行為は法律で禁じられています」
これで落ち着くかと思いきや、刑事ものに絡んで、司法や医療ものに物言いがついた。
「おかしいんですよ。本来は検事はあのような行為はしません」
「薬剤師があそこまで言うのは、本来の病院ではないことです」
この件については実際に病院で患者からあそこまで出来ると思われて困ってるという意見があり、注意書きが付くことになった。
「この物語はフィクションです。実在する人物や団体とは関係ありません。本作品の設定では職務を越える行動がありますが、本来はこのような行為は越権行為として認められておりません」
話はまた法律違反の話に戻り、喫煙や殺人以外の行為はいいのかと問題になった。
「不倫するドラマは野放しでいいの? 喫煙や暴走行為を真似する人がいるかもしれないというなら、それこそ殺人よりも真似をする人がいるんじゃないの?」
恋愛ドラマの中には毎年1つは不倫ドラマがある。
新たに作られた不倫系の恋愛ドラマには注釈がつけられた。
「この物語はフィクションです。実在する人物や団体とは関係ありません。本作品の設定にあるような不貞行為は貞操義務違反行為として民法第770条の離婚事由となります」
妙に細かいのはSNS上で不倫は法律違反かということで揉めたかららしい。
このあたりで鎮静化するかと思われたが、現代もの以外にも飛び火した。
「現代もの以外はいいの? 真似をするというなら、異世界ファンタジーだって誰かが真似するかもしれないじゃない」
ファンタジーは別世界である。法律も同じではない。
そもそも現実には魔法もない、エルフなどの異種族もいない。
それでも“真似をしたらどうする”と言われてしまうと困るので、付けることになった。
「この物語はフィクションです。実在する人物や団体とは関係ありません。本作品の中で起きるような殺人(人以外も含む)、暴力等は法律で禁じられています」
ファンタジー世界の法律ってなんだと思わないでもないが、見てる人は現代の法律下で生きている人間なのだからということらしい。
さらに冗談交じりでSNSでありそうだと思われた注意書きまでついた。
「この物語はフィクションです。実在する人物や団体とは関係ありません。事故などにより死亡しても、異世界に行けることはありません。この作品は自殺教唆をするものではありません」
作品の注意書きが終わると、今度は作品内の台詞まで注文が付くようになった。
例えば乙女系の作品にはこんな注意が付く。
「俺のモノになれよ。(※女性は物ではありません。また、交際により、男性の所有となるわけではありません。当作品はそのような意図はありません)」
少年誌にも注意書きが付いた。
「あははー! こういうの本気にしちゃったんだ♪(※いじりはエスカレートするといじめに繋がります。女性から男性への行為だから許されるわけではありません。好きだからいじめちゃうというのは現実では認められません。絶対にしないでください)」
その内、台詞よりも長い注意書きが付くようになり、作品に入り込めないという声が増えた。
出来るだけ注意書きのいらない作品設定、問題にならない台詞・キャラクターの行動がメインになり、道徳的で平和な作品のみが作られるようになった。
それから五年後。
あるアジア系の作品が大人気になった。
「これすっごい面白いよな!!」
「最高だよ! 暴力と色気にあふれてるぜ!!」
日本とは違い、規制のうるさくない海外作品に若い人は夢中になったのだった。
注文の多いお客さん 井上みなと @inoueminato
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