マーダーライセンス

ノーバディ

第1話 志村真司

「よし、筆記試験合格っと。

後は卒検だけだな。実技苦手なんだよな〜」

俺は2週間の免許合宿を終え試験に望んでいた。

専用の作業着に着替えると待合室で順番を待つ。今日の受験者は30人程だ。

「はい、最終試験は実際に生きてる人を殺して貰いますからね〜。

あ、人と言ってもクスリで運動能力を人と同程度に抑えた実験動物ですから安心してくださいね。

制限時間は20分。必要以上に傷つけたり苦しめたりしてはいけませんよ。

では1番から5番までの方、イヤホンをオンにして部屋に入って「下さいね〜」

試験官の姉ちゃん25歳位か?めっちゃスタイル良いじゃん。喋り方も俺好み。

試験終わったら声かけようかな。

俺の番号は7番、ラッキーセブンだ。

運動神経には自信がある、仮免は一発合格だったしまず落ちる事は無いだろう。


「はい、6番から10番の方〜

中に入って下さいね〜」

俺はゆっくりドアノブを回した。

中にはテレビ?とテーブルが一つ。そして椅子に座ってテレビを観てる猿が一匹いた。

「スタートの合図があってから始めて下さいね〜フライングはダメですよ〜」

イヤホンから声が聞こえる。イヤホンは猿に聞こえない為か。


「はい、スタート」

気付かれない様に近づき持ってるナイフで頸動脈を掻き切る。後は断末魔の大暴れに注意して逃げ回るだけ。

講義で色んなパターンを見て来たしドール(機械人形)相手に何度もやった。

練習通りにやればなんの問題も無い。簡単な作業だ。


まず俺はゆっくり猿を観察した。

6畳程の狭い部屋。テーブルの上には猿の好物であろうリンゴとバナナがバスケットに入れてある。これに見向きもしないって事はそんなに腹は減ってないんだろう。

俺が部屋に入っても猿は見向きもせずテレビを観てる。人間に対する警戒心がないのか?

俺はゆっくり近づいてみる。

「きっ?」

猿はこっちを振り向いた『なんだ、飼育員の兄さんじゃないのか』とでも言いたげな顔でまたテレビを見始める。

殺気とは息遣いだ。呼吸が荒くならないよう気をつけながら一歩ずつ近づいていく。

猿の背後に立った時彼はもう一度面倒くさそうに振り向いた。

俺は左手で彼の頭を押さえるつつ首筋に当てたアーミーナイフを思いっきり引いた。

天井まで届く鮮血。教習で見た血飛沫は誇張でも何でもなくリアルだった。

『え?何で?』

とでも言いたげな目で彼はこっちを見た。

一歩、一歩とこっちに近づいてくる。その目は『助けて、なにか変なんだ』とでも言いたげだった。

「ごめんね、君を殺したのは僕なんだ」

俺は呟いた。

何の為の謝罪?

何の感情?

よく分からない。ただ無意識に口から出た言葉だった。


5分程で彼は完全に動かなくなった。

更に5分後、俺は彼の鼓動が止まっていらことを確認した後部屋を出た。


「はい、おつかれ様でした〜

結果は30分後に発表しますのでそのままお待ち下さいね〜」

血生臭い作業着を脱ぎ待合室に入ると既に試験を終えた奴らが青い顔をして座ってた。


試験は無事合格。

俺ははれてマーダーライセンス保持者となった。

マーダーライセンス、殺人免許。

これがあれば人を一人殺しても罪に問われる事はない。殺人許可証だ。

これはカードや書類ではなくネックガードの様な形をしている。

一度装着すると専用の鍵が無ければ外せない。

薄く緑に発光している。人を一人殺せばこれが黄色に変化する。

二人以上殺せば赤くなる。

殺しても良いのは一人だけ。更新は5年後だ。


マーダーライセンスをつけ誇らし気に街に出た。


街の景色が一変していた。

『こいつは殺せる』

『こいつも殺せる』

『こいつは難しそうだな』

『あいつ生意気そうだ、ぶっ殺しちゃおうか』

俺は切り捨て御免の侍の様な気分で肩をいからせ街を練り歩いた。





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