第2話 山下恵美

「わ〜ん、エミ〜

あたし死にた〜い」

「ったく、今日はどうしたのよ」

「あのね、あのね、真司くんがね、また別の女と歩いてたの。

あれ絶対浮気よね。

あたしもうどうしたらいいか」

章子は目の前に置かれたソーダには目も暮れず一気に話した。

こいつは中川章子。高校の頃に妙に懐かれて、大学生になった今でも何かあると呼び出されては一方的に何かくっちゃべっていくのだ。

「章子ちょっといいかな?」

「なに?」

「真司くんて志村真司くんだよね」

「そうだけど?」

はぁ〜〜。

「理工学部所属で教習所でたまたま一緒になったっていう」

「そう」

「絶賛片想い中の志村くんだよね」

「そうだけど!」

「だったら浮気もクソも無いでしょうが」

「だってぇ〜」

はぁ、疲れる。あたしは目の前にあるソーダのストローに口をつけた。

少し苦味のある炭酸水が喉を刺激する。

章子はまだいろいろ言ってるがぜんっぜん頭に入ってこない。まあこいつもあたしにアドバイスなんて期待してないだろうしね。

はぁ〜、砂糖が恋しい。。


世界人口が100億を超えた辺りからいろいろおかしくなって来たのよね。あたしはまだ小学校に上がったばかりの頃だったからよく分かって無かったけど各地で戦争が起こったり暴動が起こったり。

理由は単純。食料も含めた資源不足。

1900年頃には16億程だった人口が1990年には50億、そして今じゃ120億だよ。そりゃいろいろ足りなくなるわ。

食料配給制が始まって10年。それもほとんどが必要最低限のカロリーキューブのみときてるから嫌になっちゃうわよ。

あ〜中学入学祝いに食べた焼き肉をもう一度食べたい。これがあたしの一生の願い。

え、ソーダ?これなら水感覚で飲めるのよ。

ただの炭酸水。これならあたしのバイト代一時間分位で飲めちゃう。


「ちょっとぉ話し聞いてる?」

「あ〜聞いてる聞いてる、で?」

話は志村くんの事から自分のモテ自慢へ、そして今まで落としたオトコの自慢話へと続いていた・・様な気がする。

聞いちゃいなかったけど。


そして5年前、とうとうあの法律が発令されたんだ。人口抑制法、通称殺人許可法。

要するに許可証さえ在れば人を殺しても良いですよって法律だ。

もちろんいろいろ制限はある。

免許更新は5年間。その間に殺して良いのは一人だけ。二人目を殺しちゃうと殺人罪で死刑。

15歳未満の子は殺しちゃいけない。

免許証を取った者はネックガード型のライセンスを首筋に装着しなければならない。等々。

ま免許さえあれば気に入らない奴はぶっ殺しちゃって良い訳だ。凄い時代だよね〜。


「ま〜たどっか見てる!本当に聞いてる?」

「はいはい、聞いてるってば」

まだ後30分は続くんだろうな〜。

あたしはまた心を無にした。


「恵美、こんなとこに居たのか」

「ひゃっ?」

不意に声をかけられ思わず変な声が出ちゃった。

「あ、英治くん」

「講義始まんぞ。教室のいつもんとこで待ってるからな」

「うん分かった。すぐ行く」


「え、今の安西くんじゃない?」

「そうだよ」

「何で恵美が首席の安西くんと仲良さそうに話てんのよ」

「えと・・ね。

今、彼と付き合ってんだ。みんなにはあまり言って無かったけどね」

「え〜〜〜っ!

なんで言ってくれなかったのよ!

安西くんと比べたら志村なんて月とカメムシじゃん」

おいおい呼び捨てかよ。

「いいな〜〜あたしも安西くんがいいな〜。

エミが付き合えるなあたしにもワンチャンあるんじゃない?」

何言ってんだ、コイツ。

「あたしの方が美人だしスタイルいいし

身長的にも釣り合いとれると思うんだ〜」

獲物を狙う目をした章子は舌舐めずりをした。


ん〜こいつぶっ殺しちゃおうかな〜。

あたしは軽くネックガードに触れた。

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