外出任務―1 冠日
ルベラの襲撃前に聞こえた音は、万一のために仕掛けておいた
ルベラがまたあんなに暴れるとは思わなかった。続けて呟かれた言い訳じみた言葉に、ベッド端の落下防止柵を握りしめ、睨み付ける目になったが、そんな敵意も長くは持たなかった。異様に腹が減っていたからだ。どれくらいの間寝ていたのだろうか、突き上げる食欲に動かされるまま、ベッドに付属されたテーブルの上の料理――グロテスクな見た目だが、味は悪くない――を口に運ぶ。
縮こまったまま申し訳なさそうに黙り込んだ
僅かな記憶が手繰られる。ナイフ。はじめから能力を使って攻撃してくるつもりなら、武器など余計なはずで、実際に彼女が部屋を壊す程度の威力の攻撃、二発目を撃ち放ったのは、顔を真っ赤にして激高した後だった。仮に一発目がナイフでなく能力による攻撃だったら、部屋から逃げ出そうとするときに直撃したのが威力の向上した二発目になり、自分は生きていなかっただろう。
あの頭のおかしい少女の心づもりなど分からないが、初め、彼女はそこまで力を濫用するつもりもなかったのが、何らかの理由で激怒して前後不覚に陥り、あのような派手な破壊をやらかした――というのはありえる話だと思えた。指を出されたとき、自分は明らかに何らかの地雷を踏んでいた。栫のこぼした、またあんなに暴れると思わなかった、は彼の認識として不自然ではないのかもしれない。
「もしかして、早速もっと食べて喋った方がいいって言ってくれたの?」
――が、ナイフで襲われた時点で話が違う。現状として
「言うわけないでしょ」
約束の反故について、そして、少女に関する無理難題について。持てる語彙を全て用いてコテンパンに抗議すると、赤髪で長身の女性は少し考えるような仕草ののち、信じられないくらいしおしおになって、「この件はすみませんでした、取り消します……」と消え入りそうな声で謝り、部屋から出ていった。
「すごいよ、あんなに凹んでるの久しぶりに見た――ごめん……」
元々自分は怒りを保つのが得意ではないのかもしれない。肩をポンポン叩いてきた栫のキラキラした目が、あっと伏せられるのが面白くて、
・・・・・
それから四日が経った。完快の後、朝夕の食事運びと掃除が、正式にここでの自分の役目になった。恐れていたルベラの再襲撃はなく、むしろ彼女は、顔を合わせる度、嫌悪するように立ち去った。やはりあのとき、何か彼女のトラウマを刺激してしまったようで、痩せぎすの少女が笑顔を向けてくることはあれから二度となかった。
――注意を向けよ。
本日は八月十四日、
心地よい揺れのあと、通信で目を覚ます。一日目は結界が不十分で、二日目はルベラが階層ごと内から破壊してしまったから酷い目に遭ったが、場所を違えなければ、
折り返し式の階段を降りながら、食堂へ向かう。途中で眼前に現れたドレスの女性と合流し、十四層の扉を開ける。
「今日、私行かなくていいわよね」
「何を言ってるんだ。任務に名義がある人が出るのは当たり前だろう。大体、良く見もせずに契約書に自分の名前書いたり印を押したりするから悪いんだ」
「分かったわよ。うっさいわね。言ってみただけよ」
メーゼ、栫、ジア、エッカーナ。メンバーは既に揃っていて、いつも通り食事は始まり、終わった。そのままお盆を持って南棟の能力者の元へ向かおうとするが、メーゼに肩を掴まれる。
「それ栫に任せて、あんたも外出るのよ」
……今朝の通信。
どうやら、要員には自分も含まれていたらしい。
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