サツキ

春風月葉

サツキ

 その日の授業は道徳の時間で、先生は真面目そうな顔でいじめがいけないことだと話していた。先生に指されて、いつも僕の消しゴムを隠したり、ぶったりしてくるいじめっ子のサッちゃんが元気な返事をして立ち上がった。

 サッちゃんは、いじめは良くないことだから見つけたら周りのみんなが止めないといけないと思いますなんて薄っぺらい言葉を並べた。先生はその通りですねと言い、周りの子たちはパチパチと拍手をした。

 僕はそれにムッとなって手を挙げた。先生が僕の名前を呼ぶ。それを確認して立ち上がると僕はいじめが良くないならどうしてサッちゃんは僕をいじめるんですかと聞いた。教室はシンと静かになった。

 最初に口を開いたのはサッちゃんだった。サッちゃんは目から大粒の涙を流しながら私はいじめなんてしてないのにひどいと言った。僕はカチンとなったけどそれを堪えて唇を噛み締めながら黙っていた。それを見ていた先生が呆れた顔で僕に言った。人を傷つけるようなことを言ってはいけません。

 僕はやっと気がついた。先生もみんなも気がついていたんだと。それなのに誰もいじめを止めてくれないんだ。口では悪いと言っていたのに、みんなは嘘つきだった。

 気が付けば僕は手に持った教科書を破いて先生に投げつけていた。また教室の中は静かになった。しばらくするとみんなはお互いに顔を見合わせてクスクスと笑いはじめた。先生は怒ったような悲しんだような顔をして僕を見ている。サッちゃんはもうすっかり泣き止んでいた。

 僕の顔は真っ赤になった。体中が火傷でもしたみたいに熱くなっていた。僕はうわぁと叫んで自分の椅子を教室の窓にぶつけた。窓ガラスは割れ、教室に外の空気が入り込む。呆気に取られているみんなを無視して僕は割れた窓から勢いよく飛び出した。

 グシャ…。

 目が覚めると真っ白な部屋のベッドの上にいた。薬の匂いがするけれど保健室よりも広いから病院だとわかった。身体を起こそうとすると全身が痛んだ。横たわったままあたりを見回りと窓際に花が置かれていた。僕は花から目を逸らした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

サツキ 春風月葉 @HarukazeTsukiha

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る